登れ!白銀の螺旋階段
その後も数日間は問題なく旅路を進んだのだが、結論から言えば俺の目論見は甘かった。
集落から川沿いに山脈へと向かう経路にはベテランの冒険者でも不用意に近づかない “バルベラの森” と呼ばれる危険地帯があったのだ。此処では稀に他と一線を画する強力な魔物が現れて猛威を振るう。
そう、今のように……
「クルァッ! (うおッ!)」
「キュアッ! (うひゃあッ!)」
俺とダガーが突進してくる漆黒の一角獣を左右に分かれて躱す。その際にやや遅れてダガーが右手の短剣を横腹に突き出すも、既に駆け抜けた奴の尻尾を掠めるのみだ。
「グォアァッ!! (この野郎ッ!!)」
「ヒィンッ!」
気合いと共にバスターが大剣を振るうが、ひらりと避けられて漆黒の一角獣にはあたらず、不意を突いて袈裟切りに振るった俺のショートソードも頭部にある角で弾かれてしまう。
(やべぇ、勝てる気がしねぇ……)
いきなり魔物の強さがインフレしている。確か、魔獣化した一角獣は倒した獲物を角で突き刺して生き血を啜ると傭兵時代に聞いたことがある。地味に怖いじゃないか……
「グルァ、ガルォ クァアルオォン? (大将、ここは退くべきじゃないか?)」
「ウォルガァル、ウォアオォウ!! (相手は馬だからな、樹上に上がるぞ!!)」
俺達は脚に力を溜めて次の突進を躱した後、分散して木の上に登ろうと身構えるが……
「クァン、ク、クゥオーン…… (兄ちゃん、あ、足挫いちゃった……)」
「グッ、ウォオオァン (ちッ、やるしかないか)」
先ほど漆黒の一角獣の突進を避けた際、足場の悪さもあって足を挫いてしまったようだ。利き足を後ろに引きずりながら、一角獣と正対しないように円の動きを取っている。
「グルァ…… グルゥ ガルグォアァオン (大将…… 俺が奴の動きを止める)」
「ワフィ? (何?)」
俺が止める暇もなくバスターは大剣を地面に突き刺し、両手を打ち鳴らして漆黒の一角獣の注意を引く。
奴は巨体に似合わない軽快なステップと刃を弾く角を持っているが、獲物を仕留める一撃は突進だ。それを受け止めるというのか? 無茶だろッ!!
「グァウ、ガルグァウ グォアルォオオンッ!!
(一瞬だ、この一瞬に全てを懸けるッ!!)」
バスターの挑発が効いたのか、それとも武器を手放して両手を広げた相手を御しやすいと考えたのか、漆黒の一角獣はその驚異的な瞬発力で巨躯のコボルトに突っ込んでいく。
「ヒヒィーンッ!!」
「ウォオオーーーッ!(うぉおおーーーッ!)」
バスターは身体を屈め、両腕をクロスさせた状態で衝突の瞬間に下から一角獣の喉を打ち上げた!
「ブルァッ!?」
一瞬だけ、漆黒の一角獣の動きが止まる。
そして、その隙を逃す俺ではない。
「グルァアッ! グァアアァーン!! (でかしたッ!バァスターッ!!)」
俺は身体ごと突撃するように一角獣の横腹にショートソードを突き刺し、捻りを加えて傷口を広げた。
「ヒィイイーーーーーンッ!?」
奴は悲鳴を上げながら死に物狂いで暴れ出して、纏わりつく俺たちを振りほどこうとする。
「グァ!?」
「クゥウッ!」
最後の力で躍らせた馬身に弾き飛ばされるも、自ら後ろに飛び退ることで衝撃を殺す。それでも、レザーアーマー越しに重い衝撃が抜けて思わずよろめく。
何とか堪えて奴を視界に収め直すと、既に直立しているのが限界の状態であり、その足元には血だまりができていた。
(ッ、勝負あったな……)
俺は再びショートソードを上段に構え、バスターは地に刺した大剣を引き抜いて肩に担ぐ。そして、共に刃を振り下ろして戦いの幕を下ろしたのだった。
……………
………
…
で、気が付けば真っ白な空間にいる。
さきほど、漆黒の一角獣に止めを刺したはずなんだが…… ダガーとバスターはどこに行ったんだ?
辺りを見回すと、天を衝く巨大な白銀の螺旋階段がある。
それを見た瞬間、頭の中に知り得るはずのない知識がなだれ込む。
「…… ワォフヴォルグ (…… 終極の螺旋階段)」
そう、ここは生命の樹の最下層、つまりは俺たちコボルトのような低位階の魂の集う場所。
俺は本能に突き動かされて、その螺旋階段を昇っていく。
俺以外に生き物の姿はないにもかかわらず、どこからか多くの視線を感じて幻聴のような祝福や喝采が聞こえてくる中を進み、踊り場のような場所に到達する。
歩み始めた地点があまりにも低く、まだ終極の螺旋階段を昇り始めたばかりであるが、個人的には大きな前進だと考えた直後に意識が光に飲まれた。
先ほど流れ込んできた知識が再び流れ出ていくのを感じながら、俺の意識は現実へと浮揚する。
「ワフッ?」
一瞬だけ意識が途切れたような気がして状況を確認すると、俺の目の前には絶命した一角獣が倒れており、流れ込む生命力と魔力が俺を充実させていく。
ふと、そこから視線を上げると一つの異常に気付いた。
「ガゥ、グルァア、クゥアルァン ワォアァン!?
(おい、バスター、お前の毛色が変わってるぞッ!?)」
その腕の毛は二の腕まで鮮やかな漆黒に変質していて、腕自体が他の部位と比べて違和感がある程に筋骨隆々となっている。
一見するとコボルトの上位種、コボルト・ファイターに思えるが、しっぽがやたらと長くなっていたりと微妙に異なっていた。
「グルァ、ワファオォンッ!?(大将も、何かちげーよッ!?)」
「クォン、クゥーン……(兄ちゃん、綺麗……)」
「ワゥ?(へッ?)」
そう言われて自分の腕を見るといつもの茶色い毛ではなく、灰色に近い銀の毛色になっている。心なしか艶やかにもなっている気が……
思わず後ろを振り返り、しっぽを見ると何故かモフモフ感が増していた。
(何なんだいったい……)
ずいぶんと後になって知ることになるが、この時、バスターはコボルト・ファイターの亜種であるコボルト・ウォリアーに、俺は変異種のハイ・コボルトに進化していたのだ。
通称:バスター(雄)
種族:コボルト
階級:コボルト・ウォリアー
技能:腕力強化(大 / 効果は一瞬)
称号:一瞬に全てを懸ける犬
武器:大剣
武装:レザーアーマー
補助:マント
通称:アーチャー(雄:俺)
種族:コボルト
階級:ハイ・コボルト
技能:初級魔法(土・風) バトルクライ(コボルト族鼓舞)
称号:大将(若しくはボス)
武器:弓矢(主) ショートソード(補)
武装:レザーアーマー
補助:なし
ここで序章は一区切りですね~(*'▽')
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