④ バスとトイレは一緒です
家で両親と飲んでいてもこれほどまでにひどいのだろうか。
――本当に、どんなに控えめに言っても「面倒」だわ……。
彼女が手も洗って洗面所から出ようとドアを開けると、ぬらりと彼が入り込んできてしまった。
「やっ、やだ――」
「トイレ」
「――え? な、なに、あなたも行きたかったの……そう……」
彼女は彼の横をすり抜けて外に出て、ドアを閉めた。
しかしその数秒後、中からガタガタッ! と激しい落下音がして度肝を抜かれた。
「ちょっと、ロン……!」
彼が倒れてどこかに体を打ち付けたんじゃないか。慌ててドアを開けて飛び込んだ。
「どしたの……っええっ!」
覗いてみて、ぎょっとして声を上げた。
彼は便器ではなくて、浴槽の前にいたのだ。
「だめったら! そこはトイレじゃなくてお風呂でしょう! ちょっと――」
慌てて連れ戻そうとして駆け寄る。
さっきの音はシャワーヘッドが浴槽に落ちた音らしかった。
拾い上げようとして彼の後ろから身を乗り出そうとすると――もう彼はズボンに手を掛けていたのだった。
「いやあ! 待ってったら! だめ――!」
悲鳴を上げて止めようとするがどうやって止めたらいいのか分からない。触るわけにも行かず、肩を掴んで迫るしかない。
「トイレじゃないって言ってるでしょう!」
「ひろいほうがいいってんだ――!」
「はあっ!?」
呆れ返って声を上げた彼女。
――もうほんとに……!
一瞬力を抜いた間に彼はあっけなくそこで浴槽に向かって用を足し始めた。シャワーヘッドを救い出せただけ奇跡だった。
「……」
どうしたらいいか分からず、とりあえず蛇口を捻ってシャワーの水を出してほとんど同時に流すのだった。
決して彼の方は見られない。恥ずかしいやら情けないやらで彼女の胸はばくばく言っている。
――何でこの人が用を足してて隣であたしが洗い流してるのよ……。
水の音で何も分からない。
彼がゆらっと動くので、終わった? と尋ねる。
ううんと面倒そうな声が返ってくる。
「貸せ」
「ちょっと――っ!」
手が一瞬触れ合って、シャワーヘッドがもぎ取られてしまった。
「な、っ、なにを――ああっ!」
気づいたら水が彼女の方にもかかってきた。彼女が濡れたと言うことは、彼は既にズボンもシャツもシャワーの水でびしょ濡れであった。
「やだ! もうやだ!」
彼女は限界で逃げ出した。何とか洗面所から脱出する。
「うう……っ!」
へたりこんで息を整えようとする。
――忘れよう。こんなこと……。