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密集陣形にもリスクはあります

「ガゥワン、グゥアオンッ! (嬢ちゃん、移動するぜぇッ!)」


おびき寄せられたゴブリン3匹を切り捨てたバスターがリズに声を掛ける。


「え? コボ語なんて分からないわッ」


腕黒の犬人が話し掛けている事を理解できても、彼女に内容までは理解できない。


「ガゥ、ガゥオウ…… (ちッ、仕方ねぇ……)」

「きゃあッ!? ちょ、ちょっとッ!」


意思疎通を諦めたバスターは左手で大剣を持ち、右腕で猫娘を脇に抱かえて家屋の裏手から離脱する。


一方、広場のゴブリンたちは仲間の悲鳴を聞き、警戒を強めていた。


「ギ、ギギゥッ! ギギャオッ!? (な、何だッ!どうじたッ!?)」


先程、猫娘が隠れた家の裏手に向かって、体格の良いゴブリン・ヘビィファイターが大声で呼び掛けるも、それに応える仲間の声は無い。


「グアッ、グギゥッ!! (くそッ、警戒じろッ!!)」


「「「ギゥッ!! (応ッ!)」」」


ゴブリンたちは小鬼族の重戦士を中心として、前衛四匹、左右に二匹ずつ、後衛に一匹の陣形を組む。特にその中でも後衛のゴブリンは他の配下の小鬼たちよりも頭一つ分は大きく、筋肉質な身体つきをしている。


見るからに逞しいファイター種のゴブリンに背を預け、小鬼族の重戦士は悲鳴が聞こえてきた家屋の裏手を見透かすように睨みつけた。


「ギァウオ ギイィギルッ! (状況を確認するぞッ!)」


そして、慎重に返事のない仲間たちの下へと歩みを進めていく……


先ず、何某かの敵の存在を感じた時点で、防御を固めて警戒する選択をしたことは間違いではない。もっとも愚かしいのは仲間の悲鳴が聞こえたにもかかわらず、戦力を小出しにして現状を確認させることだ。


少しの距離とは言え、分散した状態の隙を突かれる恐れもあるし、確認に向かった連中も待ち伏せを受けて不利な状況に陥るかもしれない。そう考えると、あのデブい重装のゴブリンは見かけによらず馬鹿ではないようだな。


(まぁ、やることは変わらないが……)


相手が分散した場合、バスターとリズ、ダガーの組、俺とランサーの組でヒット&アウェーを繰り返して各個撃破を狙う。


もし、相手が警戒して陣形を取ったら奇襲による範囲攻撃魔法と斬撃を喰らわせて、後はその効果次第で継戦か撤退を決めるという寸法だ。


早々に陣形を組まれてしまって、数を減らせてないのは残念だが…… 幸いなことに防御を重視したのか密集陣形を選択してくれている。


隠れながら様子を窺う俺の視線の先、ゴブリンたちの向こう側に移動を終えたバスターがふらりと姿を現して…… 大きく息を吸い込んでから小鬼たちを惹きつける咆哮を放つ!


「ガァルォオオオ―――――ンッ!!」


「ギァ!? (何だ!?)」

「ガルギアッ! (犬人どもかッ!)」


一斉にゴブリンたちが背後を振り返るのに合わせて、腕黒巨躯のコボルトが肩に大剣を担ぎながら駆け出し、その左右後方には両手に短剣を構えたダガーとラージナイフを抜き放ったリズが続く。


単純な陽動であるが、雄叫びを上げて迫る敵を無視することなどできないため、巨漢のゴブリンを含む小鬼たちの視線が誘導された。


「ッ…………」


俺はその隙を突いて身を低くした前傾姿勢で駆け、人外魔法の効果範囲に連中を収めたところで地に両手を突き、纏わせた土属性の魔力を迸らせる。


「ヴォルガゥアッ! ガルゥァアァッ!! (悉くを喰らえッ! 戒める牙ッ!!)」


「ッ!」

「ギャァ―――ッ」

「グゲァ!!」


突如、地面から生えた土塊の牙がゴブリンたちの身体に次々と突き刺さり、負傷を与えながら動きを封じていく。以前、ヴィエル村で野盗たちを封じた土属性の人外魔法 “縛鎖の牙” だ。


