コボルトハウス一軒目
ガチで家を作る話になってしまいました…… orz
ガッ ガッ ガッ
作製した木の杭を手に川辺の土を掘ると、やがて浅い部分で粘土層に達した。
「ガゥッ、ガオルゥオァンッ! (よしッ、粘土を確保だッ!)」
ただし、その粘土は少し硬かったので、俺は川から掬った水をかけて柔らかくする。ふと、周囲に視線を向けると、1歳世代の若いコボルトたちが一心不乱に木杭で地面を掘り返していた……
「ワオゥ、ワオゥ、ウァアンワオゥッ♪ (掘るよ、掘るよ、どんどん掘るよッ♪)」
「クゥワオゥ、ワンワン♪ (ここ掘れ、わんわん♪)」
そう、俺たちコボルトは穴を掘るのが嫌いじゃないのだ。
「…… グルォァ、ガオルゥクァ? (…… お前たち、粘土はどうした?)」
「「ワゥ!? (はッ!?)」」
…… ダメだ、こいつら穴掘りが楽しくなって目的を忘れてやがる。
「キュウ、キューン…… (兄ちゃん、ごめん……)」
「グルゥオッ! (お前もかッ!)」
そんなこともありながら俺たちは時間をかけて川辺の土手を削り、結構な量の粘土を掘り出した。今はそれの品質を猫人鍛冶師のバラックが確認している。
「よしッ、中々良さそうな粘土じゃねえか! これならいい炉が作れる。耐火性は…… 実際に作って、使ってみないと分からねぇか…… まぁ、砂鉄を含む土の質も悪くなかったし、これは何とかなりそうだ」
「バラック君、余ったら試しに日干し煉瓦も作ろう。使い出がある筈だ」
そう言うグリマーの手には大量の葉っぱが抱かえられている。
ふむ……
俺は石筆を取り出して、地面に文字を刻む。
“それを粘土に混ぜるのか?”
「そうだけど、先ずはすり潰して余計な部分を削ぎ落とし、繊維状にしてからだ。それを混ぜることで粘土が乾燥のときに割れ難くなる」
猫人大工のグリマーは平らに近い岩の上に葉や茎をのせ、石斧を何度もこすりつけて繊維をむき出しにする。俺たちも大量の葉っぱに手を伸ばし、彼を真似て手伝った。
それにしても、元々の仲間たちよりも垂れ耳コボルト達の方が器用だな…… これは良い拾い物をしたのかもしれない。
その取り出した植物繊維を粘土に混ぜた物を運んで集落の広場へ戻ると、さっそくグリマーは自分たちの寝泊まりする家の作製に入った。
どうやらそれが最優先らしく、先に戻ってきていた猫人農夫のジョセフやバラックの二人も彼の補助に付いている。
「さて、柱を立てる穴からいきますか!」
ゴッ ゴッ ゴッ
ジョセフが木杭を固定し、バラックとグリマーの二人が河原で拾ってきた平らな部分のある大石を持ち、上から打ち付けていく。
事前に木杭に刻んだ線の位置まで埋めるとそれで終了らしい。
それを繰り返して、直線状に3個、その対面にも同様に3個の穴があけられる。
「次は基礎になる柱だな、先ずは中心の穴に一番高い柱を立てる。枝を切って高さもそろえた対の柱を加工しないとな」
「分かった、それは俺がやろう」
バラックは同じ高さに2本の木を加工し、枝を鉈でそぎ落としていく。さらに、完成した2本の先端同士に横木を渡して蔦できつく縛ると、遥か東洋の島国にあるという”鳥居”のようなものができた。
それを中央の杭穴に埋め込んで立てる。同様にその左右の杭穴にはそれよりも少し高さの低い“鳥居モドキ”が打ち立てられた。
(なるほど、真中が高くてその左右が低いのは屋根の傾斜を作るためか……)
そのあたりから、彼らをキラキラした瞳で見つめていたコボルト・スミス(仮)も作業に加わり、なりゆきで俺たちも手伝いに参加する。
「…… かえって、作業速度が落ちる気がするんだがよ」
というのはバラックの言葉だ。
「取りあえず、垂木をつくるからこれと同じ長さの木を10本つくってくれ」
俺はグリマーから受け取った長さの基準となる細い木をスミス(仮)に渡して、左手の親指だけを曲げる。因みに左手指の曲げ伸ばしは十の位を表し、親指だけならば10個という意味だ。
「ワンッ、グルァンッ!(うん、やるよッ!)」
彼は自作の石斧で機嫌よく木の枝を切り落とし、基準木を添えて長さを測ってから切断する。さして時間もかからずに長さと太さが均一的な木材10本が用意された。
「ありがとう垂れ耳君、君は器用だね」
それを受け取ったグリマーが2本の先端を蔦で結びつけて、左右に開くと“への字型”の垂木が完成する。それを5組作り、屋根骨として中心だけ背の高い三連の“鳥居モドキ”に被せていく。
段々、家っぽくなってきたなッ!
