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⑪ 実家にて 1



「お待たせ。行こっか」


 彼女がマフラーを巻きながらやってきて自分の目の前で立ち止まった。


 家を出る前に、と思って彼女を抱き寄せて唇同士キスをする。


 虚を衝かれたような小さな悲鳴。その後はひたりひたりと唇を合わせて味わい合った。


 外に出ると、彼女が彼の手を手繰り寄せるようにして取ってくれた。


「……さむい」


「ん」


 寒さから逃れるのは不可能であると知らしめるように空気は冷え切っている。せめてもの救いとばかりにお互いの体を抱き寄せ合って歩いた。




 彼が実家の玄関のドアをノックすると両親が出てきた。


「やあ。お入り」


「こんにちは」


 彼女は律儀に挨拶をした。しかし彼は彼女の腰をしかと抱いたままだった。まるで宝物を拾ってきて、両親に自慢するような顔をして。一方彼女は腰を触られてくすぐったいのか、くすぐったさを我慢して赤い顔を見せてしまっていた。


 そのままリビングに連れて行く。ソファーに座らせた。


「ふたりとも紅茶飲む?」


「あ、じゃあ、いただきます」


 隣に座って、黙って彼女のことを抱き寄せる。髪の毛に唇を当てて頬ずりすると、くすぐったがって変な声を出した。


「やぁだ、もう……っ」


 両親の前でそんなことをするなとでも言うのだろうか。


 やっと会えたのだから好きにさせてほしい。


 懲りずに彼女にすり寄っていたからか、両親が苦笑いした。


「ったくべったりしやがってまあ」


「お父さん、違うんです、うう……っ」


「でもねアンジー、実のところ落ち着きがなくて本当に手が負えなかったんだ……ずっと会いたいって言っていたから。会いに来てくれておれたちも嬉しいよ」


「紅茶できたからいらっしゃい」


「ロン、お母さんが紅茶淹れてくれたって、ね……」


「まだ」


 立とうとする体を押さえこむ。


「もう、お話ししに来たんでしょう……いちゃいちゃしに来たんじゃないわ」


「まだ……っ」


「まあ、そいつの気が済んだら話そうや」


「せっかくのお休みを、あたしたちのことで時間取ってごめんなさい」


「ていうか、うちの息子がむしろ君に時間を取らせてるんだ。気にすることないよ」


 両親の言葉など耳に入ってこない。大好きな甘い声ばかりを耳が求めていた。



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