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垂れ耳コボルトとの遭遇

四匹のコボルトと猫人たちがゴブリンどもと戦いを繰り広げているその時、イーステリアの森中部のスティーレ川沿いにある犬人族の集落では穏やかな時間が流れていた。


「クゥ~ンッ!? (なんか揺れるよぅ!?)」


事件といえば、生後四ヶ月の幼い仔ボルトが自分の尻尾を追いかけてぐるぐる走り、目を回してポテっと倒れているくらいだ。


そんな微笑ましい光景を遠目に見ながら、穏やかな木漏れ日の下、蒼い毛並みの巨躯を持つアックスは腰を下ろして大木にもたれかかっていた。


「ワファン~、クルァウォ♪ (平和だな~、癒されるよぅ♪)」


どこかで聞いた台詞である。


「ウァ!? (はッ!?)」


彼はかつて似たような状況で悪友に不意打ちされたことを思い出し、唐突に身を起こして左右を確認してから頭上を仰いだ。


その瞬間を狙って、気配を殺して風下の茂みに隠れていた長身痩躯のブレイザーがスリングショットで保存食のドングリを撃ち出す! それは樹上を警戒するアックスの前を横切るが、上を向いた彼は気づけない。


結果、ドングリはブレイザーの潜んでいる反対側の茂みに飛び込んで音を鳴らした。


「ワフッ!?」


そして、アックスが反射的にそちらを向いた瞬間にブレイザーが低い姿勢で飛び出す。


「グォアッ、グォオルァ!! (うらぁッ、不意打つぜッ!!)」

「ギャフンッ!?」


アックスの後頭部にポコッと木剣があたる。


「クォオフゥ、クァッ! (何すんだよぅ、もうッ!)」

「クゥウォアルォン? ワゥウ (少し油断しすぎだろ? アックス)」


今は野盗から奪った武器で武装した仲間が十数匹いるとはいえ、群れの主要なメンバーで残っているのは彼ら二匹だけである。確かにブレイザーの言うことも間違いではないが、アックスの穏やかな性格では仕方がないとも思えてしまう……


「ウォオン、グルォワォオオン ワファ?(ところで、皆の訓練はもういいの?)」

「グゥ クルァオル (今は休憩中だ)」


「…… ガゥ クルァオッ、グルゥグァアオン

(…… なら休憩しなよ、僕に構わないでさ)」


アックスがジト目でブレイザーを見つめていると、葉擦れの音を響かせて武装した仲間が駆け寄ってきた。ブレイザーが交代制で出している見張り役のひとりだ。


「……ガルォン? (……どうした?)」


「ウルォ クォウオァン、ガゥル クルゥ ガァオォウル

(知らない同族がきた、なんか耳が垂れているのもいた)」


この集落のコボルトの耳は皆ピンと立っているため、耳が垂れているコボルトが珍しいのだろう。


「グルォンッ、ワゥウ (行くぞッ、アックス)」

「ワゥッ! (うんッ!)」


長身痩躯のコボルトは木剣を放り投げ、蒼い巨躯のコボルトが地面に寝かせてあった戦斧の柄を掴んで立ち上がる。そして、二匹を呼びに来た仲間に先導され、集落南側の森へと駆け出すのだった。


一方、こちらは件のコボルトたち、確かにその耳は皆垂れている。実は元々、ここより南に二日ほど下った窪地に小規模な集落をつくっていた犬人族の一部だ。


しかし、二ヶ月ほど前、ゴブリンたちの群れに襲撃を受けて集落を追われた彼らは森の中を転々としていた。最初は川沿いに東へ逃げたものの、森の奥に近付けば強力な魔物と出会うリスクがあるため、そこから北西に進路を変えて今に至る。


「ワァゥ、ウォアァオン? (兄者、気づいてる?)」


「グァ、ガルァン ワォオオォンッ……」

(ああ、他の群れの縄張りに入ったな……)


少し前から、意識を集中させれば微かに同族の匂いの残滓を感じることができた。故に、小規模な群れを率いる一番体格の良いコボルトが警戒を強めていく。


その犬人の四肢と拳は他の仲間と比べて遥かに発達している。


もし、ここに生物学者を自称する赤毛の魔導士がいたら目を輝かせて喜んでいただろう、犬人系亜種の中でも珍しいコボルト・ストライカーがそこにいた。さらに彼を兄者と呼ぶ小柄な犬人は手先の器用さを特徴とする亜種コボルト・スミスである。


しかし、彼らは気づいていない。風向きに注意を払い、距離をあけて匂いを嗅ぎ取られないように注意しながら、彼らを観察する別の群れのコボルトたちに……


(…… 弓矢は風上、奇襲は風下ッ!)

(機を待ち、動かざること石ころの如くッ!)


いかに最小の損害で最大の成果を得るかを考えた挙句、不意討ち万歳となったブレイザーに仕込まれた三歳世代の武装コボルトたち二匹である。


密かに縄張りへと侵入してきた余所者のコボルトたちを見張っていた彼らの傍に、待ちわびた現状の群れを率いる二匹と仲間四匹が合流する。


直後、彼らの師匠からハンドサインが送られた。


マタセタナ・テキノ・カズハ


その言葉を受けたコボルトが右手の指を全て折り曲げ、その後に小指と薬指を立てる。つまり、7匹ということだ。


コロサズ・セイアツダ……


一応、コボルト同士の争いは命を奪うまでは滅多なことがない限りしないため、ブレイザーとその弟子たちは集落で作るようになった麻紐で剣と鞘をぐるぐる巻きにした。


これで振り回しても鞘がすっぽ抜けることは無いが、そのやる気に満ちた仲間たちの様子にアックスが慌ててハンドサインを送る。


マズハ・ハナスベキダヨゥ……


(ま、アックスならそうなるよな…… よし、囮にするぜッ!)


ナラ・オマエイケ・オレハ・フセテオク


素直に頷いて動き出そうとしたアックスをブレイザーが止め、大回りして彼らの正面から接触するように促す。そうして自分達は気配を殺し、風向に注意しながら一定の距離をあけて垂れ耳コボルトたちを追跡した。

本日、連投です!


読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 左手は十の位とあったので、7匹の場合は右手ではないですか?
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