表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/274

あう~、猫耳がいっぱいだよぅ

もう、半月ほど前の話になるが…… 森を出る際に、エルネスタたちに場所を把握されたスティーレ川流域の集落から、ルクア村付近の洞窟へと群れを移動させるようにバスターに言い含めてある。


そのため、ウィアルドの町でセレナ嬢を送りの幌馬車から降ろした後、ルクア村の方角へと進んでもらってイーステリアの森の入口まで辿り着いた。


ここから先の森は四輪馬車が通れるような道など無いため、御者と護衛を兼ねてくれていた二人の若い魔導騎士とはここでお別れだ。


「色々とお世話になりました、ありがとうございます」

「お元気で、弓兵殿(アーチャー)にウォレス殿」


「グルォ ワォウルァアン、グァアゥ、ウガル

『こちらも世話になったな、ジョイス、リカル』」


「送ってもらえて助かったよ、こっちには幼いリーリアもいたしね」


まぁ、王都を出てから6日間も一緒に飯を食えば、それなりに互いのことを知る機会もあり、別れにも多少の名残惜しさが生まれるというもの……


「ワォア~ン♪ (じゃあね~♪)」


「クァルオゥ ウォルクオウゥ

(帰り道に気を付けるんだよぅ)」


「……………ワォアウッ (……………じゃあな)」


言葉こそ通じないが、珍しく妹やアックスに混じって長身痩躯のコボルトも二人との別れに応じ、エステル母娘やスティアも軽く会釈をして別れを済ませていた。


さて、いつまでも名残惜しむわけにいかないな……


「グルォ、ウォオオンッ!! 『皆、行くぞッ!!』」


「ワゥッ、グルガゥルォアァン…… (あぁ、やっと群れに戻れるぜ……)」


「ガゥウァ、グウォアル ガルクァアァン♪

 (やっぱり、この森が一番落ち着くよぅ♪)」


「ん、ここも良い森ね(デルウェルフォレオ)……」


皆にひと声掛けてから、率先して森の中へ足を踏み入れると少し気温が下がり、土と木の匂いが強くなる。


(確かに落ち着くな…… 取りあえずはルクア村か)


群れを避難させている洞窟までの経路にルクア村があるので、寄っていくのも悪くないなどと考えていると、ウォレスが歩み寄ってきた。


「アーチャー君、僕がその銀仮面を使って、皆に大陸共通語の聞き取りを教えるって話はどうするんだい? あまり、村を留守にできないんだ…… 一応、戦士頭だからね」


あぁ、そんな話もあったな……


「グァウゥ…… ヴォルゥ、ルクァルゥ ウォルフォルァアァン?

『そうだな…… 機を見て、ルクア村に滞在させてもらえるか?』」


「ん、わかった、事前に連絡をくれれば僕も準備しておく」


手早く確認を済ませたウォレスはまた後ろの猫人母娘のところまで下がった。どうやら、彼女たちの救出の対価が気になっていたようだ。あれでいて義理堅い猫男だからな……


そのやり取りから然程の時間を掛けずに俺たちはルクア村にまで辿り着き、中央の広場へ歩を進めていく……


「ん? 銀色君に…… エステル、リーリアッ! 無事だったかッ!!」

「何ッ!? ウォレスさんが帰ったのかッ!!」


家の外に出て槍鉋で木材加工をしていた猫人大工のグリマーが此方に気付いて大声を上げると、斜め向かいの家の扉がバンッと開いて鍛冶屋の息子バラックまで飛び出してくる。


「本当にエステルとリーリアよッ!!」

「エステルッ、無事だったのね!」


先の二人を皮切りに周囲の猫人たちが次々と集まってきて、気が付けば猫耳だらけに……


「アゥ~、ガゥルォゥァアァン、グルァ

(あう~、猫耳がいっぱいだよぅ、ボス)」


「クァンッ、ワフィルァアァン♪

(兄ちゃん、何か楽しそうだね♪)」


いつの間にか距離を取っていたブレイザーとそれに便乗したスティアは既に人混みの外に身を躱しており、俺たち四匹だけが猫人たちの中に取り残された。


(………… 逃げ遅れたか)


軽くため息を吐いていると、人混みの中心でエステルが少しだけ気まずそうに頭を下げる。


「すみません、心配をかけてしまって……」

「うぅ、ごめんなさい……」


彼女に手を繋がれた幼いリーリアも雰囲気に飲まれて委縮してしまう。


「あー、別にいいんだ、あんたらに何かあればフレッドの奴に申し訳がたたねぇ」

「エステルもリーリアも何も悪くないんだからねッ」


(フレッド?)


聞き慣れない名前に疑問符を浮かべていると、それが顔に出ていたのかウォレスが小声で耳打ちしてくる。


「…… 村が最初に襲撃された時、ゴブリンとの戦闘で戦死したエステルの御夫君だよ。だから村の連中は皆、彼女たちのことを心配していたんだ」


「…… ウォフッ『…… そうか』」


フレッドの魂に少しだけ黙祷を捧げてから閉じていた目を開くと、不意にバラックと視線が合う。


「アーチャー、よくわからねぇが、また世話になったみたいだな…… 今度、武器の修理をしてやるよ、摩耗しているのがあれば持ってきてくれ」


「私も簡単な道具や加工品なら作ってあげるよ、銀色君」


「アルォウ クァオアアァン『気持ちだけもらっておくさ』」


二人とも商売だろうし、金銭的な報酬はエルネスタの第一中隊から貰っているからな…… ここはやんわりと断っておこう。


(それに猫人たちの信頼を得ること自体が代えがたい報酬でもある……)


猫人たちに囲まれて感謝された後、ウォレスとその妻エミナに見送られてルクア村を出て、東の洞窟へと歩を進める。


なりゆきで群れから暫く離れることになったが、あと少しで帰還できる。

まぁ、その後も何かしらはありそうだが……

読んでくださる皆様の応援で日々更新できております、本当に感謝です!

ブクマと評価などで応援して頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