剛力粉砕のすゝめ
なお、魔導書『剛力粉砕』は “拳で語れない魔術師など惰弱ッ” とか、“鎧など飾りにもならんッ、鍛え上げた肉体こそが芸術だッ” などと迷言だらけだったが……
金剛体の他にも、相克となる属性魔力を拳に纏わせて魔法攻撃を打ち砕く絶拳やら、全く魔術と関係ない格闘術とか使えそうなものは多々あった。
なお、137頁に記載されている電光魔術は渾身の裏拳を繰り出すというただの物理攻撃だ…… もはや魔導書の域を凌駕している。
まぁ、それはさておき、手早く済ませよう。
金剛体を維持できるのはまだ数分のみだからな……
「ガルォウアアァン…… ヴォルァッ、グルァアオンッ!!
『直ぐに終わらせてやる…… 征くぞ、バスターッ!!』」
「ヴォルオァァアァウッ! グルァッ!!
(言ってくれるじゃねぇかッ! 大将ッ!!)」
互いに突進して距離を詰め、渾身の右ストレートを打ち合う!
と、見せかけて俺はその動作を止めてバスターに打たせ、後の先を取る。
「ヴォルオオォンッ!(しゃらくせぇッ!)」
「フゥッ!」
力任せに振り抜かれる奴の右ストレートの内側に左手の甲を押し当て、外側へと逸らす。さらに追撃として放たれた左ジャブを右側頭に添えた右腕でガードした。
「ゥグ、ガルゥ、グルァアァッ!『ぅぐ、はッ、喰らえや!』」
多少の衝撃がジャブを受けた俺の右腕を苛むが、即座に右膝をバスターの無防備な鳩尾へと叩き込む!
「ッ、グオッ!? (ッ、ぐおッ!?)」
奴は反射的に飛び退って膝打ちの威力を相殺するも、その隙を逃す俺ではない。
「ガルオォオオッ!!『だらぁああッ!!』」
左脚を一歩踏み込んで右脚を上げ、その膝が下を向いた状態になるまで股関節を内旋させて、バスターの首筋を狙った突き返し蹴りを放つ。
「ガゥッ! (ちぃッ!)」
【発動:直感回避】
横蹴りの体勢から膝が下を向くことにより、跳ね上がった右脚の甲がバスターの首筋へと吸い込まれていくが、奴の瞬間的な判断が功を奏する。
紙一重でバスターは左腕のガードを上げており、その太い腕に突き返し蹴りが受け止められた。
「ヴォルアァッ、グルァッ!!(もらったぜッ、大将ッ!)」
「ウォオッ!?『うぉおッ!?』」
こちらが蹴り足を戻す前に機先を制して、バスターが懐に入り込み、俺の左脚へ強烈な足払いを打つ!
両方の脚が地面から離れたため、必然的に俺は地面へと転がされる。
「クッ!『くッ!』」
「ウルァッ!! (うるぁっ!!)」
倒れた勢いのままに回転して少しの距離を取ると、近くに勢いよく奴の脚が踏み下ろされた。
「ガゥウッ!『くそッ!』」
「ガゥアッ!? (なぁッ!?)」
俺は即座に身を起こしながらバスターの下半身に抱き付く、左手を腰に右手は膝裏に回し、金剛体の膂力を活かして腕黒巨躯のコボルトを担ぎ投げる!
「ガァァアァッ!『がぁぁあぁッ!』」
「ウォルアッ!! (させねぇッ!!)」
その動きを察したバスターは腰を低くして重心を落とし、持ち上げようとする俺の背中を右掌で押さえつけて立ち上がらせないッ!
さらに上から殴りつけようと奴は左拳を振り上げるが……
「ヴォルガゥ、ガルォアァアッ!!『剛力粉砕、なめんなよッ!!』」
このような場合の対処もグレイオは想定していたのだ。
俺は上に持ち上げる動作を即座に切り替え、身体を捻りながら上半身全体の筋肉を酷使して、横倒しにバスターを投げる。
「ウォオオ!? (うぉおお!?)」
奴もさっきの俺と同じく、勢いのままに身体をゴロゴロと回転させて距離を取る。こちらもいまだ片膝を突いている状態なので追撃はままならない。
だが、バスターよりも少々早く体勢を立て直した俺は片膝を突いて立ち上がろうとする奴へと襲い掛かる。
「クウッ (くうッ)」
バスターは咄嗟に両腕を交差させて俺の攻撃へと備えるが…… 狙いはそこじゃないッ!
未だ膝立ちのまま防御姿勢を取るバスターの左膝を踏み台にして、その頭上を飛び越えながら、俺は奴の後頭部へ渾身の後ろ蹴りを放つ。
「ガハッ! (がはッ!)」
さらに着地と同時に振り向きながら回し蹴りを放ち、後頭部へのダメージに体勢を崩すバスターの無防備な側頭部を狙う!
まぁ、あまり無防備な状態で頭部へ打撃を加えるのは危険なので加減するけどな。
コツン
「グッ、グウゥ、ガルァアンッ……
(ぐッ、ぐうぅ、ここまでか…… )」
致命傷をもらいかねない隙を晒したところへ大幅に手加減された一撃を受けて、バスターが負けを認める。
ここまで温情を加えられた状況から継戦して勝ったところで、それは彼が渇望する結果ではなく、何の意味もない。
故に、勝負はここで終わりである。
(…… そんなお前の性格を知っているから、最後の蹴りは寸止めして触れさせるだけに留めたわけだ)
しかし、『剛力粉砕』意外と侮れないな…… 本来であれば先程の格闘術に加えて四肢に属性魔法を付加するわけだし、格闘術の射程の無さは攻撃魔法を組み込めば補える。
もはや魔導士の域を超えた何かだが……
「グルァアオ、ウァオン? ガゥルァアァン
(バスター、大丈夫? こっちきなさい)」
「…… ワフォン (…… すまねぇ)」
基本的に世話焼きな性格をしている槍使いのランサーがバスターの負傷箇所に肉球を押し当て、治癒魔法をかけていく。
「治癒魔法まで使えるのですか。それにしても、拳で殴り合うエルダーコボルトとは…… 森の賢者のイメージが崩れます」
“聞いた話では魔術を極めた長老格のはずなのですが”
と、白磁の肌に翡翠の瞳を持つエルフが呟いた……
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