パパ、みためはこわいの
お久しぶりです。ドラクエビルダーズ2 にハマって遊んでました。すごいっすよ、RPGに出てくる家とか宿屋とか自分で建てられちゃうの……お城も建てられるの……
翌朝、目を覚ました私は俊英君の部屋で眠ったことをちょーっとだけ忘れていた。
「……?」
寝起きはいつもぼんやりしている。
この身体じゃない頃は朝からシャッキリしていたんだけど、今の身体になってからはすっかりこうだ。ちょっとお嬢様っぽいなと思わないでもないけど、なかなか身体がお目覚めモードにならないのは大変だ。
──毎晩何かの夢を見ているみたいなんだけど、意識が戻るとすっかり覚めてしまうみたいで、どんな夢だったのか思い出せない。夢と現実の境界が曖昧な朝は、まだその茫洋とした海の中にたゆたっているような、でもその中からひとかけらも拾い出せないもどかしさがある。
いつもの天蓋付きの寝台の天井をぼんやりと見上げ、そのカーテンの刺繍の模様を数える。よく観察しなくてもいつもと色も柄も違うから気付いてもいいものだけど、寝ぼけ眼はただ目の前の景色を映しているだけだった。
「ふわあ〜」
……もうそろそろ彩さんが起こしにくるかな。
やっと頭が少し働くようになってきた。ねぼすけだって呆れられないようにしないと。
寝転がったまま両手足を伸ばして身体に酸素を取り込もうとしたら、ゴツンと何かに右手がぶつかった。
ん、なんだろ? ぶつけた何かのほうへ顔を向けて、ぎょっとした。
黒っぽいなにかがもぞも動いている。髪の毛? え、怖い。
「ぅ〜ん……」
髪の毛がしゃべった!!! びっくりして眠気はどこかに行ってしまった。
それでやっと思い出す。
あ、これ俊英君だ。
この髪の毛は俊英君の後頭部か。なあんだ。そういえば昨日は夜中に俊英君の寝台で寝ちゃったんだった。
男女が同じ布団で寝るなんて不謹慎だとかどうのとか、私の元の身体の年齢ならその通りだし、相手が相手だから犯罪だけど、今は子供だし、まあ気にしない気にしない。
私が部屋からいなくなって、彩さん心配してるだろうな。いや、最近淑女教育に熱が入ってるから怒って大目玉くらうかもしれない……。早く戻らないと!
寝台から降りて、朝の冷気が布団の間に潜り込まないようにそっと直す。
「むぅ〜……」
俊英君が寝返りをうってこっちに向いた。
あ、枕でほっぺた潰れてる。ふっくらしてて可愛い。泣きべそかいてなかったら普通の子供だな〜。
にしては睫毛が長いかな。将来は秀英おじさんみたいなイケおじになるのかな。ううむ、この物語の世界って顔面偏差値高めだな。
寝返りで首元の上掛けがはだけて寒そうだったので引き上げてポンポン叩いてやる。昨日まで泣き虫俊英君だったのなら寝不足のはずだ。自分で起きてくるまでそっとしておくように頼んでおこう。そう考えながら部屋を出た。
廊下に出ると、部屋の前に雪影が立っていた。
朝の明るさの中で黒っぽい私兵の格好はものものしくなりそうなものだけど、雪影の場合は様になっている。制服効果みたいなもんだよね。男ぶりが上がるのだ。
「あれ? おはよう」
「おはようございます」
「セツエイ、シュンエイさまのケーゴしてるの?」
「いいえ。私の任務はお嬢様の警護です」
私がこっちにいるって知ってるってことは、夜中も私の傍にいたのかな?
そういえば、私の警護に雪影以外がついてるの見たことない。もしかして年中無休で働いたりとかしてる?
