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ゴブリンは天敵です

傷を負った仲間を庇いながら後退を始める猫人(ねこびと)の戦士たちに対して、ルクア村の戦いで勝利を収めたゴブリンたちが勢いづく。


「ギギゥ、ギャオウッ! (ブレイブ、追撃するぜッ!)」

「「ギャゥアーーッ!!(ヒャッハー!!)」」


様々な刀剣を装備した小鬼族の剣士ソードが麾下のゴブリン十数名を引き連れ、気勢を上げて猫人(ねこびと)たちを追い、小鬼たちの群れを率いるブレイブも追撃に動き出す。


「ギギィ ギァ…… グァン ギギゥ」

(俺の隊も出る…… ロック隊は後衛だ)


「ググッ (あぁ)」


彼を補佐する魔術師が頷くのを一瞥し、ずんぐりとした体格の重戦士ヘビィに視線を転じる。


「ギギッ、ギァォオ? (おいら、どうずる?)」

「ギィウオ…… (そうだな……)」


ヘビィ隊のゴブリンたちはともかく、本人は鈍足なので追撃戦は見るからに不向きだ。


「ギィル ガァ グギィゥ (ヘビィ隊はここの確保だ)」

「ギギッ (分かった)」


各隊への指示を出し終えた後、小鬼族の勇者は同族たちを見渡しながら大声で号令を下す。


「ギィグァ ギィギルッ、ガディア! (予定通り挟み込むッ、征くぞ!)」


ゴブリンたちの目的の一つはルクア村の猫人(ねこびと)族の雌を生かしたまま攫うことだ。


彼らは雄だけの種族であるが多くの他種族と交配可能であり、その結果として生まれてくる子どもは必ずゴブリンになる。つまり、彼らの繁殖と繁栄のためには他種族の雌がどうしても必要なのであった。


ただ、無策で村を襲って追いかけても小鬼族の脚では素早い猫人(ねこびと)たちに敵わないため、襲撃側の戦力を減らしてでも、雌を捕らえるためには仲間が待ち伏せている場所に追い込むしかない。


故に、ルクア村を襲撃した時には、草原地帯に続く西側からブレイブ隊とロック隊の主力が、森のある東側はヘビィ隊が、南側はソード隊が村を包囲をしながら攻めた。


それにより勘の良い一部の者たちを除き、多くの猫人(ねこびと)は誘導されたとも知らずにゴブリンらが待ち受ける北側の森へと逃げてしまう。


……………

………


小鬼族の突発的な強襲を受けて猫人(ねこびと)族の戦士たちが応戦する最中、北側の森へと一時的に避難した老人や女性、子供たちの中に少し長い黒髪の猫娘リズの姿がある。


彼女はボトルネックの上着に動きやすい短めのプリーツスカートを合わせ、その上から髪色と同じ黒に染めたレザーアーマーを着込んで、剣帯には湾曲した大振りのラージナイフが吊り下げられていた。


出で立ちこそ立派な戦士であるが、駆け出しのために森へ逃げる人たちの護衛に回された彼女の猫耳が周囲の会話を拾う。


「村を襲ったゴブリンの数…… 相当に多かったけど、大丈夫かしら?」

「でも、ゴブリンだしな…… 村の戦士たちで追い払えるんじゃないか」


なお、村の猫人(ねこびと)たちは急な襲撃で慌てて逃げたために幾つかの集団に分断され、此処へと一緒に避難したのは三十名ほどであり、今はそれぞれに声を潜めて不安そうに話し合っている。


(最近、東側の森に棲みついたゴブリンたちが活発になって、村の周囲でも姿を見たと誰かが言ってたけど、まさか村に攻めてくるなんて)


当時の猫人(ねこびと)たちはそこまで重大に受け止めてなかったが、そのゴブリンたちは言わば斥候であったのだ。


(…… それにしても、父さんは大丈夫かな?)


リズの父親はルクア村の戦士たちを纏める立場としてゴブリンたちの迎撃に出ているため、内心で心配しながら無事を祈っていると不意に叫びが木霊する。


「ッ、逃げろッ! ゴブリンどもが来るぞッ!!」


「えッ、嘘ッ!?」

「そんなッ!!」


微かな葉擦れの音が聞こえ、撤退する猫人の戦士たちを追い払った小鬼族の双剣士が隊を率いて木々の合間から姿を現す。


「くッ……」


その数は猫人(ねこびと)たちの半数程度であるが、此処にいる皆は老人や女性、子供たちであるため碌な応戦もできずに混乱しながら散り散りに逃げ出していく……


「きゃあッ!?」


「あぁッ」


その中でも不運な者は森の中を逃げ惑ううちに、村の北側にあらかじめ伏せられていたゴブリンたちの小集団に出くわして取り押さえられてしまう。


リズもその中の一人で、村の子供二人を連れて森の中をあてもなく走っていたところ、茂みから飛び出した複数のゴブリンたちを躱しきれずに抱き付かれて押し倒される。


「ギャアゥ! (押さえ込め!)」

「グオゥッ (応ッ)」


「ッ、きゃあぁッ、くっ、二人とも逃げてッ」


響く悲鳴に足を止めてしまった猫人(ねこびと)の子たちが彼女の声に背を押されて再び走り出すが、小鬼たちの標的は最初から猫人の雌なので追う必要もない。


彼らは次々と地面に倒れたリズへと群がり、彼女の四肢を押さえつけて動きを封じていく。ゴブリン族は見かけは小柄であってもその力は意外なほどに強く、複数の力で押さえ込まれた彼女はほとんど抵抗ができない。


「ひッ」


腰に吊るした大振りなナイフは取り上げられ、着込んだ革鎧も無理やりに引き剝がされて、卑猥な笑みを浮かべたゴブリンが圧し掛かってくる。彼らに捕まった女性がどうなるかは一般によく知られている話のため、リズは恐怖に顔を引き攣らせてしまう。


(ッ、このまま好きにされるくらいならッ!)


悲壮な覚悟を決めた彼女が舌を噛もうと大きく口を開けると、ボロ布の塊を詰め込まれて自害できないように処置されてしまう。


「ぐぅ!? うっうぅーッ」


「ギャギャッ、ギゥアギレッ (ははッ、何言ってるか分かんねぇよッ)」


ゴブリンたちからすれば捕らえた雌が自害を試みるのはよくあることだ。そのため対処にも手慣れており、リズが吐き出そうとするボロ布を押し込んで猿ぐつわを噛ませ、さらに彼女の上着を掴んで力任せに引き千切ろうとする。


「ギッ (ちッ)」


しかし、丁寧に縫製された服は中々破れず、彼女に跨ったゴブリンが舌打ちして奪ったラージナイフを鞘から引き抜こうとした瞬間、不意に聴覚が風切り音を捉えた。


「ギァ?(へッ?)」


 トスッ


飛来した矢に眉間を射抜かれたゴブリンが惚けた表情のまま力を失い、リズの上に倒れていく……


……………

………


先程、妹が俺たちよりもやや大きな狐耳でいち早く捉えた悲鳴の場所に駆けつけると、若い猫人(ねこびと)族の女性が今まさにゴブリン達に慰み者にされかけているところだった。


直ぐに状況を理解したダガーとランサーからハンドサインが送られてくる。


ニイチャン・アイツラ・ヤッチャオウ

ユルセナイ……


因みにゴブリンは俺たちの敵対種族のひとつで、コボルトの幼体を襲って喰らったり、繁殖のため雌を攫うなど百害あって一利なしの存在だ。


俺は異論もなく、弓を構えて猫人(ねこびと)族の娘に跨るゴブリンへと矢を放ったのだった。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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