それっぽく見える魔法を使ってみる
「ッ、魔物がいるぞッ!!」
「起きろッ!」
「ちッ、どうなってるんだッ! えっ!?……… ぅうッ」
動き出して状況を把握しようとする護衛の一人の眉間にトスっと小型の矢が刺さり、茫然とした後にその男は矢の刺さった額に掌をあてたまま倒れる。
「グルァアァアァッ!! (撃ちまくるぜぇ!!)」
左手の小弓付きガントレットの仕掛けを展開したブレイザーが右手に2本の矢を持ち、カーゴの裏側から姿を現した冒険者風の男にも連射していく。
「ぐ、うあッッ!!」
撃ち出された小型の矢がその男の脇腹と右脚に刺さって、膝を地に突かせる。続いて動き出そうとしていた護衛二名も、その光景と右手に三本の矢を取り出した長身痩躯のコボルトを警戒して足を止めた。
その逆サイドでも、状況に気付いて加勢しようとする護衛たちをアックスとダガーが押さえ込む。
「クルァアオォンッ (燃えちゃえッ)」
カーゴに背を預けて眠っていた護衛の戦士が武器を手繰り寄せて立ち上がった瞬間、狐火が飛来してその身体を包む。
「うあぁあああッ!!」
叫び声をあげてゴロゴロと地面を転がり、その戦士は何とか火を消そうとするが狐火は執拗に纏わりつき、全身に火傷を負わせていく。その様子をみた他三名の護衛もやはり及び腰となってしまう。
そんな状況の下、魔法の構築を終えた魔術師の呟きが聞こえる。
「間に合ったッ、これで……」
不敵に笑う魔術師が腕を振るって数個の白い破片を撒き散らすと、地面に落ちたそれはズブズブと土中へと沈み込んでいく……
「汝の無念を晴らせッ、骸の兵よッ! 地の底から這い上がれ!!」
「「「ウゥゥ……ウウゥ……ウ…」」」
地の底から響く声と共に地面の複数個所から白い腕骨が天に向かって突き出される。続いて頭蓋骨が露となり、所謂スケルトンソルジャーの上半身が這い出してきた。
(ッ、さっきのは骨片かッ、禁呪の類じゃないか……)
素早く地面に手を突いて土属性の魔力を地面に流す。
「ガゥア グルァオッ! ヴォ―オァアァンッ
(大地に還れッ! ターンアンデッド【※嘘】)」
「ウウゥウ……」
「ァアァア…ァア」
地面より這い出そうとしているスケルトンソルジャーたちの前方の土が盛り上がり、雪崩れるように彼らを埋め戻していく…… 決して聖属性の上級魔法ターンアンデッドなどではなく、単なる土属性魔法 “土流” である。
故にちょっとした時間稼ぎでしかないが…… それで十分だ。
「何だとッ!? 馬鹿なッ、土魔法などでッ!!」
「クルァアッ! (ッ、好機ッ!)」
せっかくの骸骨兵が強引に埋め戻された動揺のため、一瞬の隙を見せた魔術師へとランサーが突進する。それに合わせて俺も短剣使いを押さえるために駆け出した。
「ガルァァアァッ!! (邪魔はさせねぇッ!!)」
「ぐぅッ!!」
ギィイインッ
俺への対処で一瞬迷いが生じた短剣使いはラージナイフを十字交差させて、シミターによる袈裟切りを受け止めるが、その隣ではランサーの斬撃槍が魔術師の鳩尾を貫く。
「ぐぅ……ッあぁ、こんな、ところで……がはッ……」
術者が致命傷を負ったことで、土流の中でもがいていた骸骨兵たちの動きがピタリと止まり、糸が切れた人形のようにバラバラと崩れ落ちた。
「くそ、割に合わねぇッ! 付き合っていられるかッ!!」
その様を見た短剣使いは身を退いて、停車する三台のカーゴの隙間へと姿を隠して逃走を図る。
「なッ、ライオスが……」
「く、本当に割に合わないじゃねえかッ!!」
どうやらバウンサー風の短剣使いは護衛たちから一目置かれていたようで、残っていた護衛五名も周囲の惨状を一瞥した後、じりじりと後退していく。
そして、俺たちとある程度の距離が空いた瞬間、背を向けて都市ケルプの方向へと駆け出していった。
「キュウッ、ガゥアン? (兄ちゃん、追う?)」
「グゥ、キュアォオン (いや、やめておこう)」
一番の目的はウォレスに頼まれた猫人母娘の回収だからな…… あと、商人とやらの確保か? 俺は猫人と人間、それに微かな鉄の匂いなどを漂わせた幌馬車を見つめる。
「ガゥ、ヴォルァアァン…… (さて、終わらせるとするか……)」
曲刀を正眼に構えて、猫人の匂いがする幌馬車へと近づいていく。
「う、うわぁあああッ!!」
その中から短剣を両手で持った男が飛び出してくるが想定の範囲内である。余裕のあるサイドステップで安全圏に身を躱して、斜め横合いから上段に構えた曲刀を振り下ろす。
ザシュッ
「ぐうッ、ああぁッ… ッう…… うッ」
軽装の鎧すら身に纏っていない商人風の男を右肩から胸にかけて曲刀で引き斬ると、そいつは飛び出した勢いのままに呻き声を上げながら前方へと倒れていく。
「ひッ、ひゃあああッ、化け物ッ!!」
「ヴォンッ (煩いッ)」
「うわぁッ!?」
幌馬車の中で腰を抜かして叫ぶ小太りの商人の襟元を掴み、力任せに地面へと引き摺り倒す。その際、幌の中に脅威となる存在がいないことを確認し、無様に這いつくばる商人に剣先を向けた。
「ひぃッ!」
「ガルォアァッ、ワゥウッ! (気絶させろッ、アックスッ!)」
「ワォゥッ!! (えいッ!!)」
恐怖を浮かべた表情で此方を凝視して固まる少々太った男の背後から、その後頭部を狙って蒼色巨躯のコボルトが利き足で踏み込んで大盾を振り下ろす!
ゴチンッ
「あぅ……」
ぐったりと身体から力が抜けて地面に横たわる男へと、俺は腰袋から麻縄を取り出して歩み寄る。そして、仲間たちが周囲を警戒する中、人攫いの奴隷商は御縄となった。
(…… まだ、残り二台の幌馬車の中に商人風の男が二人ほどいるが、そいつらまで昏倒させると御者がいなくなってしまうな)
「ヴァルァアオオォウ、グアォゥ (仮面を持ってきてくれ、ダガー)」
「クゥ、ウォアウォオンッ (ん、ちょっと待ってねッ)」
暫しの後にミスリル製の銀仮面を受け取り、残り二台の幌馬車の中に向けて、手に持つ得物をチラつかせて “説得” する。
「わ、わかったッ! 武器を捨てるッ」
「こ、これでいいんだなッ」
両手を頭の上にあげて幌馬車から出てきた男たちも捕らえ、今夜の狩りは終了した。
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