「セツエイ、やすむのだいじだよ。キューケイ、キュージツ、ユーキューはちゃんととりなよ?」
「……はい?」
「なんでもなーい! サイさんもうおへやにいる?」
「はい。こちらにいることはお伝えしましたが、ひと言申し上げたいことがあるそうです」
うっ、予想通りか。
「わかった〜」
私はちょっとしょぼくれて部屋に戻った。中では彩さんが腰に両手を当てて仁王立ちしている。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「た、ただいまもどりました」
目、目が怖い。彩さんはたじたじな私の様子にひとつ溜息を吐くと、寝台の上に置いていた着替えを広げ始めた。
「俊英様のご様子はどうでしたか?」
「え、あ、うん……よなかにおまもりがないってないてたの」
自分で帯を解いて彩さんの広げる着物に袖を通す。
「お守り、ですか?」
「うん。だいじなこがたならしいんだけど、サイさん、シュンエイさまのおきがえしたときにでてこなかった?」
「……」
「サイさん?」
「俊英様がお目覚めになったら、お部屋に参りましょう」
「うん」
一緒に探してくれるのかな? 後は彩さんに促されるままに着替えた。
俊英君は自然に起きるまで寝かせておいてくれることになったので、私一人でご飯を食べた。
そういえば今日はパパの日だ。ってこれだと父の日みたいだな。パパが体術と方術を教えてくれる日だ。
午前はお茶を飲んだりしてゆっくりして、昼餉の後に拳法着に着替えて練武場へ向かった。
「しつれいしまーす!」
練武場に入るときに挨拶する。礼儀は大事ってことじゃなく、みんなの気合の声で人が入ってきたことに気付かなかったりするから、意味としては春風参上! みたいなもんだ。
「パパ、きょうもよろしくおねがいします」
天生パパは先に私兵さんたちの指導をしていた。ぺこりとお辞儀すると、デレっと相好を崩してこっちを見る。
「よし、それじゃあ今日も始めるか」
「はい!」
今パパの授業は奏家の伝統の型を教えてもらっているところだ。
基本の型が八つあって、完璧に覚えるまでは次の型に移れない。今は三つ目だ。私の歳にしては早いらしい。まあ、中身大人ですからね〜。
ところどころ風がブワッと出ちゃうんだけど、そこはパパが自分の技で相殺してくれる。
「ありがとうございました!」
今日も無事に授業を終えてお辞儀をすると、パパがグローブみたいな手でポンポン撫でる。
「お疲れさん──春風、後で俊英の部屋に来なさい」
「俊英様、起きたの?」
「ああ。少し、話さなければならんことがある」
「?」
パパはちょっと難しそうな顔をした。やっぱり同じベッドで寝たのまずかったかな。いくら子供でも父親としては複雑だったりするのかな。
一旦部屋に戻って汗を拭ってもらい、着替えた後で彩さんと俊英君の部屋に向かった。
中に入ってギョッとした。
天生パパはいるだろうと思っていたけど、雪影と二人で俊英君を威圧するように立っている。
紅一点の彩さんが緩和剤になってればよかったんだけど、彼女の両脇に立つ男二人は男の中でも特別威圧的な外見と身長と声のデカさ低さ、目付きの悪さ、もろもろが子供を泣かせる要因になる選抜メンバーだ。なんなら我が家でドキッ! 強面さん選手権の優勝と準優勝獲得してる奴らだ。
案の定俊英君は怯えて涙目になっている。しゃくりあげてないだけ男の子らしく頑張ってると思う。
俊英君の広い部屋の真ん中で、大人三人対子供一人ってのはなかなか可哀想な構図だ。
私は冬場のチワワみたいに震える俊英君の前に立って大人たちに相対した。
「パパ、セツエイ、もう少しあっちいって! シュンエイさまがこわがってるよ!」
「んあ?」
「……失礼しました」
パパは怪訝そうな顔をして、雪影は申し訳なさそうに数歩下がった。
