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猫人は森のハンターです

夜が明けて空が白み始めた頃、ルクア村で一夜を過ごしたゴブリンたちが動き出す。


昨日は群れを率いるゴブリン・ブレイブの指示の下、酒やバカ騒ぎが抑えられて適切な休息がなされたため、彼らの調子は良く見える。


ただ、略奪品の運搬、捕えた猫人(ねこびと)族の娘たちの連行などでその歩みは遅々としていた。


「ギゥ、ギギィギャオォッ (ほら、さっさと歩けッ)」

「うあっ……」


猫人族の娘たちは両手を前側で縛られており、そこから延びる縄をゴブリンたちが引っ張って歩かせるが、彼女たちの足取りは酷く重い。


小鬼たちの穴倉に連れて行かれたら、もう助からないことぐらい彼女たちも分かっているのだ。それでも彼らが抜身の短剣をチラつかせて脅してくるので、踏み(とど)まることもできない。


「うっうぁ……」

「うぅ……」


朝の静かなルクア村に猫人の娘たちがすすり泣く声が響く。


……………

………


一方、村を一望できる北側の樹上では、銀毛の犬人が帰途に着く小鬼たちを見下ろしていた。


「グルォ ガルァオォッ (皆を呼んできてくれッ)」

「ワォンッ! (うんッ!)」


元気な返事と共に妹が素早く木々を飛び移って、少し離れた場所に伏せている皆の下に戻る。それに合わせて俺は村の東口へと慎重に進んでゴブリンどもの痕跡を確認し、奴らの進路を想定しながら暫し後続を待つ。


「ガルァオ、クォン (呼んできたよ、兄ちゃん)」


然して時間を掛けずに皆と猫人族の戦士たちも到着し、荒らされた村に視線を向けて地面に転がる犠牲となった同族の姿に顔を歪めた。


「くそッ、食われてやがるッ!」

「…… なんてことをッ」


昨日、俺たちが確認した時とは異なり、遺体の幾つかにはゴブリンどもが齧りついた跡が残っており、より無残な姿にされている。


「うぇッ……」

「うっ……」


それを見たリズや猫人戦士の女性陣が吐き気を堪えていた。


「皆、今は生きている仲間を優先しよう……」


娘の背中をさすってやりながらウォレスが皆の意識を引き戻す。猫人戦士たちの表情には一様に憤りと怒りが浮かび、身体の内側に滾る闘志を感じさせた……


その場で犠牲者たちに暫しの黙禱を捧げた後、俺たちはゴブリンどもの痕跡を密かに追う。捕虜を連れている状態での行軍は速度が落ちるため、少しすれば最後尾のゴブリンを視界に捉えることができた。


奴らがルクア村を出る際に見た限りでは、先頭に長身痩躯の小鬼が率いる隊、中程に捕虜にされた猫人の娘たちと魔術師風の小鬼が率いる隊、最後尾に群れの長らしき大剣を持つ小鬼の隊という配置になっていたことを思い出す。


順調に小鬼たちの捕捉ができたところで、仲間たちに向けてハンドサインを投げる。


サキマワリ・スルゾ

リョウカイダッ・タイショウ


ここまでくればゴブリンたちの進路は予測がつくため、大回りで追い越して皆と木々の合間に身を隠す。後続の猫人戦士たちも同様に木陰や茂みに伏しており、彼らの尻尾はふりふりと小刻みに揺れていた…… 狩猟本能が騒ぐのだろうか?


