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リズパパとの遭遇

俺の経験則からすれば、小規模な戦闘における戦術は “仕掛け” と “仕上げ” の二工程から成る。現状において、俺たちが有利な点はゴブリンどもが守勢を取ったことで、“仕掛け” のタイミングと場所のイニシアティブを得たことだ。


簡単に言えば、いつ、どこで攻撃を仕掛けるのかを選べるということだな。


なお、攻撃を “仕掛けない” という選択肢もあり得る。自陣に利の無い限り攻撃をするなという鉄則は厳守しなければならない、そう傭兵団長殿は仰っていたな…… と地面に座って周囲の仲間たちの視線を受けながら思い出す。


「グルァ、ウォルオオァン? (大将、次はどうするんだ?)」


「ワファアオォアン、グルァ (何か考えがあるのよね、ボス)」


あんまり期待の籠った目で見られても困るんだが……


「……ガゥルウァグルォンッ (…… 猫人(ねこびと)族の戦士と合流しよう)」


俺は地面に地図を広げ、猫人戦士たちの撤退先になりそうな場所を示す。突発的なゴブリンの襲撃にどう対応するかを迫られたならば、十分な物資など持ち出す暇がない。となれば、一時的に村を離れる場合、水場を目指すのは自明だ。


よって、俺たちが給水をした河川をルクア村から離れるように上流へ向かえば、避難した猫人たちに遭遇する可能性が高い。じっと地図を見つめるリズに手招きして隣へ座らせ、腰元の道具袋から取り出した石筆で地面に文字を刻む。


“リズの仲間と合流したい、俺たちの説明は頼んだ”

「ん、任されたわ。父さんと母さん、無事だと良いのだけど……」


応える彼女の表情は不安を含んでいるものの少し明るくなった。やはり自身の仲間と合流できるのは嬉しいのだろう。


「ウォオオンッ (行くぞッ)」


先頭に俺、殿にバスター、周囲への警戒役は聴覚の良いダガーとリズという役回りで、イーステリアの森を北側に進み、一度ルクア村の北東に位置するシェルナ川の支流まで戻る。


そこでリズの視線が川に釘付けになった。


あぁ、走って逃げたり、戦ったりで喉が渇いているのも当然か…… 逃げた猫人族を探すのに川を遡上する選択は間違っていないようだ。


地面に書くほどの内容でもないのでハンドサインで川を示す。


「ごめんね、ちょっと喉が渇いて……」


川に歩みを進める彼女と一緒にダガーやランサーもついていく…… 革の水筒に水はまだあるが、既に温くなっているので冷たさが欲しいのだろう。俺もバスターと顔を見合わせて共に川へと向かった。


そこでほんの少しの休憩を入れた後、俺たちコボルトがリズから多少距離を取り、彼女が先行する形でやや蛇行しているシェルナ川を遡上していく。


いきなり大きな体躯のコボルトが現れたら、混乱の元だからな……

と思っていたのだが、これが裏目に出た。


川が大きく蛇行する場所でそれに合わせてリズが木々の間を抜けていった直後、その先に仲間と父親を見つけた彼女は思わず駆け寄ったのだ。


「ワフィッ!? (何ッ!?)」

「クォンッ! (兄ちゃんッ!)」


そして、事情を知らない俺とダガーが彼女を追いかけて木々の間を抜けると…… 少し先に武装した者を含む猫人たちの姿が見える。


「父さんッ!」

「リズ!? ッ、いま助けるッ!!」


彼女の父親は向かってくる娘の脇を駆け抜けながら腰の得物に手を伸ばす。


「えッ?」

「グァ、ガルッ! (ちょ、おまッ!)」


傍から見ると猫人の娘がマッチョなコボルトに追いかけられている状況であり、後方では避難している猫人たちの悲鳴が上がる最中、それを掻き消すかの如く雄叫びが木霊する。


「うおぉおおおッ!!」


すらりとした黒髪猫耳の優男が大きく踏み込んで、気勢と共にサーベルを鞘走らせながら細身の刃を抜き放つ。


「グルォッ!? (うおぉ!?)」


 キィインッ


何とか急停止して身体を後ろに反らせながら短戦槌で斬撃を受け止め、同時に右足を前に突き出して相手の腹を蹴り抜いた。


「がはッ!?」


矢鱈と鋭い斬撃を放ってきた優男は自ら後方に飛び退り、受けた衝撃を緩和して構えを維持する。


さらに後続として駆けつけた猫人の戦士がダガーと対峙し、隙を覗いながら左手のバックラーを構えて右手の剣先を下に向けて後ろに引く…… そこから剣筋を隠した斬撃を出そうというのだろう。


「ガルゥクォンッ! (させないよッ!)」【発動:跳躍強化】


機先を制したダガーは地を這うように前方へ跳躍して飛び込み、面食らった相手へと両腕を交差させて勢いを乗せた体当りを喰らわせる!


「なぁッ!? ぐうぅ!!」


「ウオンッ!! (えいッ!!)」


衝撃に堪えきれずに仰け反ったところで妹の右アッパーが至近距離から顎を撃ち抜き、猫人の戦士は呻き声を上げながら後方に数歩よろけていく。


一方、やや遅れてきた槍持ちの猫人戦士は速度を上げ、同じく槍使いのコボルトへと躊躇なく吶喊するが……


「ルァクアゥオオッ!! (速度が足りないわッ!!)」


ランサーの手に握られたゴブリンスピアが猫人の鉄槍を叩き落とし、穂先を地面に突き刺さしてしまった相手は突撃の慣性に抗えずにつんのめる。


「うわッ!? がぁッ!」


致命的な隙を逃さず、前に突き出された顎をランサーの白い毛並みの脚が奇麗に蹴り上げると、その猫人は意識を飛ばして頽れた。


そして沈みゆく夕日の下、睨み合う俺たち四匹と向かい合う黒髪優男の猫人戦士、意識を失って倒れる槍使いの猫人戦士、小楯を持った手で顔面を押さえつつダガーを睨む猫人戦士の様相ができあがっていた………


彼らの後方にいる猫人たちの悲鳴がさらに増し、周囲を警戒していたであろう他の戦士たちも次々と姿を見せる中、やっとリズの声が響く。


「ちょ、父さんッ! 何やってんのよぉッ!!」


驚いたことに、先程からリズに父と呼ばれているのは猫人の優男だ。

まぁ、若そうに見えるだけで、実は結構な年齢かもしれないな。

人物紹介


通称:ウォレス(♂)

種族:ウェアキャット

階級:猫人フェンサー

技能:抜剣術 敏捷性向上(小 / 常時)

称号:リズパパ

武器:サーベル(主) ダガー(補)

武装:ブラックレザー



読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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