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勇者よ、死んでしまうとは情けない!

「ヴォ、ガルォウ…… (また、ここか……)」


どういうわけか生命の樹の中に於いては、記憶の連続性は維持される。この空間を一歩出れば全ては泡沫の夢に過ぎないがな…… さて、ここに来た以上は白銀の二重螺旋を昇らねばなるまい。


(どうせ大将と違って俺に小難しいことは分からねぇし、どうでもいい……)


己が道を唯征くのみッ、立ちはだかるモノは全て断つ!

斬って、斬って、斬りまくって、最後は俺も斬られてくたばる。


(はッ、分かりやすくていいじゃないかッ)


何やら物騒なことを考えながらバスターは光り輝く階段を一歩、また一歩と昇っていく。降り注ぐ祝福の中、時折、上層から舞い落ちる白銀の粉雪は道半ばで死んだ者たちの魂の残滓に見える。


それは下層に積もり新たな生命と成るや否や。

全ては泡沫、ここは夢と同じものでつくられている。


故に目覚めれば弾けて消えるのみ……


……………

………


「ワフィ? ヴォアルォオンッ!! (何だ? 力が漲りやがるッ!!)」


通称:バスター(雄)

種族:コボルト

階級:コボルト・ヴァンガード

技能:腕力強化(大 / 効果は一瞬) 直感回避

   剛刃 (闘気による切断特化)

称号:先陣を切る犬

武器:大剣

武装:レザーアーマー


著しく発達した筋骨隆々の両腕はそのままに、全体的により引き締まった身体は俊敏さを感じさせ、長い尻尾は健在のままに新たな段階に至る。


「ガゥルォオン、グルァアオ (調子はどうだ、バスター)」

「ワォオアンッ (悪くないぜッ)」


前衛特化のコボルトが頭上に掲げた大剣を軽く振り回して、血を飛ばしてから背負った鞘に納剣するが…… 光刃による肩と腹の傷口から奴自身の血も飛んでいた。


「ワゥ、ガルゥオアフ グルルゥッ (ほら、恰好つけてないでじっとしてなさい)」


ゴブリンスピアを地面に突き刺し、両手を空にしたランサーがバスターの肩と腹に肉球を押し当てて聖属性の魔法 ”ヒーリングライト” を行使する。


「ルァウゥ…… (すまねぇな……)」


暖かな光が代謝を促進させて徐々に傷口を塞ぎ、うっすら傷跡を残す程度にまで回復していく様子を眺めていると、ダガーがこれ見よがしにモッフモフのしっぽをアピールしてきた……


「クォン、クォンッ、キュウッ (兄ちゃん、兄ちゃんッ、ほらッ)」

「…… ワフ、クォルゥアゥ (…… あぁ、モフモフだな)」


どう反応すべきかと疑問に思いながらも、手を伸ばして揺れるしっぽを掴む。


「キャンッ!? (ひゃんッ!?)」


妙な声を上げる妹の尻尾を握りながら暫し戯れていると、ウォレスとリズの親子が近づくのを視界に捉えたので、対面する形に身体の向きを変えた。


「銀色のコボルト君、礼を言わせてもらうよ」

「ありがとう、アーチャー」


俺が片手を軽く上げてそれに応じ、地面に腰を下ろしていつもの石筆で地に文字を刻んでいくと、その様子を見た二人も地面に屈みこんで視線で文字を追う。


“ウォレス、追撃はどうする?”


「ん~、追撃も何も蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げていったからなぁ……」

“どうせ帰る場所は同じだろう。そこを探して潰せばいい”


「でも、私たちも昨日の今日で疲労があるわ。それにあいつらが村から勝手に持ち出した物も、持って帰らないとだし……」


確かにリズの言う通り、周囲に集まってくる猫人戦士たちには疲労が見えた。結果的に勝利したとは謂えども負傷した者は多く、魔術師ゴブリンの攻撃魔法で一名の犠牲も出ている。


さすがに小鬼どもと一緒に放置するわけにもいかないのか、その亡骸に四名ほどが集まり、ルクア村に連れ帰る準備をしていた。


(…… ここはルクア村にほど近い、追撃を強行するよりも一度戻るべきなのだろうな)


“わかった、村に戻ろう。だが、ゴブリンどもの根を絶たなければ同じことの繰り返しになるぞ?”


「それは僕も分かってるよ。あの規模だと冒険者の女性とかを捕らえている可能性もあるからね…… 油断すれば数が増える」


「そうね、この機に一匹残らず潰しておかないとッ!」


握りこぶしをつくったリズが気合を入れる。

Gどもに押し倒されたことを根に持っているんだろうな……


「まぁ、今は皆の状態もある。一度村に帰ろう」


ウォレスの言葉を皮切りにして、村から略奪された品々と小鬼たちの武具を回収して帰路に着く。その際に聖槍使いのコボルトこと、ランサーは倒したゴブリンたちの武装を漁っていたが…… どうやらゴブリンスピアしかなかったようで、しょんぼりとなる一幕があった。


……………

………


そうして猫人の戦士たちが去った暫し後、物言わぬゴブリンたちの死骸の転がる場所に姿を現す者たちがいる。その中の一匹、長身痩躯のゴブリンが地面に膝を突き、魔術師のローブを纏った仲間の死骸をそっと抱き上げた。


「…… グァン、ギィア ギェルギアス (…… ロック、いずれ仇は取るぜ)」

「ギードギァ…… (ソード様……)」


彼らは暫し仲間のために瞑目する。

その静寂の中に“ザリッ”と砂を掻く音が小さく響いた。


「ギァゥ? (何だ?)」


目を開いたゴブリン達の視線の先、そこには地に伏せたブレイブの姿がある。


【発動:????? → 勇者の復活】

【効果:低い確率で蘇生するが、その度に確率が減少して最終的に0となる】


※ただし、本体から切断された部位は治癒されず、首が飛んでいる場合は蘇生しない



「ガァアアォオオ――――ァッ!!」


雄叫びと共に、ゴブリン・ブレイブが起き上がるッ!


「ギャアゥッ!? (何いぃッ!?)」

「ギギゥギァッ!? (ブレイブ様ッ!?)」


「ギ、ギィギィ、ギレゥエドスッ、ギギゥッ!!

(は、ははッ、生きていたのかッ、ブレイブッ!!)」


いち早く反応したソードが駆け寄り、再び倒れかけたその身を支えた。


「ギレゥ、ガルギアッ! (許さん、あの犬ころどもッ!)」

「ギゥッ!! (ああッ!!)」


「ガレス、ガレスギゥッ! グゥアルデスッ!!

(力だ、力がいるッ! 今以上のッ!!)」


ソードの肩を借り、憎悪を燃やしながら小鬼族の勇者は森の東へと歩き出す。現状で彼がしなければならないのは残存する仲間を集めて身を隠すことだ。大きな敗北を喫した後には必ず洞窟や集落が攻め潰されることをブレイブは経験則として知っている。


足元に転がる物言わぬ仲間を一瞥し、復讐を誓いながらも彼らは拠点を捨てこの地から遠ざかることになるのだった……

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります

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