⑤ どうしても会いたい昼下がり
その後乾燥させて一見脆そうな粘土を、ガスバーナーで焼いた。
お昼ご飯を食べるのも忘れて焼いていた。冷却を施す間にランチボックスを出してきて久々にちゃんとしたお昼ご飯と言うものを食べた。
美味しいと思った。彼女が早起きして用意してくれたから。端からは理屈屋で面倒に見えても実は単純かもしれない。
――結婚したら、こんな風にご飯を用意してくれるのかな。
考えかけて、彼女だって普段は働いているのだと思い出した。それも遠くで。
途端に胸がきゅっと詰まってきて、ご飯を食べるのを一旦やめてマグカップを手に取った。まだ空のそれを、すりすりと撫でた。
これのおかげでこの半年も乗り切ったようなものだった。本当にしんどいと思った時はこれに接吻をしたし、舌で舐めたし、歯を立てて噛みつきさえした。歯が痛いだけだが、胸の痛みを和らげようとしたら荒療治でもそれをするしかなかった。
「アンジー……離れたくない……」
低い声でぼそっと囁く。
ふと、今彼女は何をしているだろうと思って携帯を取り出した。朝、あれだけ甘えられたのだから何かメッセージくらい送ってくるんじゃないかと思ったが、意外にも何もメッセージは届いていない。――仕事だと思ってくれているのだろう。
我慢できなくて、電話をかけた。10回以上はコール音がしたのに出てくれなくて、諦めて切った。
どうしようと思っていたらすぐに折り返し電話がかかってきた。飛びつくように出た。
「アンジー」
「どしたのロン……ごめんね、トイレいて気づかなかったの。お昼休憩なの?」
「……まあ」
「そう。――あ、今日はちゃんとお昼ご飯食べてね? いっぱい入れたでしょう」
「食べている、ところだった」
そう言うとくすぐったそうな笑い声が聞こえた。
「よかった。――夜はどうしようか、ご飯」
「……昨日の、余ってるだろ」
「そうなんだけど。別のおかずを足そうと思ってるの。サラダが無難かな?」
「アンジー……」
「なに?」
「――会いたい」
「――」
彼女が、小さく声をもらすのが聞こえた。
「話を遮ってまで言うこと……? もう……」
彼女の声は一段と甘くなった。
「……あとどのくらいで帰って来られるの」
「2、3時間くらい」
「そう……じゃあ2時間後くらいに家を出て、それから大学のカフェテリアで待ってるね。そしたらあなたが来た時すぐ会えると思うの」
「本当に会える?」
「今日はね」
「……ん……」
「――フフ、朝は正直あたし甘え過ぎたなって思って反省してたのよ。でもこれでおあいこだと思う。あなただってやっぱり早く会いたいんじゃないの」