あの時とは違ってバトルクライによる強化は無いが、日々の鍛錬もあって俺の魔力質及び魔力量は向上している。故に錬成された土塊の牙は大きくなり、数も増えて威力を増していたが…… 当然ながら一網打尽とはいかない。


「グァグル ヴォルファ…… (7匹を封じたか……)」


未だ “縛鎖の牙” の範囲外にいたゴブリン2匹が健在で、傷が浅かったゴブリン・ファイターも脚から血を流しながら鉈剣を振り上げて突撃してくる。


「ギャオァア―――ッ!! (喰らえやぁ――ッ!!)」


 ギィインッ


俺は立ち上がりながら短戦槌で斬撃を受け止め、交差する武器同士の接点を中心に得物を半回転させて、柄側をゴブリン・ファイターの顔面に叩き込んだ。


「グギッ!?」


痛みにより怯んだ相手から一旦離れて距離を取ると、俺の横手を疾風の如くランサーが槍を構えて駆け抜けていく!


「ヴォルアゥ クアルァアンッ! (威力は速さが全てよッ!)」


物理法則によれば運動エネルギーは質量と速度で決まるため、それは確かに槍の貫通力を決める因子の一つである。ただ、そんなことをコボルトが理解できるはずもなく、ランサーが槍を手に入れてからの経験則に過ぎないが……


「グガアァアァ―――ッ! ガッ…ァ…グッ」


ともあれ、彼女の槍はゴブリン・ファイターの腹を貫いて仕留めた。そして、今の相手を倒したことで閾値を超えたのか、ランサーの意識は白光に飲まれていく。


……………

………


「ヴアルォ…… (真っ白ね……)」


ふと気づけば私は真っ白な空間にいて、目の前には輝く白銀の螺旋階段……


一瞬だけ戸惑うけれど頭の中に知り得ない知識が流れ込んできて、コレが何であるかは理解した。ただ、螺旋の果てに何があるかは開示されていない。


(というよりも誰も見たことが無いのかしら?)


とりあえず、昇ればいいのよね?


「ガォン、グルォン グルォオア… (だって、皆も昇ったみたいだし…)」


今この場であれば仲間たちの姿形が変化した理由が分かる。実は皆のことが少しだけ羨ましかったので、私も祝福と喝采を受けながら階段を一歩、また一歩と白銀の螺旋を昇って行く。


理由もわからず、褒められるのはちょっと違和感があるけど…… その気持ちも今この瞬間だけのモノに過ぎない。やがて私の意識は白銀の光に焼かれて、忘却と引き換えに覚醒する。


……………

………


「オォウアッ、クゥアウ!! (変化したかッ、ランサー!!)」


「ワフィ? (はい?)」


ゴブリン・ファイターを刺し貫いた槍を握るランサーは、四肢と尻尾の先端部が白い毛並みとなっていた。又、彼女から少し暖かい魔力の波動が微かに漂う。



通称:ランサー(雌)

種族:コボルト

階級:コボルト・ホーリーランス

技能:脚力強化(中 / 効果は一瞬) 初級魔法(聖)

称号:森の癒し手

武器:槍(主) 短剣(補)

武装:レザーアーマー



だが、今は戦いの最中で意識を逸らしている暇は無い。


「ギィギゥ、ギャオォオオッ! (よぐも、仲間をッ!!)」


雄叫びを上げながら自身の傷が広がるのを顧みず、巨漢のゴブリンが “縛鎖の牙 ”から力任せに抜け出してこちらへと襲い掛かる。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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