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スティア、この辺りにGは出るのか?

「…… そろそろではないでしょうか?」

「ガゥォン…… 『そうだな……』」


隣に身を潜めるスティアの問いかけに応じ、落ちた巣の周りを飛んでいたゴールデンビーのほとんどがどこかへと飛び去ったのを確認する。


蜂たちがいなくなると今度は地を這うアリたちが蜂の子や蜂蜜に殺到してくるため、速やかに回収しなければならない。


「ワゥッ、グアォゥ 『よしッ、ダガー』」


「ワォン~、クルァアンッ、キュウッ

(おっけ~、いってくるよッ、兄ちゃん)」


「クルァルォアァン ウォルクオゥウッ

(刺されないように気を付けるんだよぅ)」


皆が見守る中、身を隠していた茂みから身を低くした妹がコッソリと落ちた黄金蜂の巣へと近づき、それを両手で抱えて戻ってくる。


「ヴァア~♪ (蜂蜜~♪)」

「ヴァア…… ジュルッ (蜂蜜…… じゅるり)」


嬉しそうにモフモフの狐しっぽを揺らす妹が蜂蜜でべとつかせながら手に持つ黄金蜂の巣を見て、アックスが涎を垂らす。


このまま蜜蝋や蜂の子ごとかぶりつきそうな雰囲気だ…… 今回は白磁の蜂蜜酒とやらを造る目的があるので、取りあえず最初の黄金蜂の巣はそのために使うけどな。


(…… 蜂の巣は確保したが、結構な煙を出したな)


大丈夫だとは思うが、ヒューマノイド型の種族であれば不自然な煙に引き寄せられる可能性があるので、場所を移して蜂蜜の精製をする方が良い。


小鬼族など何処の森にでもいるし、同族のコボルト族でも群れが違うと揉める事になるため、その場から移動を始めるが……


「クルゥア、ガァオゥグルォア? ヴゥッ……

『スティア、この辺はでるのか? Gが……』」


風下寄りにいたことが功を奏して、風と共に運ばれてくる奴らの匂いをケモ耳に先んじて嗅覚で捉えたが、しかし、これは…… 色々混ざっているな。


「最近、貴方たちのいた北の森から小鬼族が流れてきて、古代の森に居ついたと聞きますが…… どうしたのですか?唐突に……ッ」


その瞬間、彼女の笹穂耳がビクッと動いて葉擦れの音を拾い、表情が警戒を帯びたものとなり、貸し与えた腰元の短剣に手が伸びる。音を拾う瞬間がほぼ同時だったことを見ると、エルフ族とコボルト族の聴覚の性能差はあまりないようだ。


俺は口元に人差し指を当てて静かにするように示し、彼女の腕を引いて近くの木々の合間に身を隠す。同様に他の仲間たちも奴らの進行方向を避けて木々の間に紛れていく。


身を潜めながらも戦闘を予感したバスターが麻紐で縛って背負う、素焼きの蜜受け用大皿をそっと地面に降ろす。群れの生産職である垂れ耳コボルト達がスティーレ川の粘土を捏ねて、猫耳鍛冶師バラック直伝のレン炉で焼き上げた陶器だ。


なお、裏側にはスミスの肉球を象った印が刻まれており、これは彼の作品だと判る。


スミス率いる垂れ耳たちが焼き物に挑戦していた頃、俺は “名工たちは製作物にこっそり自分の証を刻んだりするんだぞ” と教えた。それ以降、陶器の底などの目立たない部位に彼らは自身の肉球を象った “印” を彫り込むようになったのだ。


その大皿の上に大事そうに抱かえていた蜂の巣を妹が載せ、蜂蜜の付いた手を幸せそうにペロペロと舐める。


(うまーって、こんな事してる場合じゃないよねっとッ!)


気を取り直したダガーは両足に魔力を宿して跳躍力を大幅に強化した後、器用に木々の間を蹴り上がっていき、樹上へと消えていく……


そして待つこと暫し、木々の間からイノシシ型の魔物の背に乗ったゴブリンが二匹ほど姿を現し、後続として土色をした大蜥蜴の魔物の背に乗ったゴブリン四匹が続く。


一応、騎乗用の魔物の背には鞍らしきものが取り付けられており、口にもハミが噛まされて手綱も取り付けられていた。


ひと際、巨躯を持つ大蜥蜴の背に跨るのはリーダー格と思しき右耳が一部欠けているゴブリンで、その手には馬上用の突撃槍を構えている。


恐らくはゴブリンの亜種、ゴブリン・ペイジやゴブリン・キャヴァリアーの類なのだろう。彼らは幼い魔獣の仔を攫い、育て上げて自身の乗騎にするという……


(ゴブリン猟騎兵が6騎か、通り過ぎてくれれば良いんだが……)


無理だろうな……イノシシ系統の魔物は鼻が結構利くのだ。

俺たちコボルトに匹敵するほどに。


隠れている場所から少し離れたところで、先頭を歩くゴブリンを乗せたイノシシ型の魔物が脚を緩め、鼻をひくひくさせ始める。


(…… 騎兵だけで来たということは後方に仲間の隊がいる可能性もあるし、争いになった場合は少なくともイノシシ型の魔物は潰しておきたい)


俺は周囲に潜むバスターとアックスにハンドサインを送る。


セントウニ ソナエロ


ワカッタゼ タイショウ

イツデモ イケルヨゥ


などとやり取りをしている間にクルリとイノシシ型の魔物の首がこちらに向けられ、続けて騎乗したゴブリンが長剣を引き抜きながら大声を上げる。


「ギゥ、ギャゥアッ、ヴァリギァ!

(いたッ、あそこだッ、ヴァリ様!)」


「ガルギスッ、ガディア!!

(犬狩りだッ、征くぞ!!)」


大蜥蜴に乗る筋肉質なゴブリンの号令に従って武器を構えて、一斉に駆け出してくる連中の機先を制し、俺は右掌を大地に突いて収束させた土属性の魔力を放つ!


「ガゥ、ウォオオンッ ガルゥァアァッ!

『ちッ、悉くを喰らえ貪欲なる牙ッ!!』」


「「ブォオオオッ!?」」

「グギィ!!(うわッ!!)」


土属性の人外魔法 “縛鎖の牙” によりイノシシ型の魔物の足元から無数の土塊の牙が次々と突き出し、その四肢や胴体をずぶりと貫いて地に縫い付けるッ!

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