⑥ 復活「ボストン茶会事件」 2
その後研磨は一気にやり遂げた。幸い誰も来なかったので集中力が持続した。
「できた」
思わず声が出る仕上がりだった。マグカップの蓋は、綺麗に成形するのを諦めて、あえて縁が波打った形にしたままだった。まるで雫がぽとっと落ちた時にできる王冠のような波を模った仕上がりになった。
指輪は当然丁寧に成形した。くすんだ灰色だったものは、研磨をしたら本当に銀色になった。
久しぶりに達成感というものを覚えた。
彼は顔をほころばせて、それらを大事に袋にしまって、さっさと片付けをして実験室を後にした。
研究個室に戻って必要書類の確認をしていると、先輩が顔を出した。
「あ、実験室いないと思ったんだよ。――おーっ、『ボストン茶会事件』復活したねえ」
「復活しました」
「……で、『独立戦争』はやるのか?」
「『独立戦争』……なんでしょうかね」
「――ま、頑張れよ」
ぽんと肩を叩かれる。
「これ、差し入れ」
紙袋を渡される。
レーズンの芳しい香りが袋から漂ってくる。見てみるとスコーンだった。
「彼女にもよろしく」
「きっと喜びます」
ありがとうございます、とお礼を言った頃には先輩は出て行っていた。
彼も準備を済ませて、研究個室を出た。
カフェテリアのある建物に着いた時には、彼女と電話してから3時間半くらい経っていた。研磨に没頭していたせいだろう。
彼女のことはすぐに見つかった。
「やっと来た……!」
彼女が席を立って駆け寄ってきてくれる。ぎゅっと抱きつかれた。
「人が見ている」
「関係ないわ」
まるで自分はチョークか石鹸だ。彼女はそんな彼自身のことを擦って染み込ませるように頭をすりすり押し付けてくる。
「待ってた」
懐で囁かれ、マッチで火を点けるように擦られて胸が熱くなった。
彼女と一緒にいるだけで彼の中には色々な気持ちが沸いてくる。達成感も安心感も熱情も。
「今日はもうずっと一緒にいられる?」
「一緒だ」
彼女の方からそんなことを聞いてくれて、「嬉しい」と久しぶりに感じた。
他の人には何を言われても温まりやしない心。今や彼女の言葉だけだった。この冷たい心を解して温めてくれるのは。
彼女がちょっと座ろうか、と言うので、その方がいいと答えて座る。
「紅茶とか飲む、ロン?」
「……人からもらったんだけど、お菓子食べるか」
もらったスコーンの袋を彼女に差し出した。
彼女にプレゼントをすることで頭がいっぱいで、彼女の言ったことに答えていないことに気付かなかった。
「あ、いい匂いがする……あたしが食べていいの?」
「――その前に」
「その前に?」
彼は先にスコーンを出してしまったのをいささか残念に思ったが、きっかけにはなったので良かれと思って、指輪の入った袋を出した。
「これはおれからおまえに」
「――」