⑤ 突然すぎる……
彼がお風呂に入っている間、髪を乾かして寝る準備を整えた。
ベッドに腰かけて待っていた。
ベッドの上に彼の紺色のカーディガンが残されている。くたくたになったそれを拾って膝の上に乗せた。
自分の携帯を見るといくつかメッセージが届いていたので全て読み、親からの連絡には今答えておき、職場の後輩からの連絡は明日の早朝にすることにした。
彼女の両親も彼のことを心配していた。
普段彼に会う機会が彼女よりはあるはずだけれども、最近会っていないから様子は分からないと言っている。ただ、家族づてに彼の状態が良くないらしいことは聞いたのだと。
今彼女が彼のところに泊まっているけれども、大丈夫かと。
彼女は今日直接聞いた話をしてしまいそうになった。慌てて打ち込んだ文を消す。
彼がまず自分の家族に言っていないのだから、それよりも先に言ってはいけない気がして。
――大丈夫、と答えるしかなかった。
バスルームの方からがた、と物音がする。
そのうちに彼がバスルームから出てきた。
「ドライヤーない」
「ごめん、あたしが使ってた」
今の様子を見る限り、彼が落ち着いているのは彼女と一緒にいる安心感のおかげだと言ってもいいんじゃないか。
半年間ずっとずっと待っていて落ち着かなくて、やっとその欲求が満たされたのだから。
髪の短い彼はドライヤーをすぐに切り上げて彼女の前に戻ってきた。
「カーディガン着る?」
膝の上に乗せていたカーディガンを差し出すと、腕がぬっと伸びて来て引き取った。
「アンジー」
「なぁに?」
カーディガンを着終えた彼。
頬がお風呂上がりでいささか上気していた。
心なしか表情も柔らかく穏やかで、目は艶を帯びていた。
痩せてはいるけれど、急にその顔が幸せそうに見えてきた。
何となく察しはついた。このまま一緒に寝たいのだろう。
「……」
黙って彼を見上げる。
胸は早速早鐘を打ち始めていた。
「アンジー……」
「なぁに」
同じやり取りを繰り返した。それ以上言葉を交わさずさっさと隣に来てくれるんじゃないかと思っていただけに、いつまでもそこに立っていられるとどうしたらいいか分からない。
彼女がここにいて嬉しいのか、彼はふっと微笑んだ。
――何もしてないのに、満足なのかしら。
余計彼女の胸は高鳴った。
もう大人しく寝たらいいかもしれない。「寝よう」と言おうとした。そこを彼の声が遮った。
「いつ結婚する」
前章でのひょんな言葉がここで……!?