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① やっと会えたね


見えなきゃ分からないわよ

誰がそう決めたの?




 彼は通常生活があまり上手く送れない状態になっていた。薬を飲んで治療するほどではなかったが、予備軍の可能性があるとして大学病院のカウンセリングを受けていた。


 彼女は春の帰省中にそのことを聞いた。


 3日ほど彼女は実家にいたが、その後彼に会うことになった。連絡したらまだ大学にいると返ってきたので、大学のカフェテリアで待ち合わせをした。


――彼はどんな顔をしているだろう。


 ポーカーフェイスのあの顔は、今はどうなっているだろう。


 温かい紅茶をドリンクスタンドで買ってきて飲みながら待った。


 かつては教科書を読み耽りながらここで友人を待ったり、彼を待ち伏せたりしていた。仕事に就いてから読書量は確かに減ってしまった。


 彼はどうだろう。


 相変わらず下宿先の狭いワンルームには本棚があって、下から上までぎっしり本が詰まっていた。「これでも減らした」と言っていたくらいだ。


――まあ実家が同じ街だから取りに行けるもんね。


――今は本読むかな。


 電話で聞く限り時折仕事を休んでいるようなので気が向けば読む時間はあるだろう。


――ロン、……あたしにどんな話をするんだろう……。


 落ち着かなくてきょろきょろしてしまう。


 初めてこの大学に来た人のように。実際は7年もここに通ったと言うのに。




 入口を抜けて中に入って来た彼のことを、すぐに見つけられた。


 比較的入口に近いところにいたので向こうもすぐに気づいてくれた。


「ロン――……っ」


 思わず立ち上がって駆け寄った。ひしと抱きつく。


「ロン……っ、会いたかったの……」


「ん、あいたかった、な……」


 消えかけの低い声がする。


 コートのおかげで着膨れていた彼だが、腕を回してみてかなり細いと思った。


 ちょっと体重を掛けたら彼女諸共倒れ込んでしまいそうだった。


「ロン……また痩せたみたいね……」


 彼のマフラーに顔をうずめたまま口を開く。


 そっと自分の背中に腕が回された。


「……どう、調子は……アンジー……」


 小さな声が返ってきた。


「ああ、あたし……? 全然、風邪なんか引いてない」


「アンジーは風邪なんか引かないな、確かに」


「うん……」


 そっと顔を離して彼の顔をうかがう。


 目が合った。


 半年間ずっと「いつ会える」と聞いていたのだから、やっと会えて満足そうな目をしている。口元もほころんでいる。


 しかし相当頬がこけて青白いのだった。


 そして少ししたら目がふらっと揺らいで伏せられてしまった。


「……」


 何を聞いたらいいか分からない。


 ひとまず座るよう勧めた。


「ええと……大学、いたんだよね?」


「ん」


「大学で何を……?」


 おずおず尋ねる彼女を彼は首を傾げて見ている。


「何を疑っている?」


「あ、何も……聞いていいのかなって思って。プライベートのことだろうから」


「でも聞いている」


「ちょっとは気になるから」


「……」


 彼がふいと黙ってしまった。


「あ――っ、いいのよ、答えたくないのなら全然……」


 しかし彼は徐に携帯を出して何やら操作し始めた。


「……アンジーに会ったからそのまま家に帰りたいんだ」


「そのまま? どういうこと?」


「それを今伝えたら、もう帰ろう」


 彼は誰かにメールを打っているようだった。


「だれ? 親御さん?」


「ん」


「そう……最近は、実家に寄っているの?」


「……ご飯が上手く食べられなくて」


「上手く……?」


「1人でいると果物しか食べないから……仕方ないんだ。先生と両親とがタッグを組んでしまったから……半ば約束事で」


「だからたまに実家でご飯を食べるってことね?」


「ん」


「今日はいいの? まあ、あたしと何か食べたらいいのよね、ちゃんとしたの」


「ん」


 携帯をしまった彼は彼女より先に席を立って、帰ろうと言ってきた。


 特に反対する理由がなかったから、ついて行く。


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