土属性は植物も含みます
ダガーの変化は見て取れたが気に掛ける余裕は無く、既に奇襲で得たイニシアティブが薄れてゴブリンたちが対応に動き出している。
「ギァッ、ギィアルッ!! (ちぃッ、敵襲だッ!!)」
「ギードギァッ! (ソード様ッ!)」
「グオァッ! ギゥ ギゥレッ!! (斬り込むッ!俺に続けッ!!)」
長身痩躯のゴブリンが両手を交差させて、ベルトの左右に吊るした鞘に納まるショートソードの柄を握り、抜剣しやすいように鯉口を押し下げて角度をつけてから双刃を引き抜く。
麾下の剣士隊のゴブリン達もやや遅れて抜剣し、鞘と刃が擦れ合う音が鳴り響くが……
「ヴォア、グァオォウッ (悪いが、足止めだッ)」
切り捨てたゴブリンを短戦槌で殴り飛ばしながら土塊の剣を足元に突き立て、先ほど仕込み終わった地属性の人外魔法 ”ソーンバインド” を発動させる。
「ヴォルグォオッ (戒めの茨ッ)」
「ッ、グギィイッ!! (ッ、この野郎ッ!!)」
「グッ!? (ぐッ!?)」
「ギェッ!! (うぉッ!!)」
こちらに向かって駆けだそうとした双剣士のゴブリンの足に地面から生えた茨が絡みつく。麾下の十数名のゴブリンたちも同様にその足を茨に搦め捕られ、駆けだそうとした勢いのままに転倒した者などは茨に飲まれて動けなくなる。
多くの樹木がある森林でしか使えない呪縛系魔法だがその効果は大きいため、僅かばかりの時間は稼げるだろう……
などと油断していたら、動けなくとも長身痩躯のゴブリンが素早く剣を納めた後、マントからスローイングナイフを取り出して投擲してくるッ!
「ギァアォッ! (喰らえやッ!) 」
「ウオッ!? (うおッ!?)」
「ぐぅあぁッ!!」
咄嗟に上体を逸らして紙一重で躱すと、俺の後ろにいた猫人族の戦士バラックの肩にぶすりと刺さった。何故か少々申し訳ない気持ちになるも、今はそれどころではない。
続けて投擲の動作に移る長身痩躯のゴブリンに応射するべく、即座に意識を切り替えて背中の得物に伸ばした手が空を掴む。
(あ、弓は置いてきたんだったな…… くぅッ!?)
無様な動きをしている隙に長身痩躯のゴブリンが投じた二本のスローイングナイフが迫る!
「グゥル、クァル―ンッ(防いで、光の障壁よッ)」
カンッ カンッ
多少の負傷を覚悟した俺の眼前に聖なる燐光を放つ魔法障壁が生じて凶刃を防ぐ。その術式を発動してくれたランサーに感謝を捧げ、一度木々の合間に身を隠して虜囚の猫娘たちを窺うと、ちょうどリズが彼女たちを戒める縄を手早くナイフで断ち切っていた。
「リズ、ありが…」
「これで走れるよね! あっちに逃げてッ!!」
「うんッ!」
リズは逃げられないように歩幅を制限する両足首を繋いだ縄のみを切断していく。
その彼女たちから少し離れた場所では、バスターとウォレスを中心とした猫人の戦士たちが大剣を持ったゴブリンの隊を食い止めている。
「ガルオゥ ヴォルオアッ!! (この先は通さねえッ!!)」
「ギゥァッ!? (うおッ!)」
「ギィウッ! (あぶなッ!)」
右足で踏み込んで上半身を捻った状態からバスターが横薙ぎの一閃を放ち、切り込もうとしたゴブリンたちを怯ませるが……
「ギゥエルッ、ギャゥギャオッ!!(恐れるなッ、小鬼族の勇士たちよッ!!)」
魔力を帯びた咆哮を響かせて小鬼たちを鼓舞しながら、仲間の背を踏み台に跳躍してきた大柄なゴブリンが眩いほどに輝く大剣を振り下ろした!
【発動:輝光剣】
【効果:光の斬撃を飛ばす(近距離) アンデッド特効 霊体有効】
「ウォオオッ!? (うぉおおッ!?)」
唐突に飛来する光の斬撃をバスターが体勢を崩しながらも躱した直後、光刃を振るう相手が着地した隙を狙い、ウォレスが大きく踏み込んで右手一本の刺突を繰り出す!
