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そんなに見詰められると困るんだが……

「う…ッ、あぅ……アル、ヴェ…スタが……」

「あ…ぁッ、主よ……」


「はッ、ははっ…ッ、う… この手で、仇はッ…、取れな…… かったけどッ」

「ッう、黒い雨は…、もう、ッ… 降らないッ」


寝食を共にして、黒雨のアルヴェスタ討伐のために鍛え合ってきた仲間たちの歓喜の声がエリアスの耳に聞こえてくる。皆、流血病に侵されて地面に転がり、青息吐息ではあるが……


「ッ、母さん……、父さん……うぅッ」


私も最近は訓練に明け暮れていて、思い出すことが減っていた亡き両親が脳裏に浮かんでくる。これで、少しでも私と同じような孤児が減れば今までの努力は無駄じゃない。


いままでの歴代の特務部隊は失意のままに病死した者も多いと聞くけど、どうやら私たちはそうならずに済みそうね……


地面に這いつくばりながらも、私は顔を上げて、月明かりの下に佇む獣の姿を借りた銀色の御使いを瞳に焼き付ける……



「……グルァ、ウォウア グルォウウゥッ (……御頭、やたらと視線を感じるんだが)」


「ウォンッ…… (確かに……)」


俺たちから少し先、路上に伏せる藍色ショートヘアの若い女性の聖堂騎士が潤んだ瞳でこちらを凝視している。


その周囲の騎士達も同じような憧憬を込めた視線を向けており、中には両手を組んで祈り出す騎士まで…… いったい何なんだッ!!


「ガルゥウウッ…… グル ワゥウァ ヴォルァオォオン

(居心地が悪い…… 早くアックスのところに行こうぜ)」


「ウォオン (そうだな)」


ブレイザーの言う通り、苦しみながらも微笑みを浮かべて静かに祈りを捧げる聖堂騎士たちは正直、気持ちが悪い。まるでここが礼拝堂になったかのような雰囲気すらある。


それを嫌って、長身痩躯のコボルトはガントレットの仕掛け小弓を閉じ、街路の先に佇むアックスの下へと向かう。俺も機械弓を背負いなおし、途中で投擲した片手曲刀を拾い上げてからその背に続いた。


「グルァアッ、ワゥウ (よく仕留めたな、アックス)」

「クゥンッ、ガゥオルゥ (ううん、偶然だよぅ)」


「ウルォアル、ガルグゥオルァ ウァオォンッ!

(謙遜するなよ、良い不意打ちだったじゃねぇかッ!)」


蒼色巨躯のコボルトの背中をいまや赤茶色の毛並みとなったブレイザーがバシバシと叩く。その様子を眺めていると、頭上でエルネスタの飼っている白い鳩が旋回し、街路に面する家の屋根に留まる。


(ふむ、これでエルネスタはこちらの状況を把握したと…… 後はダガーとランサーか)


俊足の二匹には迂回してアルヴェスタの進路を妨害してもらうつもりだったが、結果的にその手前で聖堂騎士たちが足止めしていた形だ……


撤収の合図を出すため俺は大きく息を吸い込んで、深夜の王都に迷惑なレベルの遠吠えを響かせる。



「ウォオオオォオ―――――ォンッ!!」



…… そして、待つこと暫し。


「アォオオォ―――――ンッ!!」

「クルァアァ―――――ンッ!」


槍使いのコボルトと狐化した妹の遠吠えが返ってきたのを確認した後、俺たち三匹はエルネスタたちと合流するために深夜の街並みを王立魔術学院へ向けてゆっくりと歩き出す。


(何だかんだで、日を跨いで長丁場だったな……というか眠い)


直ぐに寝床へ戻って眠りたいところだったが、俺とブレイザーの身体にアルヴェスタの血が少々付着していることをエルネスタに指摘され、しっかりと王城外郭の井戸水で洗い流す羽目になった。


まぁ、あの場に転がっていた聖堂騎士たちの救助やら、アルヴェスタの残骸などの事後処理などで徹夜となった彼女たちよりましだと思っておこう。


……………

………


翌日は昼過ぎに窓から差し込む陽光で目を覚ました。


「ワフゥ (わふぅ)」


この体になってから初めてのベッドの上で伸びをする。

中々良い寝心地だったな。


因みに、大部屋には人数分のベッドが用意されていたが、それを使ったのは俺と好奇心の強い妹だけで他の仲間達はベッドシーツを床に敷いてその上に丸まって寝ていた。


ある意味、掃除をするメイドが可哀そうかもしれない。ただでさえ、たった1日で室内が毛だらけになっているのに……


「ワオォ、キュウ (おはよ、兄ちゃん)」

「ワフ、ワオォン (あぁ、おはよう)」


一つ隣のベッドでシーツの感触が気持ちいいのか妹がスリスリと身体を擦り付けながら、朝の挨拶をしてくる。あぁ、どんどんと毛がシーツに……


「ガルォゥ、グルァ(起きたか、御頭)」

「ガオゥ (おぅ)」


返事をしながらベッドサイドテーブルに置いたミスリル製の仮面を手に取って装着すると、ちょうど部屋の扉が叩かれる。


「ガルォオアゥ『入ってくれ』」

「失礼します。皆様、昼食の用意ができておりますが、いかがいたしましょう?」


(腹は……皆減っているだろうな)

「クルァオゥ『いただこう』」


入室してきた侍女に案内され、客人用の食堂で調味料控えめのベーコンエッグやパンに豆類のスープを頂く。どうやらコボルトの生態に配慮された献立となっているようだ。


その際に卵と肉を一緒に食べるという未知の体験をした我が友らの喜びようを見て、ルクア村との取引で番の鶏でも購入しようかと思ってみたり……


食後、やはり同じ侍女に案内されて謁見の間ではなく、王が非公式に貴族たちと会う部屋へと通される。そこで待っていたアレクシウス王は満面の笑みでこう言ったのだ。


「く、くくッ、ご機嫌はいかがかな、主より遣わされしセルクラムの聖獣殿」


「ワフィ?『はい?』」

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[一言] 戦った後の遠吠えはかっこいいね
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