モフモフ、コボルト比2.0倍を越える
「クゥ、クァオウッ? (あれ、ここどこ?)」
あたしは気がつけば、いつの間にか白い空間にいる。
白ばっかりで目が痛いよぅ……
前に何も無いので振り返ったら、そこに天を衝く巨大な白銀の螺旋階段があった。
「ワゥ…… ワォフヴォルグ (あっ…… 終極の螺旋階段だ)」
えーと、“終極” ってなんだっけ?
そう考えると、すぐ頭の中に答えが浮かんできた。
そっか、“終極” は “最後まで極める”って意味なんだね。
あたしは自然とその階段を昇り始める。
でも、なんでこんなに “ぐるぐる” した階段なのかな?
その答えも直ぐ、頭の中に入ってきた。
“DNAの二重らせん構造” ?
ふーん、この階段の入り口の裏に別の階段の入り口もあったんだ。
天から降り注ぐ祝福と喝采を受けて、螺旋階段を上がっていくと何だか楽しくなってくる。けれど、今回はここまでだ。
ここでの事は綺麗に忘れて、あたしの意識は現実に戻る。
……………
………
…
岩大蜥蜴に止めを刺した直後、一瞬でダガーの姿が変わっていた。
「グルァ、ウォフ…… (大将、これは……)」
「ワフ、クァアォン (あぁ、モフモフだな)」
何がモフモフかと言うと、ダガーの尻尾だ。俺の尻尾も通常比一・五倍でモフモフ感を増したが、妹のそれは二倍以上である……
そう、狐のような尻尾になっていたのだ。そして毛並みも俺の銀色と対照的なややくすんだ黄金色になっており、耳もデカくなっていた。
通称:ダガー(雌:妹)
種族:コボルト
階級:コボルト・フォクシー
技能:跳躍強化(大 / 効果は一瞬) 初級幻術
称号:リザード殺し
武器:一角獣の角(主) 短剣(補)
武装:レザーアーマー
補助:マント
「ウォアン? クォン (どしたの? 兄ちゃん)」
「クゥア、グゥ ガォルァオオゥ (お前、もうコボルトじゃねーよ)」
「グアォ、クォルファウ…… (ダガー、狐みたいだ……)」
厳密に言えば、犬と狐の中間のような印象を持ったコボルトだな……
そんな会話を交わす三匹を少し離れた場所から眺める者がいる。
生物学者を目指す魔導士、ミュリエルだ。
「えッ、進化した!? こ、こ、これは凄いものを見てしまったわッ!!」
魔物が極稀に進化するということは学院で学んだけれど、その貴重な瞬間をこの目で見られるなんてッ! さっきまでの生命の危機を忘れて私は浮かれまくっていた。
だって、進化したんだよ?
それ以外にも驚きの連続だよッ!
先ず、彼らの体格ッ!
普通のコボルトって、成人男性より小柄なのに彼らは人並みの身長がある。そのうえ、一匹がとても大柄だ。最初に私が彼らを冒険者だと思ったのはその身長も影響している。
加えて彼らは皆、鍛え抜かれた体躯をしていた。
「どう見ても、自然に付く筋肉じゃない…… 鍛えたの!? コボルトが?」
これはもしかして、凄い発見じゃないのかしら……
それに逞しい筋肉は飾りじゃない。
駆け出しである “鉄” の冒険者でも討伐可能な脅威度E+のコボルトが、中堅の “銀” の冒険者が相手にするような脅威度C+のロックリザードを倒してしまった。
「あッ!」
その瞬間、自分の危機が終わっていないことに気付く。
先程は助けてくれたように感じたけれど…… 危険だわ、迅速な動きや連携を見る限り、襲われたら逃げられないよぅ。コボルトが人を食べるって話はあまり聞かないけど……
そんな心配をしながら彼らを観察していると、そのうちの小柄で矢鱈とモフモフした尻尾を持つ一匹が足を引きずっていることに気付く。
(あれ? 怪我をしているのかな……)
よく見ると、大柄な子もロックリザードの尾撃で負傷したお腹を押さえていた。
その時、私の脳裏にある小説の一場面が浮かび上がる。
人狼と村娘の恋愛物語で、二人の出会いは戦いで負傷した人狼を村娘が助けるというものだ。ここは私が襲われないためにも覚悟を決めて一肌脱ぐ必要があるみたいね。
何やらガゥガゥと話し合う彼らに向かって、私はゆっくりと近づいていく。
戦闘を終えた後、俺は進化を遂げたダガーの状態を確認していた。
幾つかの質問を行い、その後に挫いた足の具合も診ていく。
なお、岩大蜥蜴の尻尾による一撃を受けたバスターの横腹の状況も確かめたが、こちらは本人の自己申告通り、多少の切り傷と打ち身で済んでいた。
鍛え上げた鋼の如き身体とレザーアーマーのおかげだろう。そのレザーアーマー自体は岩大蜥蜴の尻尾に付いていた鉱石でかなりの傷が付いているが……
そして、コイツの身体に付いている鉱石、鉄鉱石じゃなかろうか?
今の状態では持ち帰る余裕がないので残念だ。
「ウォルウォアル ウルォア クァルオォ
(いつもの森の浅い所に戻らないとな)」
「クォン、ウォクァウゥ…… ファウァルォ
(兄ちゃん、ここ怖いよ…… 早く帰ろう)」
「…… グルァ (…… 大将)」
バスターに促されて視線を向けると、先程の赤毛の魔術師がこちらへ近寄ってきていたので、とりあえず俺はその少女を驚かせないように気遣いながら話し掛ける。
勿論、コボルト語で…… 前世の記憶があるからこの大陸の共通語は聞き取れるが、コボルトの声帯では発音できないのだ。
「オフゥ、ガルォファオォン (待て、こちらに敵意は無い)」
俺の言葉が通じたわけではないだろうが、赤毛の少女は声に反応してこちらの3mくらいの位置で止まる。
「あ、あのッ! その子、怪我しているの? 私、初級の治癒魔法なら使えるから…」
何ッ!? 魔術師に見えたが神官だったのか?
そこで彼女が纏う加護を受けた魔術師服の徽章が目に留まる。
(魔導士か…… 俺みたいなコボルトと比較すればエリートだな)
確か、学院で一通りの魔術を学ぶらしいので治癒魔法も使えるということだろう。
よし、勢いで助けたが、その判断は間違いではなかったというわけか!
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