製鉄の学習!
これで日常パートはひと段落です!
次話からは新展開で行きます!!
炭を取り出してすぐに、次の炭焼きを始める。
何でも、製鉄の際には結構な量を消費するらしい……
「ワゥウ、ガゥアル、ウァオンッ (アックス、ナックル、任せたぞッ)」
「ワォンッ、グルァッ! (分かったよぅ、ボスッ!)」
「グルォウッ (引き受けたッ)」
主に薪作りを担当していたアックスと仲の良いナックルに炭焼班の作業監督を任せて、俺はバラックたちと一緒にレン炉を作る作業に向かう。
「銀色君、私は革フイゴを作ろうと思うんだけど…… 日干済みの動物の皮とかあるかい?」
俺はいつもの如く石筆を握り、地面にしゃがみ込む。
“革の水筒を作ろうとして、用意してあった乾燥済みの大猪の胃袋が4つほどある”
「じゃあ、それを貰うよ」
「グリマーさん、フイゴの送風口に使うウツギ(空木)も必要だぜ?」
「それは私が探すよ、グリマーさんはフイゴ、バラック君は炉床を造ってくれ」
片手をヒラヒラとさせながら、鉈剣を片手にジョセフが木々の間に入っていったので、その場にいた仲間二匹を護衛に付けた。
彼に何かあればウォレスとリズに合わせる顔が無いからな……
猫人農家が去った後、広場の一角にバラックが石斧で穴を掘り始める。
大きさはそれほどでもない様だが……
「おい、垂れ耳のちっこいの、ちゃんと見とけよッ!」
「ワフッ?」
ここ数日、猫人職人ズに付き纏っていたコボルト・スミスはもはや顔なじみだ。
彼はスミスを手招きして作業の様子を見せる。
「先ずは穴に石を敷き詰める、そこに今度は炭を並べて、さらに周囲を粘土で覆う」
その作業で掘った穴の大部分が埋まった。
「土窯と同じく風上に焚口、風下に不純物の流出口がある粘土製の炉を造るんだ」
スミスにじーっと見つめられながらも、猫人鍛冶師は土台から高さ1.2mくらいまで円筒型の炉を形作り、その焚口と流出口の手前を浅く円形に掘る。さらに、その四隅に革フイゴ用の送風口とするための穴を開けた。
「と、まぁ、こんなもんだ」
「ウァウ、グルォ ガルァッ! (スミス、俺たちも作るぞッ!)」
「ワンッ、グルァッ! グルォアオッ! (了解、ボスッ! 皆、やるぞッ!)」
原始的な炉床とレン炉の作製自体はそこまで難易度が高くはないため、俺と垂れ耳コボルトたちの手によって、ほどなくして2基目のレン炉ができる。
「実は今日できるのはここまでだ。粘土を乾燥させてやらないとな、今日は狐の嬢ちゃんはいないのか?」
“あぁ、川辺にチビたちを連れて水浴び中だ”
「なら、火打ちするか」
懐から火打石と打ち金をバラックが取り出し、俺は麻の繊維の火種を腰袋から取り出して渡す。
彼は炉の焚口に火種を入れて火を灯し、息を吹きかけて火勢を強め、そこに木炭をくべた。黒い木炭がじんわりと赤みを帯びて、レン炉を内側から乾燥させていく。
「ウォアンクルゥ ガルァオッ? (火を出さずに燃えているッ?)」
その熱量から危険を察し、伸ばしかけた手を引っ込めたスミスが炭を奇妙な物を見る目で繁々と眺める。それから暫く彼は飽きもせずに徐々に灰になる炭を眺め続けていた。
「アーチャー、炭の灰もそのまま使うから捨てないでくれよ」
「ワォン (分かった)」
俺は返事をしつつも首肯で意図を伝える。
丁度その時、手頃な直径の空木の幹を数本伐採したジョセフが戻ってきた。それを加工していると、グリマーが革と棒、麻糸で作った革フイゴの本体を持ってくる。
その側面には吸気口があり、そこから空気が漏れないようにするため、革を重ねて作った丸弁が内側から付いていた。
「そっちのノズルにも逆流防止の革弁をつけるから貸してくれ」
彼の持つ革を重ねた弁は下の一枚だけ長く伸びた長方形になっている。それを短く切った細いウツギの幹の先端に膠で接着する。
「革弁のつなぎ目を上にすると自重で革弁が自然と閉じるんだよ、送風の時はこれが押し上げられて、吸気の時は落ちて閉じる寸法さ」
さらにやや太いウツギの幹を短めに切って、その空洞をルクア村から持参したノミで調整しながら拡張していく。そこに先ほどの弁付きの細いウツギの幹を刺し込み、その反対側にも切断した残りのウツギの幹を刺し込んで膠で固める。
中間部分だけ太いウツギでその両端に細いウツギが刺さる形のノズルができあがり、革フイゴの本体に取り付けられる。
「よしッ、逆流防止弁も機能している。これで完成だ!」
「ありがとう、グリマーさん。残りの革フイゴも頼む」
同様の作業が繰り返され、合計で4つの原始的な革フイゴが作られた。
で、翌日やっとのことで集落初の製鉄作業が朝から行われる。
(…… 思えば、鉄鉱石を探しに東の山脈に行って、バルベラの森で魔物の強さに挫折したり、色々あったな。そういえば、ミュリエルは元気だろうか?)