自分が子供を泣かせる外見してるって理解してるのとしてないのの差だな。天生パパの自覚のなさには私のせいもあるだろう。岩男みたいな外見にどぎつい髪と目の色でもよく泣かずに付き合ってると我ながら思うもんね。でも話してみれば気さくなおじさんなので、そこら辺のギャップで子供が懐くタイプなのだ。パパの良さは春風ちゃんとわかってるよ、ドンマイ。
「パパ、みためはこわいの。シュンエイさまないちゃう」
「な……! そんな怖い男じゃないぞ、俺は!」
反論する声がもうでかい。部屋にビリビリ反響する余韻にげんなりしながら、私は腰に手を当ててパパを睨む。俊英君はヒッと息を飲んだ。
「……わかった。これでいいか?」
「うん。パパがいいひとだってのは、わたしちゃんとわかってるからね。でもシュンエイさまはまだしらないもの」
「は、春風! こんなに優しく育って……!」
「パパ、こえはもうちょっとちいさくして。ここドージョーじゃないんだから……」
うぉーんと獣みたいにむせび泣く父親をもう一度睨んだ。
背後からくんっと袖を引っ張られる。振り返ると、怯えた俊英君が私を見上げていた。頼りに思ってくれてるらしい。ちょっとだけ嬉しい。
「これでは話もできませんから、あちらに座ってお茶にしましょう」
彩さんが助け船を出してくれた。俊英君の部屋に備え付けられた長椅子と一人がけの椅子に斜向かいになって座る。
大人たちが三人長椅子で並ぶのはなんだか可笑しな風景だ。私と俊英君は一人がけの椅子に半分ずつ座って、間に挟んだローテーブルの上で彩さんがお茶を淹れてくれるのを眺める。
土色の茶器がお湯を浴びてツヤツヤ光り、フタを開けると中に湯が注がれていく。ゆらゆらと立ち昇る湯気があたりの空気まで和らげてくれるようで、みんなだんまりしてるけど、嫌な空気ではなかった。
意外にも、一杯目のお茶を飲み終わるまで、パパは口を開かなかった。
普段は親バカで何かと騒がしい人が実は勲功を挙げた大将軍だという部分が垣間見える。大きな手で持つと茶器がすごく小さい。パパや雪影、彩さんにチラチラ目を向けてソワソワする俊英君には私が茶器を手渡したり、こぼさないように支えたりしながら落ち着けた。
一杯目のお茶を飲み終えて、天生は懐から布に包んだものを取り出して机に置いた。
「それは?」
私が覗き込むと、パパはさっと包みを解いた。俊英君があっと声を上げる。
「ぼ、ぼくの……!」
「いいや、これはお前のものではない。わかっているはずだ、青俊英」
思わずパパの顔を見た。すごく冷たい声だ。パパは厳しい目を俊英君に向ける。
「これは青家に代々伝わる守り刀だ。昔、王を支えた四家が下賜された宝物の一つ」
確かに、すごく古くて美しい小刀だった。
柄には青龍が雲と舞い遊ぶように飾り彫りされている。刃はうっすらと青みを帯びていて、水面のように滑らかだ。あれ、そういえば、鞘がない。
ヒクヒクッと隣から喉を震わせる音が聞こえてくる。俊英君に目を向けると、彼は目に見えるほど青ざめて震えていた。昨日かいていた泣きべそとも違う、追い詰められた子犬のようだった。
「昨日、酒の席で秀英が嘆いてな。重病の父親──俊英の祖父の枕元に、お守りとして宝物の小刀を置いた。そして亡くなった後、枕元にあったはずの小刀が、鞘だけ残して刀身がどういうわけか消えてしまったと」
「……」
「そして昨日、彩がお前の着物からこれが出てきたと俺に知らせてきた」
「っ」
「どういう訳か教えてもらおう、俊英。なぜお前がこれを持っている?」
俊英君は今や顔面蒼白でパパの質問に答えようにも恐怖が大きいのかただはくはくと口を動かすだけだった。
「ご……ごめ、なさ……」
か細い息でそう言うのが精一杯。でもあれほど途切れなく泣いていた目は、潤んでいてもひと雫も涙をこぼさない。ゆらゆらと暗い水面のような色が浮かべているのは、私の目からは罪悪感に見えた。
「ぼ、ぼく……おじいさまもだいすきだけど、ばあやもだいすきで……で、でも、あんなことに、な、なるなんて……」
