⑦ 時が流れるということ
「年末は実家に帰るの?」
「……あ、おれが? ……なんで?」
「何で? 逆に帰らないの? あたし年末実家に帰るつもりで……」
「年末?」
「半年後でしょ? 違うの、実家には帰るけどちゃんとロンに会いに行くから大丈夫だよ……?」
「……」
――年末か。
彼に「年を越す」という概念が生まれて来なかったので何も返せない。実家に帰る。これもまた何も考えていなかった。
「……おれ何考えて過ごしてるんだろう」
「難しい問いね」
「難しい……。半年後のことなんて考えたくない」
「……そういう気持ち?」
「『真実』か『真理』の存在がありがたいと思ったことはない」
「……時が経つのが嫌なの?」
「……なんていうか。時の流れに乗るのが……嫌だ」
「……」
――時の流れに乗れない自分も嫌だ。
――いつ乗らなきゃいけないって決まった?
彼女にこんな気持ちをぶつけたことはなかった。言い出したら止まらない。
「何で時は流れる? どうもおれは来年まで生きなきゃいけない……何で?」
「ロン――っ」
そんな難しいこと言わないで。
電話の向こうで悲しそうな声がした。冷たい雨が落ちるように。
「ロン、……でもね、今はこう思っておいたら気が楽にならないかな」
――時が流れなきゃいけないのは、半年後にあたしとロンが会うためなの。
「……」
胸のつかえは取れない。
けれども、温かい手のようなものが自分の胸に置かれて、つかえを解してくれていた。
「どう、納得……する?」
「……それは何で半年後だ?」
「もっと難しいこと聞いてくるのね」
「……半年後じゃなきゃいけない?」
「じゃあ、……明日ならいいの?」
「……」
そう聞き返されると複雑な気分だった。
「明日会えたとして、半年後は? 半年後はどうしてるの……?」
「明日会えたとしたら半年後も一緒だ」
「本当にそう思うの? ――そう言ってくるとは思わなかったわ……」
真理や真実は普通、時を超える不変のもの。言ってしまえば時の流れなど関係ないもの。
それに引き換え、時が経てば消えて行く自分たち。
時の流れにばかりほだされるのがつらいのです。
そういう気分を滲ませて。
時が流れる意味を……前向きに捉えられるようになれたらいいな。