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何ッ、攻撃が通らないだとッ!

こちらに向かって、必死に走ってくる赤毛の少女を見る限り、どうやら這い寄る鉱石に覆われた大蜥蜴(おおとかげ)から逃げているようだ。


「あっ……」


彼女は俺たちの近くまで走ってくるが、途中で木の根に躓いて倒れ込む。

その瞬間に視線が交わり、意図せずにその絶望的な表情を捉えてしまう。


「グゥッ!(ちッ!)」


短く舌打ちをしながらも、俺は気づけば駆け出していた。


人であった頃の記憶も持っているために見捨てるのは心苦しい。

それに妹が足を挫いて走れないので、戦うしか選択肢はないのだ。


「グルァアッ!!」


咆哮を上げて迫る捕食者に先んじて、素早く彼女を抱き締めて真横に飛ぶ。直後、さっきまで俺たちがいた地点を凄い速度で岩大蜥蜴(いわおおとかげ)の巨躯が通り過ぎていった。


「えっ!? モフモフしてる? 何がどうなったのッ!」

「ワフゥ、ワォアオォンッ! (こら、暴れるんじゃねぇ!)」


混乱する少女を押さえ込んで視線を戻せば、速度を落として体躯の向きを変える相手に得物を構えたバスターが正対して向きあっている。


「グルゥウウォ…… ガゥ、ウォオオァンッ!!

(硬そうじゃねぇか…… だが、それがいいッ!!)」


我が友の中で何かのスイッチが入ったようだ。

得物を肩に担ぎ、腰を落として構えを取る。


「ガルグォウアァ、クゥアウォオオン!!

(この一撃を以って、お前を粉砕する!!)」


噛みつき、圧し掛かろうと突っ込んでくる岩大蜥蜴(いわおおとかげ)の頭部を目掛けて、バスターの重い斬撃が叩き込まれるが……


「ッ、グァッ!! (ッ、ぐぁッ!!)」


自重と遠心力を乗せた剣戟は表皮を覆う鉱石に防がれて、衝撃がバスターの腕に跳ね返る。ただし、岩大蜥蜴(いわおおとかげ)も持ち上げていた頭を叩き落され、大剣で地面に押し付けられていた。


さらに頭部を強打されたためか、一時的にその動きが止まる。


「ワォアオォンッ!! (この機に乗じるッ!!)」

「うきゃあッ!」


俺は抱きかかえていた赤毛の少女を放り出すと、腰の鞘からショートソードを引き抜いて駆け出し、奴の体を覆う鉱石の隙間を狙って切先を刺し込んだ。


「ッ!? グガァアアッ!!」

「クッ! (くッ!)」


痛みに暴れ出す岩大蜥蜴(いわおおとかげ)がバスターの大剣を押し返し、その重量級の巨躯で俺を弾き飛ばす。


「グルゥ、クァアルォアン、ガゥルァアッ!

(大将、さっきのアレを頼む、埒があかねぇ!)」


「ワフ、グルァウ (あぁ、任せろッ)」


そして俺は腹に力を込めて、今度こそ自分の意志で同胞たるコボルト族を鼓舞して基礎能力を高める魔犬の咆哮を響かせた。


「ウォオオーーーーンッ!!」


「ガルウォオオッ!ウォオンッ!!

(滾ってきやがるッ!征くぜッ!!)」


バスターの両腕の筋肉が瞬間的に盛り上がり、渾身の一撃が繰り出される。


「グゥルアアァッ!! (斬ッ!!)」


 ザシュッ!!


鎧代わりの鉱石は砕け飛んだが、岩大蜥蜴(いわおおとかげ)の堅牢な守りに阻まれた大剣は浅くしか刺さらず、奴は旋回しながら怒りに任せた尻尾の一撃を放つ。


「ギャアオォオオッ! (怒)」

「ウォオオオッ!?」


攻撃直後の隙を突かれ、太い尾を側面から喰らったバスターが吹き飛ばされていく。


「グルァアァッ!! (バァスターッ!!)」

「ッ、グオッ、ウルァアァッ!! (ッ、ぐぁ、うらぁああッ!!)」


体勢を整えた腕黒巨躯のコボルトが痛みを堪え、咆哮を上げて気合を入れなおす。


(ッ、大丈夫なようだな)


しかし、どう考えてもまずい…… 攻撃が通らないだとッ。

この状況はいったいなんだッ、さっきから魔物の強さがおかしいだろッ。


森の中にこんなのがたくさんいたら、俺たちコボルトはとっくに全滅しているはずだと、思わず愚痴を言いたくなるが勝機はある。先ほどバスターが岩大蜥蜴(いわおおとかげ)の尻尾で弾き飛ばされた時、露になったその裏側は鉱石で覆われていなかった!


「クルゥ、クァアオォンッ!! (ええい、ままよッ!!)」


俺はその場で跪き、大地に手を突いて魔力を収束させる。


先程、銀色の毛並みになってから本能的に感じていることがあった。それは生物が自身の能力を遺憾なく発揮するため、生まれながらに持つ感覚的理解なのだろう。


恐らく、俺は地と風の魔法を扱える術師型コボルトに変化している!


「ウォアッ、ウォルフッ!! (食らえッ、大地の牙ッ!!)」


「グッ、ガァアーーーッ、ギッ、ギァ……」


岩大蜥蜴(いわおおとかげ)の真下から生えた複数の土塊の牙が腹を突き破って大地に縫い留める。そう、奴の地面に向けた腹側には鉱石による鎧が無いのだ。


背側にしても表皮を覆う鉱石には隙間があり、可動域を確保しているくらいだ。

腹側までゴツゴツしていたらあんなに素早くは動けない。


「グルア、ガォルアン? (大将、仕留めたか?)」

「ガゥ、ウァオゥ (いや、まだだ)」


そこで俺は背後に控えていたダガー(妹)を呼ぶ。


「ワフ? クォン (何?兄ちゃん)」

「クゥア ガォルアゥ (お前が止めを刺せ)」


さっき、周囲の魔物より強かった漆黒の一角獣を倒した時に俺たちは変化したからな…… ダガーに止めを刺させて同じ現象が起きるか確認したい。


「クゥ、ガルクゥガ クルゥーン (でも、この短剣じゃ無理っぽいよ)」

「ガルォウゥ (これを使え)」


俺は腰袋の口から姿を覗かせていた一角獣の角を取り出してダガーに持たせる。


「ン、クルォオゥクォン (ん、やってみるよ兄ちゃん)」


そうして、ダガーは大地に縫い付けられて動きを止めた岩大蜥蜴(いわおおとかげ)の頭部、そこを覆う鉱石の隙間に一角獣の角を深く刺し込んで止めを刺した。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!


ふと気づけば評価やブクマを頂けていた時とか、すごく嬉しいです!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が群れの中でも圧倒的強さを持つことに期待!
2022/04/04 17:27 退会済み
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