何故か俺のテンションも上がってくる。
「と、これでいいのかい?グリマーさん」
「ありがとう、ジョセフさん」
感動する俺の側で、横木に大き目の枯葉をびっしりと突き刺したものを作っていたジョセフがそれをグリマーに渡す。彼は受け取った葉刺し横木を屋根の骨組みに蔦で取り付けていく。
同様のものを俺たちも作り、それが次々と取り付けられる。最後にバラックがナイフで剥がしてきた樹皮をその上に被せて固定した。
「グゥ、クォァ…… (おぉ、屋根だ……)」
「さあ、どんどん行くよ」
あたりは既に暗くなってきているが、夜目の利く猫人たちは関係無しに作業を進める。
「グゥ、グルォウォオッ、グルァ (何だ、まだやってるのか、大将)」
「ガルゥオ、グルァオ (戻ったか、バスター)」
「ガオゥ、グゥオァアン? (どう、何か捕れた?)」
「グォァ、グルォアッ!! (あぁ、上々だッ!!)」
ドサッ
バスターは仕留めた角鹿をアックスの前に降ろす。どうやら、他の狩猟班たちも成果を得て徐々に集落へ戻ってきているようだ。
「グルゥ クァオゥワン、グルァ (私は調理に回るわね、ボス)」
「ガルァ、グルゥッ! (んじゃ、あたしもッ!)」
「ガルゥウォアッ (俺が運ぼう)」
細かい作業が不得手で手持無沙汰になっていたナックルがここぞとばかりに仕留められた角鹿を担ぎ、妹やランサーと一緒にこの場からそそくさと去っていく……
夕飯は妹たちに任せるとして、屋根の次は壁面か?
視線を戻すと、猫人職人ズは裂けやすい若木を適度な長さに切断した後、天辺に切り込みを入れて縦に裂き、それらを横木として蔦で結び付けて壁面の骨組みを形作っていた。そこへ採取した粘土に水、土を混ぜた泥を内外から盛り付けて土壁と成す。
その土壁が完成した直後、グリマーが暴挙に出る。
「ガ、グルォッ!? (な、何をッ!?)」
「クゥ!? グルゥッ (え!?何でッ!!)」
俺とスミス(仮)が唖然とする中、彼はせっかく造った土壁の一部に石斧を叩き込んでぶち壊したのだ。そのグリマーと俺たち2匹の視線が交差する。
「ん? あぁ、これかい? 暖炉を作るんだよ、夜の森は冷えるからね。僕たちは君らみたいにモフモフじゃないしね……」
なるほど、そういうことか。事情が分からず、しきりに首を捻るスミス(仮)に説明をしてやる。そのついでに閉鎖空間で火を使うことの危険性も教えておいた。
「煙突は俺がやるから、グリマーさんは内側を頼む」
「了解~」
バラックが器用に壁面に粘土を含む泥を盛って煙突を形成し、内側ではグリマーが暖炉を粘土主体で作成する。少し離れたところではジョセフが木を束ねた簡易のベッドを作っていた。
「と、これで完成か?」
「いやまだだよ、バラック君。家の中で火を焚いて、木材と土壁を燻しながら乾燥させないと……」
家の中に入ったグリマーが中心に穴を掘り、乾燥した落ち葉を砕いたものと麻の繊維を放り込み、火打石を取り出す。
そこに夕飯ができたのか、俺たちを呼びに戻ってきた妹が両手を突き出す。
「キュウッ、クルァ―ンッ (兄ちゃん、任せてよッ)」
その先端部の白い手の間に小さな焔が生まれた。
【発動:狐火】
【効果:火の玉を生じさせて操ることができる。※投擲可能】
「…… ウォアオォン (…… いつの間に)」
「あれ、狐の子は火属性魔法がつかえるのかい?じゃあ、頼むよ」
妹が自慢気な顔で火を灯し、アックスお手製の薪をくべる。
これからは火打石を使う機会が減りそうだ……
夕飯を猫人たちと共に食べた後、建材を乾燥させる必要があるためにまだ時間が必要とのことで、彼らは結局、俺の巣穴で一夜を過ごす。
その翌日には、完成した建物に干し草を敷き詰めて、ベッドを設置して集落初の家が誕生する。
ただ、それは空間的に2人用だったようで、年功序列でグリマーとジョセフが使うことになった。そしてバラックは愚痴を零しながら、直ぐに次の家の作製を始めることになるのだった。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります!!




