戦いの後に残るモノ
戦いの後の様子です。
猫人の犠牲が出ているので、書いておかないと不自然かなと…
先程の戦闘中、急いで逃がした猫娘たちは北側へ逃げるように誘導した。
その方向には先んじて避難している猫人たちがいるため、上手くいけば合流できるはずだが、所在が分からなくなった時は捜索しなければならない。
彼女たちが一時的に森へと隠れてやり過ごそうとする可能性も否定できないので、 今後の展開を想定しながらルクア村へと引き返す。
そこには未だ猫人の遺体が残されており、ゴブリンどもに身体の一部を齧られた無残な姿を晒していた。先程の戦闘で犠牲になった戦士一名を加えて、このゴブリンの襲撃で猫人たちは十二名の犠牲を出している。
「…… 遣り切れないね、リズ」
「うん、勝ったとしても寂しいよ……」
「くそッ!!」
「ッ……」
ここにある遺体の多くはルクア村の戦士であり、共に鍛え合った仲間なのだろう。猫人の戦士たちはそれぞれに死者を悼む。
「先ずは、皆の遺体を一箇所に集めよう……」
ウォレスの指示の下、犠牲者たちが最期を迎えた場所から遺体を移動させ、村の倉庫から持ってきた麻袋に納めていく。
その最中、様子を窺いに戻ってきた猫人たちが合流する。
昨日、村の北側にあるシェルナ川へ避難していた猫人たちは知らせがあるまで待機しておくようにウォレスから厳命されているので、一晩経って帰村したのは別方向へ逃げた者たちだろう。
「…… ウォレスさん、手伝えることはあるか?」
「ありがとう、ゴブリンたちの焚火の跡などを片してくれ」
「あぁ、やっておく」
皆が事後処理に追われる中、俺はリズの袖を引いて文字を地面に書く。
「どうしたの?」
“村の井戸水も全て調べるように伝えてくれ、何か投げ入れられているかもしれない”
「それは、怖いわね……」
“念のため、影響の出やすい小動物に飲ませて、数時間は様子を見よう”
「うん、分かったわ。父さんッ、ちょっといい?」
神経質なように思えるかもしれないが…… 傭兵時代に遅効性の毒を仕込まれ、襲撃と併せて全滅させられた町を見たことがあるからな。
暫しの後、諸々の処理がある程度進んだところで一部の猫人戦士たちを残してシェルナ川付近に向かう。さっき逃がした猫娘たちを探しつつ、避難している村人たちを呼び戻しに行くためだ。
「アーヴァー、ワァオンッ (アーチャー、あっちッ)」
意識を嗅覚に集中させたランサーが、空気中に含まれる猫人の匂いを捉える。その行為自体が狩りの一環であるため、彼女のしっぽが獲物を見つけた時のようにふりふりと小刻みに揺れていた。
同じく、意識を嗅覚に集中している妹とバスターの顔つきも狩りの時のそれを彷彿とさせる……
ニイチャン・チョットイッテクル
「アゥウッ (ダメだッ)」
嬉しそうに狐しっぽを振りながら、気配を殺してハンドサインを送ってくる妹を止めてリズに行くようにジェスチャーを出す。
「ん、任せてね」
彼女はわざと葉擦れの音を出して、相手に注目させながらゆっくりと近づいて声を掛ける。
「もう大丈夫だよ、出てきて」
「あれ…… リズ?」
茂みから若い猫人の娘が這い出てきた。どうやらリズの知り合いのようだが、その服がゴブリンたちに乱暴された際に破かれているので目のやり場に困る……
「リズ、これを……」
「ありがとう、父さん」
視線を逸らしつつ二人の傍に寄ったウォレスが自分の外套をリズに渡し、彼女はそれを猫娘の肩に掛けてやった。
「ありがとう、リズ。それにリズのお父さんも」
「あぁ、気にしないでくれ、僕らも目のやり場に困るからね」
「もう、父さんッ! アメリアをそんな目で見てッ!! お母さんに言いつけるよ?」
「…… 勘弁してくれよ、リズ」
どの種族でも父親の立場は苦しいようだ……
ともかく、そんな調子で四名の猫人の娘を見つけた頃にシェルナ川へと行き着いた。
浅瀬に所在なく佇んでいた猫娘二名も一緒に拾って、避難しているルクア村の猫人たちの所まで河川を遡上していくと、こちらの姿が見えたところで川辺の猫人たちから歓声が上がる。
徐々に近づけば、彼らの中心には逃がした猫娘の残り二名の姿があった。どうやら森での戦いの一部状況を彼女たちから聞いていたのだろう。その数十名の猫人たちの中から、どこかおっとりとした印象を持ったリズの母親が進み出てきた。
「おかえりなさい、あなた」
「ただいま、エミナ」
彼女はちょっと出かけた夫が帰ってきたかのようにほんわかと出迎え、娘にも同様に声を掛けていく。
「リズも怪我はない?」
「大丈夫だよ、母さん」
「もう、擦り傷がいっぱいあるじゃない」
娘の心配をする母親の周囲では、同じように他の猫人戦士たちも家族に無事を確かめられているが…… 問題になるのは一人足りなくなっていることだ。
「すみません、ウォレスさん。ジェインはどこですか?」
「…… アーネさん、申し訳ない。貴女のご夫君を連れて帰ることができなかった」
「そ、そんなッ!? 嘘ですよねッ!!」
「……………… 僕はこんなことで嘘をつけないよ」
「ぅあぁ―――ッ」
「アーネッ!」
若い女性が泣き崩れ、その身内が彼女の肩を支える。彼らの表情も悲痛なものであるが、取り乱す女性を放っておくことができないのだろう。
静まり返る場の中で、暫くの間すすり泣く声が響いた……
そのアーネと呼ばれる猫人女性が落ち着くのを待って、皆でルクア村への帰途に着くが、そこでも同様の光景が犠牲となった猫人たちの家族の間で繰り返されるのだった。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります!




