ドンクサフォン
「お題募集中」という私的企画で、坂井ひいろ様よりお題を頂きました。
素敵なお題ありがとうございます。
「おはようございます、博士~! 今日は何をしてるんですか?」
「おお、助手よ。うむ、実はスマートフォンに興味が出てな。儂、ガラケーじゃろ。小説家になろうもガラケーで読めなくなったし、スマートフォンに乗り換えようと思うんじゃ」
博士は、超天才発明家で何でもできるスゴイ人だ。
私は、博士の助手としてお手伝いをしている。天才なのにどこかしら抜けている博士を、それとなくサポートするのだ。
「へぇ、ついにガラケー卒業ですか。どのスマホ買うんですか?」
「これこれ、助手君。儂は発明家じゃぞ。自分で作るに決まっておる。君のスマホを貸してくれんかの? 参考にしたいんじゃ」
ついに博士もガラケー卒業である。時代遅れで古臭いと思っていたのだ。
喜んでお手伝いしましょう。
私は、白いスマホをポケットから取り出して、博士に手渡した。
「ふむふむ、これが流行りのスマートフォンかのぉ。タッチパネルに操作機能と情報を集約させる事で、デバイスとしての完成度を高めておるんじゃの。なるほどなるほど」
博士が私のスマホの分析を始める。こうやって触ったりして、インスピレーションを高めているのだろう。
「博士、私のスマホですから、ほどほどにしてくださいね。データとか消しちゃったら怒りますよ」
「おお、そうじゃったの。すまんすまん。まぁ大体分かったから、早速とりかかろうかの。うむ、デザインは助手君のと同じのにしよう」
博士は私のスマホの写真を撮り、コンピュータに読み込ませていた。
博士自慢の3Dプリンターで筐体を削り出すのだろうか。
博士なら簡単にスマホも作ってしまうだろうと思わせてしまうあたり、スゴイ人なのだが。
「じゃあ、今から作るから、三日ぐらい研究所に籠るかの。その間は悪いが、君のスマホは借りておくぞ」
私はスマホを預けてしまうか少し迷ったが、特に問題ない事に気付いた。
私はスマホを二台持って使用しており、仕事用の一台を渡せばいいだけだ。
仕事用なので、契約は通話のみだし、大事なデータが入っているわけでもない。博士に貸し出しても問題はない。
「分かりましたー。じゃあしばらくしてから出勤しますね。良いの出来ると良いですね~」
――数日後
「おはようございまーす。博士! 良いスマホ出来上がりましたか~?」
「おお、助手君。昨日完成した所で寝てしまっての。今からテストする所なんじゃ」
博士は机からスマホを取り出して私に見せてくれた。この数日でここまで作り上げるとは。流石博士である。電子部品を作るためのエッジング処理の機械や薬品の使用した痕跡がそこらに残っている。後で掃除してあげないと。
「わぁ、すごいですね。私のとそっくりです。数日で作っちゃうなんて、やっぱり天才ですね!」
「儂にかかれば朝飯前じゃ。こっちが君のスマホじゃな。これは返しておくぞ」
博士はまた袖机からスマホを取り出して、机に置いてくれた。博士ったら、綺麗にしてくれたらしい。画面についてる指紋やスマホの角の削れも綺麗になっている。
ううむ、博士なのに気が利いている。
「では、儂のスマホデビューじゃ。早速テスト通話してみるぞ。助手君にかけるから、よろしくじゃぞ」
「お、いいですね。私の番号はXXX-XXXX-XXXですよ」
「むむむ、何だか操作しづらいのぉ。タッチパネルに慣れてないからかの。数字が打ちづらいわい」
博士は、スマホの画面をにらみながら、人差し指を立てている。私から見ても、肩に力が入っているのが分かる。少し微笑ましい。
「博士、それじゃダメですよ~ もっと力を抜いて!」
「おお、そうじゃな。流石助手君じゃ。おお、何とか入力できたぞ。ええと、そのまま通話のアイコンを触って……」
ツー・ツー・ツー
「むむ、おかしいの。通話中になっとるぞ」
「ええ、私のスマホ、別に通話はしていませんよ? おかしいですね」
「儂が間違える訳ないんじゃがのぉ。ええと、リダイヤルしてみようかの。リダイヤルボタンはええと……」
博士は拙い手取りでスマホの操作を勧めている。傍から見てると全然スマートじゃない。
「おお、これじゃこれじゃ。ちゃんと君の番号が入っておるの。よし、ポチっとな」
ツー・ツー・ツー
「やっぱり通話中になっとるの。おかしい」
「作り間違えたんじゃないんですか、誰にだって失敗はありますよ?」
「そんなわけないんじゃがなぁ。コンピューターも完璧だと太鼓判を押してるんじゃ」
博士はスマホをにらみながら、覚束ない手つきで画面を触っている。
何とも傍から見ると微笑ましいのだが、博士自身はそうは思っていないようで。
「ええい、何がスマートフォンじゃ! 電話すらかけられないとは……」
博士の表情から、イライラとした気持ちが伝わってくる。
「ううん、不思議ですね。インターネットとかは繋がるんですか?」
「おお、そうじゃ。儂もスマホで小説家になろうが読みたかったんじゃよ。インターネットアプリを起動してじゃな……」
博士はホーム画面からインターネットアプリを立ち上げた。
ERR_INTERNET_DISCONNECTED
「あらら、全然だめですね。インターネットに繋がってません。博士が作ったのに珍しい」
博士がこの手の失敗をするのは珍しい。博士が解析して作ったものはまず問題ないはずなのだが、スマートフォンのような複雑なものは流石に難しかったのだろうか。
「まったくスマートじゃないのぅ。どこで間違ったのやら。これじゃスマートフォンではなくて、ドンクサフォンじゃの。失敗じゃ」
博士は落胆し、少し笑っていた。
ドンクサフォン! 確かにそうかもしれない。操作していた博士の姿は少しどんくさかったし。
「まぁたまには失敗ぐらいありますって。で、どうします。ええと、ドンクサフォンですか」
「そうじゃの。知り合いのA教授に連絡して、どこがおかしいか見てもらおうかの。助手君、代わり電話してくれんかね?」
「なるほど。わかりました。ええとA教授は……、何番でしたっけ?」
「YYY-YYYY-YYYじゃ」
私は、博士から返してもらったスマホを操作して、電話をかける。仕事用のスマホにはA教授の連絡先を入れた覚えはない。スマホを通話モードにしてと。
プルルル、プルルル――
「はい、Aですが。どうしましたか、博士?」
「あ、A教授。ご無沙汰してます。博士じゃなくて助手です」
「ん、助手君かね。博士の携帯番号がでたから、博士かと思ったよ。君の携帯壊れたのかね?」
「えっ、私の携帯でかけたはずですけど。あっ、もしかして。すみません、またかけなおします」
私は通話終了のボタンを押す。
何だ、博士らしいや。しっかりと完成してるじゃないか。
「ドンクサフォンですけど、私が貸したスマホでは?」
(了)
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