不意に赤毛の魔導士を思い出している間にも作業は進む。俺の目の前では高さ1.2メートルほどのレン炉の焚口に火が放り込まれて、炭がくべられていく。
「さあ、どんどん炉の上穴から炭を足してくれ! 下から天辺まで炉の中を炭で満たすぞ」
バラックの指示の下、グリマーとジョセフが炭を炉の上穴から継ぎ足していく。
「アーチャー、皮フイゴで微風を送ってくれ」
俺は垂れ耳コボルト達に指示を出して、革フイゴを用いて微風を送らせる。燃焼により炉を埋める炭の高さが減じるとさらに上穴から炭を足していくこと2時間、やっと炉が暖まり、炉の上穴に灯る炎の色がオレンジとなる。
「今の炎の色を維持するように送風をするぞ、最後までこのオレンジ色を保つんだ!」
そして、また炭の高さが減じた際に砂鉄を投入する。
「グリマーさん、減った炭の分だけ炉の上穴から砂鉄を入れてくれ! ジョセフさんは石灰の粉を頼む」
「任せてくれ」
「あいよッ!」
川辺で採取した砂鉄と石灰を砕いた粉を二人がシャベルで投入し、すぐさまバラックがその上に炭を同様に上積みしていく。さらに炉の内側に詰まった炭の高さが減じれば、同じ行為を繰り返す。
時折、バラックが自前の鋼鉄の棒で炉の隅を上からつつき、炉内に隙間ができないように手を加える。
「おいッ!ちっこい垂れ耳、お前邪魔だッ!!」
「ワフッ!?」
そのバラックの作業をよく見ようと近付いたスミスが怒鳴られ、ビクついてしっぽを丸めていた……
「ちっ、風が足りねぇ…… 温度下がってんぞ! 何やってんだよッ!!」
「グルァ、クルゥ―ンッ!(ボス、もう無理ッ!) 」
「ウ、アゥウ…… (も、ダメ……)」
「クゥ、ルゥァ!? (まだ、なの!?)」
ひたすら革フイゴを押し引きしていた垂れ耳コボルトたちがへばっている。
すまない、作業を注視していて交代の指示を出すのを忘れていたんだ……
「ガルァッ!(交代だッ!)」
「「「ワォンッ (うんッ!)」」」
垂れ耳コボルトたちから1歳世代のコボルトらに作業を引き継がせ、一時的に火力を上げるために俺も風属性魔法を使う。
「ウォフ、オアァンッ! (風よ、吹きすさべッ!)」
焚口に向かい風を吹き込ませると、炉に灯る炎が燃え上がり、その色がオレンジに戻った。
「火勢はこのままでいくぞッ!!」
やがて30回ほど砂鉄と石灰粉の投入が終わった時点で、製鉄作業の終わりも見えてくる。炉の流出口からはドロドロに溶けた不純物が流れて、掘られた円形の窪みに溜まっていた。
そこから砂鉄の投入を止め、炭の上積みを数回行い、炭の高さが炉内の半分になるまで待って送風を止める。
「送風はもういい、お疲れ様だったな皆。炉を解体するぞッ!」
猫人鍛冶師が手に持った木槌でレン炉を破壊すると、その中には赤熱した海綿鉄の塊ができあがっていた。
「さあ、叩き込むぜッ!!」
それを猫人職人ズの3人が木の棒で三点保持して、隣の大きめの切り株の上に置く。もちろん、木の棒も切り株も燃えているが…… 大丈夫なのか?
ジュウゥウゥッ
ジョセフが粘土製の瓶にいれた水を海綿鉄にかけたことで水蒸気が立ち上った。
「しゃあッ!!」
叫び声と共に気合を入れたバラックがハンマーを振り下ろすッ!!
ガンッ ガンッ ガンッ
何度も打撃が海綿鉄に加えられて、そこに含まれる不純物が叩き飛ばされる。
やがて純度の高い鉄塊ができあがった。
「…… ふぅ、こんなもんかな?」
なお、この鉄塊は後に平らな石の上で打ち直されてランサーの新しい槍に生まれ変わるのだった。
鍛冶作業が終わり、次のジョセフの畑づくりも大きな問題はなく進んで、猫人の職人たちは半月ほど集落の仲間たちを指導した後、ルクア村への帰路に着く。
勿論、俺たちも道中の護衛として同行した。
その際、初めてルクア村の村長に会ったり、リズに稽古をつけてほしいと頼まれたり、色々とあったが…… その話はまた機会があれば話すとしよう。
そして平穏な日々が続き、警戒を忘れた頃に厄介事はやってくる……
読んでくださる皆様には本当に感謝です!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります!!




