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ゴールデンビーの蜂蜜を取りに行こう

緊張状態にあるエルフたちの王都エルファストのことなど露知らず、ルクア村から半日程度の距離にあるシェルナ川の支流傍の洞窟は午後の日差しの中、まったりとした空気が流れていた。


「ワフゥ~~ (はふ~~)」


蒼い毛並みに巨躯のコボルトが樹にもたれ掛けて四肢を投げ出して “ぐで~” とだらけている。少し前までは面倒見の良い彼の周りにコボルトの子供が何匹か引っついていたが、そろそろ生後6ヶ月となって反抗期を迎えているため、その光景は見られない。


子供たちの身体もそれなりに大きくなり、二足歩行も可能となっているので同世代の仲間や兄弟と勝手に周辺をうろついては親たちを心配させている。


なお、うちの群れでは大体1歳2ヶ月くらいで一人前と見做されて、2歳を過ぎるころには親元を離れるのだ。といっても、巣穴を追い出されて冷たくあしらわれるだけで、同じ群れに属するわけだが……


因みに、俺も妹も既にマザーに同様の仕打ちを受けているが…… まぁ、仕方ない。野生の掟は厳しいのだ。


ちらりとアックスの腹の上に視線を向けると、そこに何故かうたた寝をする子狐の姿が見える。言うまでもなく我が妹だ。


(…… 意味が分からん、まさか奴が布団代わりなのか?)


などと、適当なことを類推していると木々の合間からスティアが姿を現したので、もはや必須品と成りつつある念話の仮面を腰袋から取り出して装着する。


「ここら辺の森も良いところですね♪ と言っても、ここの付近しか出歩けませんけど」


「ウォアルゥ ワフィルァ アォオアン

『森の中に何がいるか分からないからな』」


「それはそうと、はい、孵化しましたよ」


おもむろに彼女が胸元から世界樹の種を取り出す。よく見ると扁桃ほどの大きさを持つ種の上部から白い芽がぴょこっと発芽しているが……


(…… そんなところから取り出されると、受け取るのに抵抗があるな)


「要らないなら私がもらいますよ?」

「グゥ、ワォアンッ 『いや、ありがとう』」


仄かに温かいそれを受け取る。

まぁ、元から世界樹の種は温かさを持っているんだが……


「ガルゥグオァア ウォルァアァン?

『これは埋めればそれで育つのか?』」


「ん、それだと一月で枯れますね」


いや、そもそもどれくらいで成木となるのか…… 鋼の魔導士が騙された書物には発芽さえすれば、みるみるうちに天まで届くと書いてあったが、それも出鱈目なのだろうな。


「ワフィオン、ヴァルォオオァ グルォオルゥウア?

『何が必要で、成木までにどれだけの時間が掛かる?』」


「もう発芽していますので、白磁の蜂蜜酒を最初に少々与えれば問題ありません…… それと世界樹の生命力は偉大ですから、成木までは二年ほどになります」


二年で成木となるなら、スティーレ川流域の集落にまで戻った時、そこに植える意義はあるが…… 白磁の蜂蜜酒?


…… 一般的な蜂蜜酒は原始的な酒の類であり、蜂蜜を水で2から3倍に薄め、今の時期だと1週間ちょい発酵させると出来上がる。蜂蜜と水だけだと上手く発酵しない事もあるから、パンくずを入れておくと良いとも言う。


わざわざ、白磁と付いているあたり、そんなものでも無いのだろうが……


「ガルオゥア ヴァアゥオン?

『その白磁の蜂蜜酒というのは?』」


「古代の森に生息しているゴールデンビーの蜂蜜と水、白磁のエルフの血を少々加えて作るお酒です。儀式用のものなので、普通にお酒を楽しむ時は血なんて入れませんが……」


「ウ、ルァン ワゥウォアル グルォアァアン……

『と、なれば古代の森まで行く必要があるか……』」


この仮住まいの洞窟に辿り着いてから、早三日が経つ。聖地認定されたこともあるし、そろそろ元の集落へ群れで移動をしようかと思っていたものの…… 古代の森に行くならば逆方向になる。


「ワゥ、グルァ、ガルァオン? グルゥオアァン、グルルァオゥ ガルグォウア

(ん、大将、出かけるのか? なら俺もついていくぜ、待っているのは退屈だしな)」


先程の呟きを耳ざとく聞きつけたバスターが大剣を肩に担ぎ、こちらへと歩いてきた。


「ワフ、ガゥルガンヴィアルゥ ヴァア グルォン

『あぁ、ゴールデンビーとやらの蜂蜜を取りにな』」


「ワウ!? ヴァアッ! グルゥオン

(え!? 蜂蜜ッ! 僕も行くよぅ)」


「キュウ~~!? (きゅう~~ッ!?)」


蜂蜜に反応したアックスが “がばっ” と起き上がり、奴の腹の上で寝ていた妹が子狐姿のままポテポテと転がっていく…… あ、変化が解けた。


「ヴァア、クルァアーン、ジュルッ

(蜂蜜、おいしいよね~、じゅるり)」


涎を垂らしながら幸せそうな顔をしてやがる、お前はクマか……


ともあれ、俺たちが王都セルクラムに行っていた間、退屈していたバスターと蜂蜜に釣られたアックス、ダガーに俺を加えた四匹、案内人兼ヒーラーのスティアで古代の森へ蜂蜜採取に出かける事になった。


留守中、群れはブレイザーとランサーに任せ、仮住まいの洞窟から聖域指定を受けたイーステリア中部スティーレ川流域にある元の集落へと、先に戻ってもらうことにする。なお、ナックルは垂れ耳たちの纏め役を、スミスには集落のハウスや畑の修繕などの仕事を頼んだ。


(…… せっかく、古代の森まで行くわけだから、蜂蜜酒の仕込みが終わればエルフの国見物もいいかもしれないなぁ)


(さて、大将についていけば退屈しないだろう)

(蜂蜜、皆の分も取れるといいなぁ……)


そんな暢気な雰囲気の下、俺たちは目的地へ向けて出立した。

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