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馬車の暗がりにて出会うモノ

静けさを取り戻した街道に時折、負傷して地に這いつくばる護衛たちのか細い呻き声が響く。致命傷を負った彼らの命運は既に尽きかけており、もはや動くこともままならない。


なお、アックスが盾という名の凶器で殴り倒した護衛の戦士、妹に胸を刺されて止血のため動けない金属片鎧の剣士、脚と脇腹に矢傷を受けた冒険者の三人は拘束済みだ。


ぐったりと気絶する小太りの奴隷商人達3名と共に一箇所へ集められた彼らの一人と視線が交差する。


「な、あっ、あんたッ、解毒薬をくれ、か、身体が痺れてッ…… 言葉、分かるんだろッ」


痺れ? あぁ、ブレイザーがエルネスタから貰った麻痺毒を使ったのか。


コボルト族の一部も毒草から抽出した毒液に粘性を持たせたものを扱う氏族がいる。それを黒曜石の槍に塗布して獲物に傷を負わせれば、逃げられたとしても毒により弱った頃に匂いを辿って追いつけるのだ。


ただ、毒の精製はコボルト族では一般的な知識として普及していないため、うちの群れで扱えるのは極少数だ。それもあって興味深そうに男の状態を確認している長身痩躯のコボルトを一瞥すると……


「グルゥ クルァアオ ガルヴォルアァアン

 (俺は使えるモノは何でも使う主義だからな)」


という言葉が返ってきた。


毒矢などは即効性のある物でも効果が出るまでに時間が掛かるため扱いどころが難しいが、好きこそ物の上手なれという事で…… 奴ならば効果的に扱えるようになるだろう。


「…… ウォルガァルォ、クゥア ガルォアン

『…… 単なる麻痺毒だ、諦めて痺れていろ』」


本当は誤って使い手自身が毒を受けた場合の解毒薬をブレイザーが受け取っていたはずだが、効果は数時間痺れるだけだと聞いているので放っておく。


さて、ひと狩り終えたところだが、実はさっきから気になっていることがある。


「……ワゥ、ウォアォルン『…… まぁ、それは後回しだ』」


先ずはウォレスに頼まれた猫人の母娘を確保するため、猫人の匂いが微かにする幌馬車の中を覗くと、暗がりにきらりと光る猫目が4つ見えた。


「うッ、うっう~」

「うぅッ」


幌の中にいても外の戦いの喧騒は聞こえるわけで…… 母親が四肢を拘束された状態でもなんとか身体を動かして娘を背に隠す。


「ウォアフ ガルフォアンッ…… ガゥアルォ クークゥ?

『ウォレスから頼まれてきた…… エステルとリーリスだな?』」


「う?」


暗闇でも委細なく役割を果たす猫人の瞳が銀色の毛並みを持ったコボルトを捉えると、その表情に張り付いた緊張や恐怖が薄らいでいく。


ルクア村の猫人戦士たちがイーステリアの森中部、スティーレ川流域に棲むコボルト族と友好関係にあるのは村では周知の事実である。勿論、そのコボルトの氏族を率いるのが銀毛の弓使いであることも……


俺は幌の中に入って、コクコクと頷く猫人の母娘の拘束と猿轡をとってやる。


「あ、ありがとうございますッ」

「ありがと~、犬さん」


「ウォアン、ガルゥウ クルォ

『構わない、報酬は貰っている』」


そう返しながら、猫耳幼女が幌馬車の外へ出ようとするのを手で制する。


「んぅ?」


「…… グォ ガルォウア『…… 外は戦闘直後だ』」

「あっ……はい、リーリアこっちにきて」


母親が娘を抱き寄せる…… 戦いの後は教育上、よろしくない光景が広がっているからな。


「うっ、う、うッううぅッ!? (コッ、コ、コボルトが喋っているッ!?)」


あまりにも非常識な展開なのに、一緒に囚われていた猫人母娘が普通に銀色のコボルトと会話をしていたため、呆気に取られていた町娘が騒ぎ出す。


しかも、そのコボルトは聞きかじった脅威度E+の弱い魔物という感じではなく、重厚感のある鍛え上げられた体躯をしている。


「う、うッうぅ? (コ、コボルトよね?)」


(…… 確か、ウォレスがウィアルドの町でも町娘がひとり行方不明になったと言っていたな)


恐る恐るこちらを窺う町娘と視線が合ったので、その町娘へも手を伸ばして、猿轡と拘束を解く。


「ひぅッ…………… あ、あれ?」


「ウォアルヴォ グオゥ?『ウィアルドの町の者か?』」

「あ、はい……」


こうしてカーゴタイプの幌馬車にいた3人の拘束を解いた後、一度外へ出てもう一台の幌馬車へと向かうと既に妹が乗り込んでいた。


「ク、キュアンッ、ワファ クルゥウガルォウァンッ

 (あ、兄ちゃんッ、なんか知らない匂いの人がいるよッ)」


そう言いながら、場所を譲るように馬車の荷台からダガーが降りてくる。ここから見える幌の中には王都で攫われたであろう年端のいかない子供3名と暗がりで判りづらいが、シルバーブロンドの髪色をした小柄な少女がいた。


「…… ガォウ、ガルァンクルォオォン

『…… いや、外見は当てにならないな』」


その白みがかった銀髪からの覗く耳が笹穂の形で尖っており、暗がりで微に光る瞳は特徴的な翡翠眼と言われるものだ。


つまり、白磁のエルフである。


三氏族ある森人族の中で指導者的な立場にあるのが白磁のエルフであり、青白い肌の青銅のエルフと小麦色の肌をした黒曜のエルフを従えていると聞く。


なお、イーステリアの森南部を含みリアスティーゼの国境を越えて隣国にまで広がる古代の森といわれる区域にそのエルフたちの国がある。


閉鎖的な種族のため、その内情はよく分からないが、大賢者モロゾフの残した書にはある種のディストピアだったと書かれていた……


先程から気になっていたのもこれで、腰袋の中の “世界樹の種” に宿る暖かな土属性の魔力が微かに反応していたのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シルバーブロンドの髪色をした小柄な少女がいた。 その白みがかった金髪からの覗く耳が笹穂の形で尖っており、暗がりで微に光る瞳は特徴的な翡翠眼と言われるものだ。 >銀髪なのか金髪なのかどっ…
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