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Dogs meets cat

矢による一撃と連動して、俺たちの中で一番の瞬発力を持つダガーが刺突短剣、所謂スティレットの十字柄を握り込んで低い姿勢で飛び出す。


「ワォオンッ!! (えいッ!!)」

「ガッ!?」


そして、猫耳娘の左腕を押さえ込んで無防備になっているゴブリンの背後から、スティレットの尖った刃先を心臓に突き刺して絶命させた。


一方、同じく飛び出したランサーの体重と加速をのせた槍は彼女の左脚を押さえ込むゴブリンの背を貫通して、右脚を押さえているゴブリンの腹に刺さる。


「ギィイイッ…ッ…!」

「ゲァッ!?」


「クゥ、ワォフッ (よい、しょっとッ)」

「ギィャアアァ――ッ」


さらに槍へ捻りを加えてゴブリンの腹を抉り傷口を広げていく。


手前側の背を貫通されたゴブリンは腹から突き出だす槍を両手で掴んで足掻き、奥側の腹を裂かれたゴブリンはその場で尻もちを突いて、抉られた腹を押さえながら叫び声をあげた。


どちらも致命傷なので直ぐに死ぬだろう。その光景を見た最後の一匹がその場から背を向けて走り出し、逃亡を試みるが……


「クァアァンッ!(逃がさないよッ!)」


遠ざかる背中に向けてダガーが左手の短剣を投擲し、縦回転をしながら迫る刃はトスッっとゴブリンの背に刺さった。


「ギィイイッ!? ウガァッ!!」


だが、そいつは悲鳴を途中で雄叫びへと転じて痛みを堪え、背中に短剣を刺したまま走り去ろうとする。


「ガルォファ、ウォフッ (詰めが甘いな、妹よッ)」


既に第二射の体勢を取っていた俺は疎らな木々の隙間を縫うように狙いをつけて矢を放つ。


「ッ……ガァ…ァ、ゲフッ……」


短剣に続いて矢にも貫かれたゴブリンの動きが一瞬止まり、今度は咆哮ではなく血を吐き出しながら倒れ伏した。


(傭兵の頃は純粋な白兵だったが、俺も今や立派な弓兵になりつつあるな)


それは良いとして…… 目に見える範囲の連中を処理したものの、未だ森全体にざわついた雰囲気を感じる。


「グルォ、ガォワンッ (皆、警戒をッ)」


「ウォオンッ、グルァ (任せろ、大将)」


バスターとランサーがその場から少し距離を取って周辺の警戒に当たり、妹は投擲した短剣を回収するため、逃げようとした小鬼の死体にゆっくりと近づいていく……


一方、俺はウェアキャット族の娘に視線を向けた。


傭兵時代に砂漠の国アトスで砂猫人族の連中とも一緒に行動したことがあるため、猫人(ねこびと)の類は初見ではない。彼らは俺たちコボルトとは違って素体が人寄りのため、猫耳と尻尾が生えた人間という印象を持ち、様々な土地に適応して暮らしている。


(確かに森に棲んでいてもおかしくはないが……)


少々訝しんでいると、猫人の娘は圧し掛かるゴブリンの死骸を払いのけて上半身を起こした。


続く動作で頭を射抜かれた小鬼の死体が握り込んだラージナイフへ彼女の手が伸びたため、片手を前に突き出して頭を左右に振ることで動きを止めさせる。


得物を手繰り寄せようとした手が止まったことを確認した後、ゆっくりと歩みを進めて足元に転がる物言わぬゴブリンの死体を蹴り飛ばし、座る場所を確保してから猫耳娘の隣にどっかりと腰を下ろす。


幾つか確認しておく必要があったため、縦長の石に麻紐を巻いて作った石筆を腰元の革袋から取り出し、彼女の視線を地面に誘導しながら文字を刻む。


“どうしてゴブリンに襲われていた?”


……………

………


絶体絶命の窮地に陥った私が奇妙な犬人達と出会えたのは、それこそ望外の幸運だった。


野蛮なゴブリンたちに四肢を押さえ込まれて汚いぼろ布を口に詰め込まれ、自害すら許されずに嬲られるだけの絶望に私の心が折れそうになった瞬間、下卑た笑みを浮かべる小鬼の頭を一本の矢が貫く。


咥え込まされたぼろ布の酷く苦い味に吐き気を催しながらも視線を漂わせると、少し離れた場所で弓を構えて素早く二の矢を番える銀毛のコボルト?が見えた。


私たちの棲む村の北側にあるヴィエル村にも仲間が偶に行くことがあるので、イーステリアの森中西部にコボルトが生息しているのは皆も知っている。


………… 私が父さんから聞いたコボルトは小柄な犬人という話だったけど、銀毛のコボルトは身長180㎝ぐらいありそうで無駄に筋肉質な身体つき、つまりマッチョな体格をしていた。


突如現れたコボルトに誰もが注意を惹きつけられているうち、彼の左右にいたやはり通常より一回りは大きいコボルト二匹が飛び出し、私の四肢を押さえ込んでいたゴブリンどもを各々の武器で刺し貫く。


唯一残ったゴブリンは押さえていた私の右腕を離して逃げ出すが、既に銀色のコボルトの射程範囲に捉えられていて無駄な足掻きに終わった……


こうして拘束から自由になった私は猿轡をはずして、口に詰め込まれた汚い布の塊を取り出す。


「うぇっ、かはッ」


続けて圧し掛かったまま私の腹上で絶命している気持ち悪いゴブリンを払いのけ、上半身を起こして奪われた愛用のラージナイフに手を伸ばすと、その行為を銀毛のコボルトに止められてしまう。


(コボルトもある程度の知能を持つと聞くけど……)


結果だけ見れば貞操の危機を助けられた事実があるので、私は武器に伸ばした手を引っ込めて、くすんだ銀色の毛並みを持つ犬人を観察する。


すると彼は私にゆっくりと近づいてきて隣に腰を下ろし、私たちの周囲をその仲間たちが警戒し始めた。


(身長190㎝以上はありそうな規格外もいるのね…… あれもコボルトなの?)


腕黒巨躯の筋骨隆々としたコボルト?に一瞬だけ気を取られていると、隣に座った銀毛のコボルトが地面に何かを刻み込む。


「はいッ!?」


それは驚くべきことに私たちも使える周辺国家の共通文字だ。私が今まで村の皆から聞いていたコボルトの印象がガラガラと音を立てるように崩されていく……


(”ある程度の知能” どころの騒ぎじゃないよ父さんッ!)


こうして私は奇妙な犬人たちに助けられたのだった。


……………

………

人物紹介


通称:リズ(♀)

種族:ウェアキャット

階級:軽装戦士

技能:短刀術 敏捷性向上(小 / 常時)

武器:ラージナイフ(主) スローイングナイフ(補)

武装:ブラックレザー



読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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