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12月2日の診断メーカー

作者: ロント

 忘れ方を教えて欲しい。

 今まではこんなことなかったのに。

 好きな女子なんていたことがなかった。向こうから告白されて付き合うのが常で、相手は鬼を遣ってくれるし滅多に酷い我儘を言う子もいなかった。デートはありきたりな場所で十分楽しかったし、夜も満足できるような子ばかりだった。

 学校でもそうだ。男子にも女子にも教師にも人当たりよく接してきたし、それが苦というわけでもなく。

 毎日は充実を極めていた。そんな陳腐な言葉が本当にしっくりくるくらいには。

 しかし、最近は何かがおかしい。人生は平々凡々だったはずなのに。

 胸が締め付けられるように痛んで仕方が無い。時には吐き気すら覚えるほど、ギリギリ、ギリギリ。止まらない。

 気がつけばいつも同じ事を考えている。今までに沢山の女の子と行った沢山の場所。その全て、今行けばまるで違って見えるのだろう。同じベッドに潜って、お互いの体温を共有し合えたら、それはどれほど幸せな事なのだろう。

 でも、叶わない夢だ。それは、どんなに望んでも祈っても、泡沫で終わってしまう淡い夢だ。

 だからこそ焦がれてしまった。切望してしまった。

 スマホのカバーを外す。黒くて不透明なシリコンのカバーが中のものをよく隠してくれていた。

 慎重にを()()を裏返す。端が黄ばみ、所々が焦げたモノクロの写真には渦中の想い人の姿も写りこんでいる。

 母親から聞いた。写真は曽祖父と、今は亡き曾祖母の結婚写真であるらしい。着物を着てめかし込んで、二人とも若く希望に満ちた瞳で張りの有る笑みを浮かべていた。そしてこの写真を撮影した日から五年、戦争が激化し曾祖母は亡くなった。空襲のせいなのか飢餓のせいなのか、はたまた別の要因なのか――――当時疎開していた祖母は知らないという。

 それを聞いて、ますます魅入ってしまった。現代にも通ずる端整な顔立ちに、不幸な境遇。理想とも言うべき悲劇のヒロインそのものだった。

 だからこそ焦がれた。手を伸ばしても届くことの無い、その不条理に懊悩せずにはいられなかった。

 だからこれは、きっと。

 俗に言う失恋というものなのだろう。

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