「せゃああぁあッ!!」
「ギィッ!(くうッ!)」
アウトレンジから襲い掛かる迅雷の一突きを大柄なゴブリンは大剣で逸らし、逆に半歩踏み込んで力任せに目障りな猫人剣士の鳩尾へと蹴りを放つ。
「ギァアオッ! (うらぁッ!)」
「ふッ!」
左手で蹴りを払いながらウォレスが後方に飛び退くと、間髪を容れずにバスターが姿勢を低くして大剣を肩に担いだ状態で突進する!
「ガルグォウオオォンッ!! (この一撃で仕留めるッ!!)」
【腕力強化(大 / 瞬間)】
「ギャウオオォッ!」
半円軌道で迫る渾身の斬撃は得物を上段に構えた大柄なゴブリンに受け止められたが、体格に勝るバスターは力任せに押さえ込んだ。
「ギ、ギァッ…… (く、うぅッ……)」
「ギギゥギァッ!(ブレイブ様ッ)」
「ギゥアッ (このッ)」
窮地にある群れのボスを助けるべく周囲のゴブリンたちが加勢しようと動き出すが、その行動は彼らに限ったことではない。
「クルォオオゥッ (させないよッ)」
「奴らを押し返せッ!」
ダガーとウォレスがその動きを牽制し、猫人の戦士たちとゴブリンたちが刃を交わらせる中心で鍔迫り合いの均衡が徐々に崩れていく……
「ギィアォッ! (うぉおおッ!)」
「グッ!? (ぐッ!?)」
大剣持ちのゴブリンは左足を斜め後ろに退き、半身に躱しながら剣先を下げて上から押さえつけるバスターの大剣を逸らせ、柄から片手を離して顔面を狙った拳を打つ。
だが、同じく組討ちの距離とみたバスターも大剣から片手を離して右ストレートを繰り出しており、その腕が交差して鈍い音が響いた。
「グゲッ! (ぐげッ!)」
「ガァッ!! (がぁッ!!)」
互いに殴り合った二匹は仰け反りながらも距離を取って、再び剣戟の間合いとなる。
「グエル ギゥ ギオスッ!! (光の刃で断ち切るッ!!)」
【輝光剣】
「ヴォルァオオウッ!! (全力で叩き切るッ)」
【腕力強化(大 / 瞬間)】
大剣持ちのゴブリンが振るう輝刃とバスターの無骨な斬撃がぶつかり合う。
ギィイインッ
「グギィッ!(くあッ!)」
「ガゥッ!? (ぐぉッ!?)」
刹那の一瞬、飛び散る残光がバスターの腕と肩を切り裂くが、膂力で勝る彼の一撃は相手の光刃を弾き飛ばして体勢を大きく崩した。
「クゥッ、ガルァ! (くぅッ、好機!)」
負傷を一切気に留めることなく、バスターは振り下ろした大剣の切っ先を地面に擦りつけて、地を走らせながら渾身の切り上げを放つ!
「グガァッ! (くそがッ!)」
かろうじて反応した大柄なゴブリンは大剣による防御を試みるも、剣勢に押し負けて右脇腹から逆袈裟に切り裂かれる。
「グ、グギィ…… (ぐ、ぐうぅ……)」
腹から肩までを切り裂かれて致命傷を負った大柄なゴブリンはよろけながらも、最後の力で大剣に魔力を集めて眩しいほどに輝かせる。
「ガルウォアオォンッ!!(これで終わりだッ!!)」
ザシュッ
「グハッ、ギァ……ゥ……ッ…」
止めの一撃にてバスターは小鬼族の勇者の命を絶ち、その大剣に宿る光が弾けた。
「グォッ (ぐぉッ)」
消えゆく残光がバスターに傷を与えて血を噴き出させたのはせめてもの抵抗だろうか?
「ギ、ギギゥギァッ!! ギャォ… (ブ、ブレイブ様ッ!!そんな…)」
「ギギゥギァ ギィルギアルッ!!(ブレイブ様が殺られたぞッ!!)」
群れを率いる統率者が討たれ、恐慌を起こした小鬼たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
「ギィ、ギァオウ ギィェル!(ちッ、お前ら退くぞッ!)」
茨を切り裂いて呪縛から逃れたゴブリンたちも同様に散っていき、こちらが離脱するまでも無く森での戦いは終わりを迎えた。
「皆ッ、僕らの勝ちだッ!!」
「「「うおおぉおおおおッ!」」」
猫人族の戦士たちが上げる勝鬨の中、また一匹のコボルトが白銀の螺旋階段を昇る。
例によって現実ではそれを知覚する術はないのだが……
土属性、幅が広いですよね~、作品によっては重力を制御したり、はたまた隕石を落としたり…… 本作でそこまでやる予定はありませんけど!
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります