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古代の森での出来事

ゴブリン再登場です!

「…… こちらです、女王陛下」


先導する宰相デルフィスが立ち止まり、振り返ってアリスティアと視線を合わせる。


「?…… 誰もいないのですが、保守派の方々やテオドール卿はどこに?」


テオドールというのは保守派内で過激な思想を持つ白磁のエルフで、今回の改革派への報復襲撃を主導していると彼女は聞いていた。


「いえ、改革派への報復をテオドール卿が声高に叫んでおりましたが、既に私が止めております。無駄に血を流しても仕方ありませんからね」


「えっ、ならば何故……ッ!?」

「「………」」


宰相に問いかけようとしたアリスティアに対して護衛の騎士たち四名が無言で剣を向ける。それを見た彼女は来るべきモノが来たのかと…… 重いため息を吐いた。


「……フォルスのこと、恨んでいるのですね」


フォルスは先の中央議会襲撃事件で殺害されたデルフィスの息子だ。彼は暴力により勝ち取ろうとする自由や平等の無意味さを改革派に訴え…… 最初の犠牲者となった。保守穏健派で緩やかな民主化を主張していたのに。


「………………… 恨んでいないと言えば嘘になります」


青銅と黒曜のエルフに議会への被選挙権を与える法案を出したのは彼女であり、否決された事に逆上して改革過激派の一部が暴走した責任の一端はある。


「ですが、それだけではありません…… 陛下が改革派を後押しする状況が問題なのです。自由に平等、素晴らしいですがね…… 急激な変化は歪を生みます。そしてそれは国を分断するッ!」


「……ッ」


彼女は言い返せない。実際に議会襲撃事件で多数の死傷者が出てしまってから、保守派と改革派は一触即発の状態になっていた。


「私が保守派を抑え、貴女は改革派を抑えてくれれば、緩やかな民主化も可能だったのにッ!……ッ、もう状況は引き返せないところまで来ています」


「それなら貴方が私を諫めてくれればッ……」


彼女の言葉にデルフィスは首を左右に振る。


「何度も具申しましたよ…… 理想で曇った貴女の目には何も映らなかったですがね。貴女の即位を後押しした一人として、最後は私の手で終わらせましょうッ」


ヒュッ……トス


「あっ、ッうぅ…… ッ」


彼のレイピアがアリスティアの胸の中心を穿ち、身体から血と共に力が抜けて徐々に頽れていく。


「灰燼に帰せ、蒼き焔ッ」


彼女に向けて、止めを刺すと同時に遺体を燃やし尽くそうとデルフィスが炎を纏わせた腕を突き出す。


その瞬間、全ての者の意識が地面に倒れ伏すアリスティアへと集まっていた…… 居住区の結界から離れたゴブリンどもが徘徊する場所であるのにだ。


「ギャゥア――――ッ!! (ヒャッハ―――!!)」


雄叫びと共に樹上から、両手にショートソードを持った長身痩躯のゴブリンが身体を捻って回転しながら落ちてくるッ!


「なッ!?ッ、うあぁ―――ッ!!」


ゴブリンの双剣が伸ばしていたデルフィスの腕を斬り飛ばした。


「ギッ、ギゥギレアッ!!(はッ、もらったぜッ!!)」


さらに着地と同時にやや屈みこんだ体勢から、双剣のゴブリンは右手の剣を横一閃に振り抜いてデルフィスの腹を裂き、左手の剣を突き出してそこを貫通させる。


「ぐぶっ、ッ……うッ……」


その光景にエルフたちの視線が釘付けになった瞬間、彼らの背後の茂みや木の陰からも複数匹のゴブリンが飛び出していく。


「ギード ギゥギァスッ!!(ソードに続けッ!!)」

「「「ギィアァァアァゥウッ!!(うおぉおおぉッ)」」」


「うわぁッ!?ッ、うぅああぁあッ!!」

「ぐべッ!? 痛いぃいいいッ!」

「何ぃッ!?」


軽鎧の隙間を狙ったゴブリン・ファイターの刺突がエルフ騎士の脇腹を貫き、捻られた刃が傷口を抉る。


「ぐうぅッ、畜生ッ!!」

「ギ!? ギイッァ……アッ……ッ」


その騎士は痛みに顔を顰めながらも腰に吊るしてある短剣を引き抜き、飛びかかってきた戦士級のゴブリンの眉間に突き立てて絶命させるが……


「ギゥウウァァアァッ!!(くたばれやッ!!)」


「あっ……かはッ、ひぅッ……ッ」


直後に飛び込んできたもう一匹のゴブリン・ファイターの粗末なショートソードが彼の喉を裂き、致命傷を与えた。


その少し隣では、最初の奇襲で太腿に短剣を刺されたエルフの騎士が奮戦しており、彼の一閃が対峙するゴブリン・ファイターの一匹を切り倒していた。そして、さきほど仲間の喉を裂いた戦士級のゴブリンを睨んだ直後……