青家の宝の小刀はただの宝物ではないらしい。
清冽至純と呼ばれる、古い力を持つ霊験あらたかな刀。ある方法で用いると万病に効く薬を作り出せる。
青家の親から子へその秘法は伝えられ、受け継がれてきたそうだ。
薬を作り出すだけでなく、清冽至純の持つ霊力で病を遠ざけ、心身を守る。
俊英君は、病床のお祖父さんの枕元に置かれていた清冽至純を刀身だけ引き抜いて、少しの間借りるつもりで持ち出した。流行り病に冒された自分の乳母に薬を作るために。
「冬の間、都を騒がせていた病だな。俺の妻も、春風もそいつにやられた」
天生パパは痛ましげな顔で私に目をやる。
大事な奥さんを失ったことへの悲しみと、私の母親を奪ってしまった申し訳なさ、だろうか。私は手を伸ばして斜向かいのパパの服の袖をぎゅっと掴んだ。
「おいしゃさまが、ながくはもたないって、ぼく、そんなのいやで……こ、こわくって」
彩さんが俯いて顔を手で覆った。我が子ではないけど、面倒を見てきた子どもの気持ちも乳母の気持ちもわかるのだろう。
「でも、それでおじいさまがしんでしまうなんて、ぼく、お、おもわなかっ……」
ごめんなさい、と喉の奥から絞り出すように謝って、ぽろりと目の端からひと粒涙が転がり落ちる。
俊英君がここへやってきたとき、お父さんが弱った奥さんを休ませることを優先させた。それはいつだってどこにだってあるものだ。
なんでもない日常なら些細なことでも、人の死に目に起きてしまえば後悔になる。
俊英君のしてしまったことはいくらでもやりようがあったはずだけど、子どもの判断力でそこまで上手くやれるはずもない。
「俊英」
それまで静かに話を聞いていた雪影が口を開いた。
「お前はただの子供ではない。四家を担う青家の嫡子だ。お前がしたことは、許されることではない」
重い言葉は彼も四家の一人だからだろう。厳しい顔でまっすぐ涙に濡れた俊英君を見つめる。
「お前の選択が誰かを生かし、誰かを殺す。青家で生きていればまた同じことをせねばならぬときがくるだろう。それも何度も。自分の選んだことで何がどうなるか、きちんと見定めてから行動するんだ。でなければ、お前の祖父も浮かばれぬ」
「セツエイさま……」
今は世間の目を欺くためにうちの私兵として働いているけど、俊英君は玄家の嫡子の雪影と面識があるんだろう。同じ四家の責任を負った彼の言葉に、小さな頭をこくりと動かして真剣に頷いた。
最後に乱暴に手でこすって拭った後、それっきり彼の目に涙はもう溢れなかった。
その後、天生パパから俊英君の父上へ知らせがいった。
秀英おじさんは翌日うちへやってきた。渋い色味の服装で我が家の応接間の長椅子に座る姿を見ると、一昨日と比べて少し顔色がいい。俊英君のことや奥さんのことでこの人も悩んでいたんだろうな。
秀英おじさんの向かいには俊英君が座っていた。斜向かいでパパが真実を話すのに硬い表情で耳を傾けている。
「やはりそうでしたか……」
彼がしたことにはなんとなく気付いていたのだろう。父親であり、青家の主人だ。自分の父親の容体の急変と息子の乳母の奇跡的な回復を照らし合わせれば、すぐにわかる事実だろう。
それを指摘して息子を責めなかったのは、子供に自分で過ちを認めて成長してほしい親心なのか、厳しく接して怖れられるのを恐れた甘やかしなのか。
どっちにしろ子育てって難しいんだなって思うし、政権を担うお偉いさんでも一人息子にはどう接していいかわかんないこともあるんだなーと青秀英という人の不器用さを垣間見た。
深い溜息を吐いた後、おじさんは水底のような色の目を息子に向けた。
「俊英。お前のしたことの罪の重さはわかるな?」
「は、い……」
ぎこちなく頷く様子は可哀想だった。
「床についてはいたが、お前の祖父はまだその知恵で青家を支えてくれるお方だった。あの小刀で命を繋いでいた意味を、お前は無駄にしてしまった。その罰は受けねばならぬ」