幸い途中の進路変更も無かったようで、やがて先頭の長身痩躯のゴブリンに率いられた隊が俺たちの前方を横切っていく。その暫し後、標的である捕虜を連れた魔術師のゴブリン隊が眼前に差し掛かった。範囲魔法をぶちかましてやりたいところだが、囚われの猫娘たちも巻き込まれるためそれはできない。


俺は二本の矢を弓と一緒に左手に握り込み、右手でもう一本の矢を番えた。


(あの魔術師を射抜きたいが、外したら救出対象に当たる可能性があるな…… 仕方ない)


射撃の準備を終えた俺は反撃の狼煙となる魔力を帯びた咆哮を放つ。



「グルァオオ―――ンッ」

【発動:バトルクライ】



「ギィ!? (何!?)」

「ギァゥッ!! (どこからだッ!!)」

「ギャオウッ! (警戒しろッ!)」


狼狽える小鬼たちを狙い、木々や草むらに身を隠していた猫人の戦士たちが飛び出して強襲を仕掛ける!!


「いくぞッ、皆ッ!!」

「「「うぉおおおおッ!!」」」


「グルォァアァ――ッ!! (征くぜぇ――ッ!!)」

「ガルゥオァ ヴォアンッ (私の槍(ゴブリンスピア)で貫くッ!!)」


奇襲に一瞬だけ動きを止めた隙を狙い、俺は護衛のゴブリンに初射を撃つ。


 ヒュンッ


「ギャッ!」


さらに弓ごと左手に握り込んだ矢を掴み、素早く番えて間髪容れずに連射する。なお、速射による威力低減の対策として風属性の付与魔法を施しているので、矢は軽快な風切り音を鳴らしながら飛んでいく。


ヒュ、ヒュンッ


「ギゥッ…ッア―ッ!」

「ギギィ……ィ」


計三本の矢が僅かな時間差で動きを止めた3匹のゴブリンの胸を射抜いた。


「ガゥッ! (よしッ!)」


役目を終えた弓を樹に立て掛け、短戦槌を右手に構えて左手を地面へと翳す。


「ウルグゥガッ! (地の剣よッ!)」


土属性の人外魔法 ”クレイソード” により大地から土塊の剣が飛び出して俺の左手に収まった…… 初めて錬成したが手にしっくりと馴染む。武器を両手に持って近接戦闘に備えた後、皆よりやや遅れて俺もゴブリンたちに吶喊していく……