「ギゥレア グギルァウッ!!(背中がお留守だぜッ!!)」

「ぐがッ、うう、うぁ……」


脚を負傷し動きの鈍くなった彼の背後に回っていたゴブリン・ファイターのロングソードが背中から彼の心臓付近を貫いて絶命させた。


一方で、大剣を肩に担いだ大柄なゴブリンは単独でエルフの騎士へと突進し、奇襲に慌てて振り返るその騎士を一刀の下に切り捨てる。


「ガァアァアッ!! (斬ッ!!)」

「がぁッ!? うあああッ!」


さらに相手が頽れるのを待たずに蹴り飛ばし、奥にいる別のエルフへと距離を詰めて、眩く光りはじめた大剣を脇横へと構えた。


「ギャゥオァッ、グエル ギゥッ!!(切り裂け、光の刃ッ!!)」


大きく捻られた身体の発条(ばね)を使い、ゴブリン・ブレイブが横薙ぎの一閃を放つ。


「くうぅッ! なッ!?」


エルフたちの扱う細身の剣では受けられないと判断した騎士がバックステップで距離を取るも、光の斬撃が飛翔して追い縋る。


「がぁッ、ああ、うぅ……ッ………」


反撃を意識して紙一重で躱したため、まともに光の刃に胸を裂かれたそのエルフ騎士は血を噴き出させながら倒れていく…… 今やこの場に立っているのはゴブリンたちのみだ。


「ギャオアゥ? ギギゥ (こんなもんか?ブレイブ)」

「グッ、ギゥグ…… (ん、お前……)」


戦いを終えて声を掛けてきたゴブリン・ソードの姿形がいつの間にか変化している。肌の色が緑から蒼白い色となり、大きな鼻がやや小さくなって、尖った耳も少し丸みを帯びていた。その姿は人族に近しくなっているが、額には二本の角が伸びている。


「ギゥ、ガレスアギィアッ…… (あぁ、力が漲りやがるッ)」



通称:ソード(雄)

種族:ゴブリン

階級:G・ソードマスター

技能:両利き 腕力強化(中 / 瞬間)

   纏雷剣 初級魔法(雷)

称号:剣聖

武器:双剣 (主) スローイングナイフ (補1)

短剣 (補2)  

武装:レザーアーマー

補助:マント



「…… ギギゥギァ (ブレイブ様)」


巨躯と長身痩躯の二匹の会話にゴブリン・ファイターがおずおずと割り込む。


「ギャゥア? (どうした?)」


「ギゥスレウアル、ギェ ガレギュウエス

(あの森人の雌ですが、もう助かりません)」


「ギァ、ガウルァ ギィウァル……ギャゥルオ グギャォウゥ キュアゥエル!

(まぁ、残念だがしかたないな……こいつらの身ぐるみ剝いで帰還するぞ!)」


ブレイブの指示の下、地面に転がるエルフたちの武装と衣類を剥がして四匹のゴブリンたちが仲間の死体を残して去っていく。ここは厳密に言えばエルフ族の縄張りであるため、上位種のみで構成された小鬼族の精鋭たる彼らも長居は無用である。


………… そして、彼らが去った後にも驚くべきことにアリスティアは生き長らえていた。


「うっ、うぅ……」


白磁のエルフの女王は世界樹と深く繋がっているため、その生命力を分け与えられて一命を取り留めたのだ。ただし、新陳代謝を強引に加速させて致命傷を癒すには身体の負担も大きく、彼女の意識は闇へと沈んでいく……


こうしてアリスティアは意識の無いまま、付近の森でエルフを狙っていた奴隷商に囚われて、四肢を拘束され、魔封じの首輪を嵌められるのだった。


……………

………

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― 新着の感想 ―
まあ政治家は結果が全てだから実際に分断を齎した以上、王政だとギロチン相当よね。 これが選挙で選ばれた指導者なら選んだ民衆にも責任が行くけど、王政だとね。
[一言] デルフィスへの解り味が深すぎて 今のところアリスティアへの嫌悪感しかわかない件
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