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エルフ事変

幌馬車の暗がりの中から翡翠色の瞳が見つめてくる。


エルダーコボルト(エルディスコバルト)何故(ウェア)こんな森の外に(ディエフォレオアルタ)……」


「…… クァルクァ ガルォウァ 『……エルフ語なんて分からねぇよ』」


大体、砂漠の国にエルフなんていなかったぜ。

エルフ娘と俺の間に沈黙が横たわった。


……………

………


さて、ここで少しエルフという種族の歴史を語らねばならない。


イーステリアの森南部から国境を越えて広がる太古の森、そこにエルフたちの国である “鎮守の森” がある。


彼らエルフ族は世界樹を育て、その種を植えることで自分たちの生存領域を拡大してきたが、それは人族との間に軋轢を生む…… やがて彼らが植えた世界樹を人族が伐採したことを切っ掛けにフィルランド共和国との間にフォレストガーデンの戦いが起きた。


現在、“鎮守の森” の外にいるエルフはこの600年前の戦いの際、戦争捕虜として連行された者たちであり、終戦協定の後も還ることが叶わなかった少数の者たちだ。


その者たちも長い時の中で隙を見て逃げ出すか、何かしらの理由で大半が死亡したため、もはや残るのは彼ら彼女らの子であるハーフエルフたちのみ。


なお、終戦協定を取り纏めた当時の大賢者モロゾフとフィルランドの官僚たちが見た “鎮守の森” 王都エルファストは肌の色で明確に区別がおこなわれるディストピアだったという。


頂点に白く美しい肌を持ち、シルバーブロンドの髪に翡翠の瞳を持つ白磁のエルフ、その次は手先が器用で製鉄の技術に長けた青肌、藍色の髪に黄金の瞳を持つ青銅のエルフとなる。


最後にフォレストガーデンの戦いでは、エルフ族の主力であり、一番多くの血を流した小麦色の肌に銀の髪、赤銅の瞳を持つ黒曜のエルフたちだ。


青銅と黒曜のエルフは職業を制限されており、官職や世界樹に関する役目には就けない。さらに居住区も定められ、他氏族との婚姻は認められない。加えて税も白磁のエルフ達に比べて重くなっていた。


「何故、あなた方はそのような境遇を受け入れるのか?」


と、件の大賢者が当時の黒曜の長に問うと……


「…… 自然の摂理ですよ、全ては世界樹の導きのままに」


という言葉が返ってきた。なんでも彼らの生存に必要な世界樹を芽吹かせ、繋がる事ができるのは白磁の氏族だけだという。


だが、僅か二月ほどの大賢者モロゾフ率いる使節団とエルフ氏族たちの交流及び問答はその心に緩やかな現状への問題意識を持たせることになる。


それは被支配側の青銅と黒曜のエルフたちから始まり、長命のエルフ族らしく徐々に時間をかけて支配階級である白磁のエルフたちまで広まっていく。


そして、変化の波は80年前の新女王即位により加速していくことになり、多くの問題や不満を抱え込みながら…… 今この時代に至る。



「女王陛下…… 先程、中央議会の議席を白磁のエルフ以外に認める法案が否決されました」


「…… まだ、時期尚早でしたか」


宰相デルフィスの報告を受けた女王アリスティアが奇麗な翡翠色の目を伏せて溜め息を吐く。彼女が提案した青銅と黒曜のエルフを中央議会に迎え入れる法案が否決されたのだ。


「恐れながら…… 陛下のお考えが急進的に過ぎるのです。思い直していただくことは可能ですか?」


従来の厳格な区別を護る保守派であり、改革派との折衝も務めている宰相は両派の意見を纏めることは不可能だと思っている。


「デルフィス、肌の違いはそこまでに重要なものなのでしょうか?」


「…… 今まで積み重ねてきた歴史というモノもまた重要なのです」


彼の返事はいつもどおりであるが、その時に謁見の間に慌てて飛び込んでくる近衛兵の姿が彼女の視界に写った。


「何事だ、申せ」


「ッ、申し上げます! 中央議事堂が改革解放を標榜する過激派どもから襲撃を受けておりますッ!! 既に保守派議員に死傷者が出てッ」


その報告を受けたアリスティアの表情がさらに曇る。察するに青銅と黒曜の氏族へ議席を解放する法案が否決された事への抗議活動のつもりなのだろう。


「ッ、何故そんな早まったことを」


「陛下、自由と平等を声高に叫びながら武器を手に取って同胞を殺める…… 改革派などその程度の連中なのです。過激派連中を捕縛します…… よろしいですね?」


「………… はい」


暴力による現状の変更を認めてしまえば国の統治など不可能、さりとてもはや同胞を殺めている彼らを庇うこともできない。


こうして多数の保守派議員や巻き込まれた各氏族のエルフたち、多数の死者を出した中央議会襲撃事件は新たな事件を引き起こす。


改革派を後押しする女王の暗殺である。


……………

………


「デルフィス、この先なのですか? 彼らが潜んでいるというのは……」


午後の穏やかな日差しの中、アリスティアが少数の護衛を連れて木漏れ日の中を進む。食後のお茶を楽しんでいたところに宰相デルフィスから危急の報告が入ったのだ。


先日の中央議会襲撃事件で死傷者を出した保守派たちが今度は改革派への報復襲撃を企てているという…… デルフィスは保守派でもあるため、その報告の信頼度は高い。


その宰相が女王陛下ならば、彼らを止めることができると言うのだ、無視することなどできない。何より彼女自身が無益な流血を望んでいない。


(しかし、分かりませんね……この辺りの森は都市や集落の結界範囲外で最近は小鬼族も出るというのに、何故こんな場所へ…… いえ、今は彼らを止めることが先決です)


だからである、デルフィスは女王がゴブリンどもに弑されたという筋書きを立てていたのだ。


彼女は何も知らずに森の中を急ぎ足で進んでいく……

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