向かう先では胸に矢を受けたゴブリンを蹴とばし、その奥にいる捕虜の手綱を引いたゴブリン・ファイターに大上段から大剣を振り下ろすバスターの姿がある。


「グゥルアアァッ!!(G即斬ッ!!)」

「ギィヤァ――ッ」


受け止めようと掲げたゴブリン・ファイターの剣を力任せに押し下げて、バスターの一撃が頭部の半分までめり込んで相手を絶命させた。


その豪快な攻撃の硬直を狙って、横合いから別のゴブリンがバスターに短刀を突き出すが……


「クォンッ! (穿つッ!)」

「ギッ!?……ギゥァッ!!」


不意を突こうとした小鬼の腹をランサーのゴブリンスピアが貫通した。


「ォンッ! (はッ!)」


彼女は素早く得物を引き戻しながら刺さったゴブリンを蹴り飛ばして槍から引き抜く。そんな二匹の周囲では共に飛び出した十九名の猫人戦士たちも善戦をしていた。


「うぉおおおッ!」

「死ねやぁッ!!」


「ギィッ!(くそッ!)」

「ギギグッ、グガァオッ! (殺られて、たまるかよッ!)」


猫人の戦士二名の袈裟切りをゴブリンたちがバックラーで受け止めて反撃の刺突を繰り出す。


「くおッ!?」

「痛ッ、ちいぃッ!」


持ち前の敏捷さで猫人の戦士たちが飛び退くも、革鎧を貫通して身体を浅く切り裂いた。


「退けッ、お前たちッ!!」


背後からの言葉に反応して彼らが斜め後方に飛び退ると、そこには左手で鞘を掴み、鯉口を切った状態で湾曲したサーベルの柄を握ったウォレスの姿がある。


「ッ、一閃!!」


素早い踏み込みと共に、鞘走らせながら横薙ぎの一閃が放たれ、ゴブリンたちのバックラーを弾いて腹を一文字に切り裂いた。


「ギャッ!? ギ、ィア……ァ」

「グゲァッ! グゥゥ…グブッ……」


小鬼たちは腹を押さえたまま蹲り、自らの血に塗れながら絶命していく……


「ギァ、グェッ!!(なん、だとッ!!)」


倒れていく同族たちに小鬼族の魔術師ロックは動揺を隠せない。昨日、ルクア村で一晩を過ごした際には奇襲を警戒していたが、何事もなかったため油断していたのだろう。


もし反撃があるならば自分たちの疲労があって、勝利に浮かれているその時だと考えていたのだ。だから、昨夜は捕らえた猫人の娘たちをいつでも人質として使えるように準備もしていたのに……


そんな詮無きことを考えてしまう彼にも猫人たちの反撃の刃が迫る!


「うらぁあああッ!」

「ギゥウッ (くぅうッ)」


咄嗟に翳した小鬼族の魔術師の手に風属性の魔力が集って無形の刃を成す。


「ゼノスッ、イレウス (風よッ、切り裂け)」

「ぐうッ!?…… がはッ」


斬り込んだ猫人の戦士は風刃を回避することができずに腹を切り裂かれ、血を撒き散らして倒れたが…… 彼の命を奪ったゴブリンの顔には焦りと恐怖がこびりついている。


そもそも、近接戦闘の距離にまで踏み込まれた時点で魔術師にとっては死地にいるようなものであり、率いていた隊もそのほとんどが交戦中か討ち取られていた。


(不味いッ、早くブレイブの所まで退かなければッ!!)


(…………)


その焦りは既に遅く、混戦の中で唯一姿を見せていないダガーが樹上に身を隠して近接しており、魔術師のゴブリンの頭上から短剣二本を逆手と順手に構えて強襲する。


「グルァオ――ンッ!! (殺っちゃうよッ!!)」


「ッ!? ガッ……ッグ、ギィ (ッ!? がッ……そ、んなッ)」


突然の声に反応して、樹上を向いた魔術師のゴブリンの眉間を刺突短剣スティレットが貫通し、もう一つの短剣が喉を切り裂いた。


「ヒュ……ヒッ……」


空気の漏れる音を響かせて彼は無念のままにその生涯を終える。厄介なゴブリンを仕留めたダガーは頽れる身体を蹴り飛ばし、眉間に埋まった刺突短剣を引き抜いた。


「グァンギァッ!? ギャオゥッ!! (ロック様!? くそがッ!!)」


一息つく暇もなくやや斜め前方のゴブリン・ファイターが彼女を狙って、水平に刃を寝かせた長剣で平突きを繰り出すが、動揺のためか突きを放つ間合いとしてはやや遠い。


「ウキャンッ!? ガォンッ!!(うひゃんッ!?このッ!!)」


ダガーは軽快なサイドステップで刺突を躱して、小鬼族の戦士が突き出した腕を引く前に懐へ飛び込み、体重を乗せた刺突短剣を心臓に打ち込む。


「グブッァ、ガッ……ァ…」


革鎧を貫通した一撃で致命傷を受けた小鬼族の戦士は吐血しながら、握り込んだ長剣を力なく取り落として地に伏していった。


その瞬間、慌ただしい混戦の中で本人を含め誰にも気づかれることなくダガーの意識は終極の螺旋階段を昇る。耳の形がやや変わり、尻尾の毛がさらにフサフサとなって魔力を宿し、さらに四肢は先端部が白い毛並みとなって黄金色(こがねいろ)の体毛とコントラストをつけた……



通称:ダガー(雌:妹)

種族:エヴォル・コボルト

階級:フォックス・ウォーカー

技能:跳躍強化(大 / 効果は一瞬) 初級幻術

   聴覚強化(小 / 常時) 狐火

称号:頭上より襲い掛かる狐

武器:刺突短剣(主) 短剣(補)

武装:レザーアーマー


読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります

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