⑦ 突然じゃない
大事な婚約者。
あの時、ひょんなことだったけれど、彼の中に生まれた新鮮な響き。半年かけて確固たる響きになっていた。
いつか自分と結ばれる身。自分は彼女と結ばれる身。
ではいつ結ばれるのだろう。
いつしかそればかりが疑問に思われてきた。
彼は声を上げて立ち上がった彼女をぎゅっと抱きしめた。
――早く結ばれたい。
「もう会えたから急がなくて大丈夫だろうけど」
「まっ、まって、いろいろ……あっ……」
腕の中でもごもご言う彼女ごと、ベッドの上に乗っかって一緒に横になった。体の下から毛布を引っ張って、自分たちの体の上にかける。
「さむくないか」
「さ、寒くはないけど。でもまって――」
慌てたように背中を向ける彼女。後ろから抱きしめる。
「こうすればもっと寒くなくて済む」
「そっ、そうかもしれないけど、あの――ううっ」
後ろから頬ずりしたらくすぐったがった彼女から変な声が出てきた。微笑んでさらにすり寄せる。
「ロン……っ、あの」
「――なんだ」
耳の近くで彼女の声がする。
「結婚……て、その、どういうことか、分かって、言ってる……?」
「どういうこと? ――なんだ、本か何かで調べ直して来いとでも言うのか」
「そっ、まさかそこまで言ってないわよ、でも……何を思って、その、今言ってくれたのか、説明してほしくて……。何でかって言うと、あたしはそれを今急に聞いたから、びっくりして……っ」
「確かに口にしたのは今初めてだったっけ」
「口にしたのは――!?」
がば、と自分を振り返る彼女だ。ちょうど目の前に唇が現れたので、愛おしくて、口づけをした。
「んぅ――」
まって、と苦しそうな声がして、頬に手が当てられて引き離された。
「……てことは、もう、ずっと考えて、くれてた、の?」
目の前で混乱したような目をする彼女。
「結婚したらずっと一緒だ」
「……そ、そう、かな……?」
「誰にも邪魔されない」
「邪魔はされないけど」
「社会的にふたりでいることが認められる」
「……」
彼の意に反して彼女の目は曇っていくばかりだ。
しばらく彼女と無言のまま見つめ合った。
「……本で調べた方がいいのか」
そう言って起きようとしたら止められた。
「合ってるわ。きっと、あなたのイメージする結婚って」
「そっか」
――あ。
彼女の制止をやんわり拒んで起きた。
「な、に……どしたの?」
「薬飲む」
「そう」
変なところで思い出したような気はする。