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人族には無理ですよ、御冗談を…

「ワファ、グルォ ヴァルアオ ルァアオオァン?

『どうして、俺たちが世界樹の種を持っていると?』」


「あら、何も知らないのですね。白磁の氏族は世界樹と繋がるエルフですから、こんな近くに種があれば気付きますよ…… それは私たちにとっても貴重なものですので」


傭兵の頃に聞き齧った話だと、エルフたちはどの氏族も魔法の資質があり、世界樹の周囲に満ちる魔力を使って生活を営む。魔力の供給源である世界樹のまわりに街を作り、結界を張って他種族とは一線を画する文明を築いている。


その世界樹と繋がり、状態を把握管理してエルフたちの生存圏を管理するのが、目の前にいる色素の薄い肌に翡翠眼を持つ白磁のエルフということだ。


「アーチャー殿、種を見せてもらっても?」

「…… ワフ『…… あぁ』」


暫し考えた後、腰袋から扁桃ほどの大きさで温かみと魔力の鼓動を感じる “生きた種” を取り出して渡す。


「ん…… これは古代の森ではなく、外の森に由来する世界樹の種ですね」


「ウォルウォアン、クァオアアァン

『由来は知らない、貰い物だからな』」


「いえ、そこは良いのです、芽吹かせる事ができるかの確認ですから……」


そう言いながら、白磁のエルフとしては豊かな胸元に種を挟み込む。


「ガゥ……『おい……』」

「種を温めて孵化させるのですけど?」


そうなのか? 鋼の賢者グレイオも懐から取り出していたが……

奴も…… まさかな。


まぁ、グレイオの爺さんが世界樹に拘っていたのも理解はできる。


西方諸国で唯一世界樹を保持しているのが、終戦協定に基づいて若い世界樹を移植してもらったフィルランド共和国だ。


国家規模で移植された世界樹を研究、育成してその枝葉を他国に輸出することで富を得ており、リアスティーゼ王国としても羨ましかったのだろうが……


「…… グォルヴォアン?『…… それは必須なのか?』」

「えぇ、勿論です。私たち、白磁の氏族が暫く肌身離さずに温めて発芽条件を満たします」


「ワォア、ヴァルア ヴァン クルォアァアン……

『じゃあ、世界樹を人族が芽吹かせたというのは……』」


「虚言の類でしょうね…… 人族どころか、青銅や黒曜の氏族にも無理ですよ?」


スティアが可愛らしく小首を傾げる…… そうか、遥か東方の地で世界樹を芽吹かせたという記録は嘘だったのか。グレイオ爺さんのやっていた事は徒労だったようだな…… ご愁傷様だ。


ともあれ、昼食を平らげたので席を立つ。そして、手早く片付けを済ませた後に幌馬車で王都セルクラムへと出発し、翌日の夕方には再び王城内郭の馬出しへと辿り着いた……



「おかえり、アーチャー」


「ご苦労様です、首尾のほどは…… 上手くいったようですね」


そこでは既に、エルネスタと褐色の騎士グレンが佇んで俺たちを待っていた…… 先程、王都に入る前に上空を魔女の使役する白鳩が旋回していたので、こちらの帰還を把握していたのだろう。


出発時よりも幌馬車の数が増えていることで状況を察したグレンがその内側を確認して歩き、王都の子供たちを見つけて、何やら確認をしていく。


「王都で拐かされた子供たちは私たちで預かるからね」

「ウァオオォン…… 『よろしく頼む……』」


「そっちはウィアルドの人ね、送りの馬車を町にも寄らせるから安心して」

「はい、ありがとうございます、魔導士様」


ぺこりと頭を下げるセレナに会釈を返し、さらに周囲へ視線を向けるエルネスタの動きが不意に止まった。


「……エルフ? しかも白磁、何故に!?」


よしなに(ウェルア)……」


エルフ語で何やら適当な返事をして、人族の造った王城を物珍しげに見上げるスティアを、銀髪碧眼の魔導士娘が物珍しげに眺める。


「グオァ ガルォウゥ、ウォアルグゥヴァル

『ついでに拾ってきた、森まで連れて帰る』」


「…… 相変わらず、何でもありだね、君は」


彼女が呆れ顔を浮かべたところに、必要な確認を終えたグレンが戻って報告を行う。


「ん、そうね…… アーチャー、違法商人たちもこっちで引き受けるわ。君たちが暴れた後始末もやらなきゃだし…… 彼らの証言さえ取れれば、ヴィルム伯も納得するよ」


「ガオァルォォン『それも任せるさ』」


その言葉を聞いたグレンが控える衛兵たちに指示を出して、奴隷商たちを移送していく。


なお、子供達と町娘のセレナは呼び出されていた侍女が連れていき、入れ代わりに猫耳優男のウォレスがやってきた。その後ろにはエステルとリーリアが控えている。


「アーチャー君、そろそろ日が暮れるし、僕らは街で宿を取ることにするよ」

「…… ガウァルア?『…… エルネスタ?』」


「ん、グレン、彼らと猫人たちの部屋を用意できる?」

「えぇ、既に用意してあります」


それだけ言うと、褐色肌の騎士は踵を返し、猫人たちを連れて城中へと入っていく。


「グルァ、グルォウ クルォウァ (ボス、僕たちも休もうよぅ)」

「ワォンッ『そうだな』」


「クァンッ、ワフォン~♪ (やったッ、お布団~♪)」

「…… ガォゥ、グァルクァアン? (…… アレ、そんなに良いの?)」


ダガーはモフモフしっぽを揺らして喜ぶ、また肌触りの良い寝具にスリスリして毛だらけにするつもりだな……


結局、その日は王城内で一泊し、翌日には用意してもらった幌馬車でイーステリア中部の森へと出立する。


その際に白磁のエルフがいると聞いて、公務をすっぽかして飛んできた老魔術師がスティアに世界樹の芽吹かし方を教えてくれと頼み込んでいたが…… 人族には不可能で、参考文献の内容が捏造されたものだと知り、四つん這いになって凹んでいた。


エルネスタが言うには、数年単位の時間を費やして研究実験を行っていたらしい。


因みに、その参考文献たちは間違った知識を広める偽書として、鋼の賢者グレイオにより王国内における焚書に指定され、燃やされたという……

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― 新着の感想 ―
焚書ww まあ、この知識は嘘知識ですって周知しておかないと年単位で無駄にする人もでるから仕方ないですね。
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