「……」
「そんな、でも」
「やめなさい、春風」
パパが身を乗り出した私を厳しい声で嗜める。
「でも、パパ……」
「これは青家の事情だ。俺達が口を出すことはできない」
「ええ、そうです」
秀英おじさんは重々しく頷いた後、目尻を和らげて私たちを見た。
「ですが、私は貴方がたに関わっていただきたい」
「ほう?」
「息子は此度の件で家から勘当します。私が許すまで、青家の名を名乗ることも、家に戻ることも許さぬ」
「そ、そんな、ちちうえ……」
「そんな!」
「そこで相談なのですが、天生将軍」
宰相職の中書令がわざわざパパに向き直って頭を下げる。
「貴方のところで預かって、息子を鍛えてはいただけぬでしょうか?」
「えっ」
「え」
「そういうことか」
頼まれたパパはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。パパって私兵や軍人を面倒見てるだけあって、人を育てるのは得意で好きだからこういうのは大歓迎だろうな。
「任せておけ、俺のところにはお誂え向きの道場もある。五年もあれば文官向きの人間でも一人前にはなるだろう」
「ご、五年!?」
おじさんが目を剥く。息子に罰を与えるついでに心身ともにここで鍛えてもらおうとかたくらんだけど五年もかかるとは思わなかったんだろうな。言っても一人息子だし五年も離れるのは流石に寂しいでしょ。
「どうした? お前の息子には無理か」
「い、いいえ! そんなことはありません! 息子は優しい子だし、五歳にしては聡明です! きっとここでも十分にやっていけるでしょう!」
あっ、この人も親バカだった。
さっきまで叱られていた俊英君をちらりとみると、キョトンと父親を見上げている。目の前で褒められたことに驚いていた。
「ならば良いではないか。俊英は奏家が責任を持って預かろう。安心しろ、腕利きの私兵もいる。お前の邸からも近いから、奥方が寂しくなれば会いに来れば良い」
「そ、そうですね……」
パパの挑発に乗ったことが悔しいのか、おじさんはコホンとわざとらしく咳払いをして卓の上にあった冷めたお茶をひと啜りした。
「では、俊英。しっかりと天生将軍に鍛えていただいて、青家の名に恥じぬ男になるのだ。それまでは家に戻ることまかりならん。私もお前の母も、待っているからな」
「は、はい」
「しっかりとやるのだぞ、息子よ」
「はい……ちちうえ」
秀英おじさんの目の色は俊英君にそっくりだった。
水面のように美しくきらめくかと思ったら、深い色をも讃える青色。二つの眼差しがゆっくりと見つめあって親子の絆を確かめていた。
「それからこれは、お前に預けよう」
おじさんは懐から布で包んだ鞘を取り出した。
螺鈿で繊細な鱗の模様が施されている。昨日見た小刀を納めれば、一対で水から飛び立つ龍のようだと思った。
「清冽至純はお前の心身を健やかに保つだろう。──奏家の人を家族と思って大切にしなさい。彼らは肚の中で企むことが出来ない人ばかりだからな。遠慮することはない」
「おい」
パパが笑いながら横からおじさんを小突く。秀英おじさんは宮中では中書令で、一筋縄ではいかない相手と仕事をしているのだろうけど、パパの前では砕けた態度だった。
父親同士のやりとりを眺めていると、袖をくいっと引かれた。
顔を上げると、俊英君がじっと私を見つめている。なんだろう? 心配しなくても、うちはご飯も美味しいし彩さんも優しいし、雪影もからかい甲斐があるし、お風呂も広いし、楽しいところだよ〜。とは言えないので首を傾げてへらっと笑う。
不思議な海の色の目はしばらくの間私から離れることがなかった。
泣き虫俊英君は書いてるとなんか可愛くなってしょうがないキャラです。結構ポテンシャルある美形に設定してるんだけど、泣き虫が第一印象になってしまってしばらく美形に気付けないだろうな、春風は