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群衆を煽るモノ

翡翠眼のエルフに引率されたコボルトたち四匹が古代の森をめざして南へ進んでいる頃…… エルフの国 “鎮守の森” の王都エルファストでは数百に及ぶ黒曜のエルフたちが広場へと集まっていた。


「何故ッ、マーカス司祭は殺されたんだッ! 彼は平和を望んでいたのにッ! 俺たちには意見を述べる自由すらないのかッ!!」


群衆の中で、今回のデモを主導したグレゴルが叫ぶ。浅黒い肌に銀の髪、鋭い目つきをした黒曜のエルフである彼の周囲を取り巻きである改革過激派が固めている。


「それによく考えてほしい、王都に住むエルフの過半数以上は俺たち、黒曜の氏族だッ!その俺たちが何故、(まつり)から遠ざけられるッ!!」


「「そうだッ!」」

「「横暴だッ!!」」


呼び掛けに応えて、群衆の中から声が上がる。その数名は人々に紛れている彼の仲間が扇動目的で叫んだものだが…… 言葉自体に偽りはない。


王都に住む一万二千名ほどの内、実に約七千人が黒曜の氏族であり、残りの約三千人が青銅の氏族、約二千人が白磁の氏族である。この比率は王都以外の三都市でもほぼ変わらない。


「確かに、俺たちは世界樹の生命力を制御できない。だが、その恩恵を受けるために未来永劫、白磁の奴らに従えというのか? それでは、家畜と同然ッ!! どこかで俺たちは立たねばならんッ! 当然の権利を勝ち取るんだッ!!」


「「「おぉおおおッ!!」」」


徐々にグレゴルの弁は熱を帯びていき、群衆もそれに惹き込まれていく。


「事前に知らせていた通り、ここに集まってくれた皆で王城まで想いを伝えに行くッ!! 数は力だッ、ついてきて欲しいッ!!」


「俺は行くぜッ!」

「黒曜の同胞のためにッ!!」


群衆に紛れ込ませている彼の仲間の数十名が気勢を上げ、周囲の黒曜のエルフたちに声を掛ける。もとより、白磁優性の考え方に疑問を感じた者たちの集会という事もあり、数百名の黒曜の民たちは徐々に王城へと向かって行進を始めた……



「うぅ、迷惑な連中なのですぅ」


と言いながら、何やら騒ぎ立てて行進する黒曜のエルフたちを青銅のエルフの薬師ミラが窓越しにコッソリと眺めていた。


…… エルフたちの都市構造は中心に世界樹、その周囲を白磁の居住区がぐるりと囲み、同心円状に青銅の居住区、黒曜の居住区へと広がる。


つまり、黒曜のエルフ達が王城へ向かうには青銅の居住区を必ず通るのだ。もし、仮に暴動が起きた場合、騒乱の場と化すのは白磁と黒曜の居住区に挟まれた青銅の居住区である。


「ギルドマスターの言う通り、関わらないほうが吉なのです…… 万一の避難経路もちゃんと考えないと」


碧い髪から覗く笹穂耳をぴこぴこさせながら、彼女は周辺の地下隧道の地図を取り出して、真剣な顔で眺め出す。そもそも、生産系エルフの彼女たちは自由にモノ造りさえできればそれで良い。


だからこそ、彼女の幼馴染が製作物の責任を問われ、投獄されたことが許せないのだ。


そんなミラと同じく、周囲の家々に住む青銅のエルフたちも扉を閉ざして、彼らが通り過ぎるのを静かに待っているが……


グレゴルに率いられた黒曜のエルフ数百名は白磁のエルフの居住区に少し足を踏み入れたところで、武装した白磁の衛兵たちに押し留められていた。


「貴様ら、大人しく解散しろッ!!」

「お前たちの行動は秩序を乱している!」


「何故だ、俺たちは女王へ嘆願に行くだけだッ!!」

「そうだッ!! 道を空けろッ!!」


行進する黒曜のエルフたちの先頭と白磁の衛兵たちが揉み合いになる中で、不意に衛兵の死角から拳が飛んでくる。


「がぁッ、き、貴様ッ!!」


さらに殴りかかろうとする黒曜のエルフの男に対して、殴られた衛兵が反射的に応戦するが、殴り返された男は途端に叫び声を上げた!


「衛兵が俺を殴ったぞッ! 衛兵が民に危害を加えていいのかッ!!」

「なッ!?」


「それが白磁の連中のやり方かッ!!」

「俺たちのことなんて家畜と同じように思ってんだろッ!」


同様の声が他の場所でも上がり、押し合いをしていた黒曜のエルフたちと衛兵たちの間に怒号が飛び交う。


なお、群衆に紛れて衛兵に殴りかかった者、過激な発言で場を煽る者は全てグレゴルの指示を受けていた改革過激派である。彼らは保守主流の白磁のエルフと改革主流の黒曜のエルフを分断して、対立させることを画策していた。


(…… 数は圧倒的に俺たちの方が多い。今はまだ小競り合いだが、火種が大きくなって紛争が起これば白磁の連中に勝てるッ! 俺たちを蔑んできた白磁の連中に思い知らせてやるッ!!)


中央議会襲撃事件の主導を含め、常に火種が大きくなるように場を掻き回してきたグレゴルが群衆の中心で薄ら笑いを浮かべる。


体格に恵まれて狩りの腕も良く、黒曜の氏族でも一目を置かれている彼であるが…… それ故に肌の色が浅黒い黒曜の氏族というだけで自分の生き方が制限されることが許せない。


(少数派がのさばっているのが気にくわねぇんだよッ! 世界樹の制御? そんなもの、力で脅してやらせればいいだろうがッ!!)


なお、肌の色で不平等を強いることに疑問を覚える少数の白磁のエルフも改革穏健派に属しているが…… グレゴルは全てが終わればその者たちも排除する腹積もりだ。


そのためにも抗議活動の中で動員できる黒曜の氏族を増やし、さらには自分に従う改革過激派に勧誘する必要がある。


徐々に浸透してきた自由と平等の思想と現状との乖離、それによる不満を背景に彼は徐々にその力を伸ばしていく……

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