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親バカじゃない?

今回すごい短いです。

「ふっふっふ……」


 私は真新しい道着を着せてもらいながら幼女らしくない悪い笑みを漏らした。


 生成りの生地は柔な育ちの春風ちゃんにはゴワゴワだけど、私にはしっくりきて懐かしい。動きやすい沓を履くと、もう準備は万端だ。


 鏡の前に立つ私を見ながら、彩さんは微笑んだ。


「嬉しそうですわね、お嬢様」

「うん」

「天生さまと一緒に過ごす時間が増えますものね」

「えへへー」


 そっちはあんまり主眼じゃないんだけど、彩さんが嬉しそうなので正直には言わないことにした。今日の私はご機嫌なのだ。


 だって身体が動かせる。しかも中国拳法っぽいものが習えるときたら、これがワクワクしないでいられようか!

 今まで私が習ってきたのは空手に剣道、殺陣やフリーラン。レパートリーが増やせるのは大歓迎だ。


 昨日琥珀様と一緒に練武場に行って、天生パパに頼んだのだ。

 娘に甘いパパのこと、「パパみたいになりたい」って小首を傾げてお願いしたらすぐにOKがもらえた。あんまりにもチョロすぎじゃないですかね。自分がやったことながら、春風は心配です。


「お気持ちはわかりますが、くれぐれも無理はしてはいけませんよ。疲れたら休みながらで」

「はーい」

「雪影にも頼んでおきますからね。天生様は頑丈すぎて幼い子供の体力を測り損ねそうですし」


 ありそうだな〜。パパって彩さんから見てもやっぱりそういう人なんだな。


「お迎えにあがりました」


 戸口の前に雪影が立っている。今日は彼も一緒に訓練するのか、紺色の道着だ。


「セツエイ!」


 雪影に飛びついてぎゅっと脚にしがみつくと、彼はオロオロと手をさまよわせた。

 子供の扱いに慣れてないんだよね。でも顔を見れば目尻がピクピクしてるから嫌そうではない。こうやってわずかな変化を見つけるのが楽しくてやめられない。


「くれぐれもお嬢様のことを頼みましたよ」

「はい」

「いってきまーす!」


 彩さんに見送られながら、琥珀様の部屋へ向かった時のように雪影に抱きかかえられて練武場へ向かった。




「今日は基本の型を覚えよう」

「カタ?」


 練武場に入ると、天生パパと向かい合って早速最初の授業が始まった。


「ああ。奏家の能力に合わせた型だ。力が発露しなくても最小限の護身術になるから、これは覚えておくといい」


 始めの構えから、天生パパはひとつずつ見本となる動きをとっていった。

 私が真似して動くのを確認してから次の動きを見せる。身体の大きさに似合わず教え方が丁寧だ。

 考えてみればこの邸で十数人の精鋭を育てるだけでなく、宮中では大将軍として軍人を育てているのだ。人の上に立つこと、能力を把握することに長けていないわけがない。


 それにしても、この奏家に合わせた型とやら、少し後ろに重心を置く立ち方で、掌を突き出したり相手の拳を受け流したりする。

 パパは正面に向かって進む歩き方と、円に沿って動く歩き方を教えてくれた。


「手は身体の使い方によって拳も指先も使う。相手が打ってきたらこう流す」

「こう?」

「覚えが早いな」

「パパ、おしえかたじょうずだもん」

「そうか! 爸爸は天才だからな! わはは!」


 型をやってるとかっこいいのに。デレッデレに鼻の下を伸ばすパパは大将軍の威厳がどっかに行ってしまう。


 私にかかりきりで大丈夫かと思っていたけど、奏家の技を伝えることは大事なことらしい。

 私が跡目を継ぐ男の子だったらって話だろうけど。きっとパパがうまい具合にこじつけたんだ。


 他の私兵さんと琥珀様への指導は雪影がやってくれているみたいだ。中でも雪影はまだ若い方に見えるけど、その中でこうやって監督できるってことは実力があるんだ。

 あんまり観察してるとパパの動きを見逃してしまうので、合間合間でチラ見する。


 基本の型をひと通り教えてもらった頃に、雪影がやってきた。


「天生様、今日はその辺りで。春風様のお顔の色が悪くなってきました」

「おお、確かにすごい汗だ。じゃあ春風、最後に一度通しでやってみろ。覚えている範囲でいいからな」


 身体の内側から出るような汗がじっとりと道着を濡らしていた。

 他人から言われて自分の疲労に気付くって、まだ体力が把握できてない子供みたいだ。いや、身体は子供だから合ってるんだけど。


 さすがの天生パパも体術となれば厳しいらしい。愛娘に向かって最後のラストスパートをかける。


 習ったことを思い出しながら、私はもう一度型を繰り返した。

 基本の立ち方、構え、掌の動き、足の進め方、滑らかに掌を突き出し、返して相手を受け流す。上半身をひねって受ける、進む。

 じわりと首筋や額に汗がにじむのを感じる。


 無我夢中でやるうちに、なんだか不思議な感覚が身体の中に生じた。


 よくわからないけど、血液のようになにかが内側で勢いよく流れている。一歩踏み出すごとに、掌を突き出すごとに身体の内側から飛び出していってしまいそうになる。


 身体の真ん中に流れていたそれが指先まで達し、最後に掌を突き出した瞬間、ブワッと風が飛び出した。


 いや、これ比喩じゃないからね! 風が前髪を揺らして突き抜ける。

 そして正面にいたパパへぶつかりそうになった。


「!」


 危ない! と息を呑んだけど、そこは大将軍だった。

 さっと上半身を傾けて避ける。名残がパパの後ろ髪を揺らして霧散していった。


 辺りからどよめきが起こる。えっ、何これ。私ヤバいことした? しちゃった?


「春風!」

「ご、ごめんなさい!」


 パパが私の両腕をガシッと掴んだ。やっぱりまずいことしちゃったんだ、と涙目になる。


「何を謝る? すごいぞ、春風!」

「ふ、ふえ?」

「この歳でもう方術が使えるようになるとは……」

「コ、コハクにいさま?」


 気が付いたら琥珀様だけでなく、私兵さんたちや雪影が私を取り囲んでいた。

 皆興奮した様子で、口々に何か言っている。琥珀様と同じような、まだ四歳なのにとか、さすが天生パパの子だとか、信じられないとか、皆一様に驚いていた。


 それでやっと冷静になれた。なるほど、これが方術を使う力なんだ。

 私の能力は風なのか。型には使うと能力が使いやすくなるよ〜みたいな、補助輪の役目があるのかもしれない。


「い、いまの、わたしのチカラ?」

「そうだ。怖がらなくていい。お前の歳でこんなに飛ばせる子供、そうはいないぞ!」

「そうなの?」

「そうだ! 皆見たか!!!? うちの子は天才だ!!!」


 いや、それただの親バカじゃない? いやいや、皆頷いちゃダメだから。

 琥珀様も同意しちゃったらパパつけあがるから。雪影まで頷いちゃってるし……。


 そして、この日をきっかけに天生パパの稽古はどんどん熱心になっていった。

すごい短かったですね。区切り方がまだわからない。

ここから少しずつ長くなっていくと思いますが、お付き合いいただけると嬉しいです

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