③ 一緒がいいのは 2
――彼の今の状態を知りたい……。
そう思いながら彼の背中をさすっていると、呼吸が落ち着いてきた。
それから彼は彼女の心の声に奇しくも答えるように、ぼそっと言った。
「くすり……飲んで、治療するか、少しもめていて」
「……何かその、診断はされているの……?」
「いや。経過観察、ってところかな」
彼はベッドの木枠に手をついて机に手を伸ばす。机の上にあったプリント資料を引っ張ってくると彼女に差し出した。
パンフレットのような案内書だった。薬の処方についての案内のようだ。
所々に医師かカウンセラーかが書き入れたのか、マーカーで強調してある。
聞くと、「心身の不調があまりに生活に支障をきたすならば薬で治療した方がいいかもしれない」と言われたと打ち明けてくれた。
もっとも今そう言われてもピンと来ないというのが正直な気持ちだという。
生活を改善すれば楽になってくることも十分に考えられるようだ。だからまずは生活習慣を改善するようにと言われているらしい。
「自覚しろって……まずは心の乱れは生活の乱れってのを自覚しろって、……今日その、ちゃんと診察受けていて……カウンセラーの先生に紹介されてだけど……医師にも言われて、……でも、わかんない。時間がかかる」
「そうよね。何か体に基準があるとかじゃないんだからね……」
「もしかしたら違うかもしれない」
「まあね。でもお医者さんはプロよ……きっと何人も診てきてるから、ロンのことも助けたいって思ってくれて……」
「……」
「これ、このこと……ええと、今日は遅いわね……あたしが来ちゃったから。ごめんね大事な時に来ちゃって」
「アンジーはそれよりも大事だからどうもしない」
ふいにそんなことを告白されると図らずも胸が熱くなってしまう。
「ロン……お父さんお母さんに言いに行こうか、明日でもいいから」
「……」
「心配してると思う。でも今日は、あたしと一緒にいたいって言ってくれたから……そう、しよう、ね……?」
「……ずっといっしょだ」
「ずっと……。――ん、話してくれてありがとう。……生活の見直し、心がけてるならよかった。本当にロンのペースでいいって思う。こういうのは、急ぐものでもないし、急いだら余計わけがわかんなくなりそう」
「……食欲が、本当にない時もあるし、……ただ、食べる行為が面倒だから、食べないこともある」
次に言ってくれたのはさっきキッチンで聞いたことに対する答えだった。
「そう。じゃあいずれにせよ、誰かに……それこそ実家に出向いてご飯を食べるっているのは得策だね。じゃあ……今あたしがご飯を作ったらちゃんと食べてくれる?」
「アンジーは……料理をするんだっけ」
「なっ! なによ――からかってるの」
ついむくれて彼を睨む。
目が合った。
すぐに彼は目を揺らがせて、宙を見て微笑んだ。
「作ったら、食べないと腐ってしまうな」
「ああ……食べないといけない、と思わないと食べられないのね……? だから保存の利く食品は食べない。あまり食欲がないから」
「ん」
「なるほど。『食べないといけない』だとちょっとつらいんじゃない……」
「ん」
「睡眠は? よく眠れる……?」
「――それに関しては薬を前から使い始めた」
「そうだったの」
それもカウンセリングで相談したうえでらしい。
「あんまり寝られない……寝つきが悪いから」
「ちょっとは楽になった?」
「たまに……休みの日はよく……」
彼の手が心もとなそうに伸びてきて彼女の手を握った。宥めるように握り返す。