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イーステリアの森南方へ

戦利品の仕分けを一先ず終えた後、揃って着込んだレザーアーマーに如何ともし難い違和感を持ちつつも嬉しそうな集落のコボルトたちを眺めながらぼんやりと考える。


群れの文化的な生活を発展させようと、先日は北東へスティーレ川沿いに向かっていったが…… ミュリエルの持っていた地図を見た今では、その方角への進出は難しいことが分かった。


北東は髑髏マークの危険地帯 “バルベラの森”、北はリアスティーゼ王国フェリアス領の中核都市ウォーレンだ。どちらも近づくにはリスクが大きい。


「ガルゥ、ワファン…… (やはり、南か……)」


俺たちの棲むイーステリアの森は国境を越えて広がる大陸有数の大森林地帯に含まれ、南方にはエルフが暮らす古代の森と呼ばれる地域がある。


そこまで行く気はないが、一度は南を探索してみたいな…… 思わぬ発見があるかもしれない。


ここはヴィエル村やゼルグラの町に近いため、人族に見つかるリスクを否定できず、万一に備えて次の集落地を探しておく必要もある。


後はランサーだけ仲間内で進化を迎えていないから、ついでに旅の目的の一つにしてもいいな……


「ワゥ、クルァアオォン、ヴアゥガルォ ウゥオオルォン

(まぁ、理由を付けたが、刺激や変化が欲しいだけかもな)」


新しい何かを求めて旅をするのは生き物の性なのかもしれない。


(一応、実益はちゃんと兼ねるけどなッ)


俺はイーステリアの森南方の探索に出る決意をしながら、長身痩躯の幼馴染に声を掛ける。


「ワオァン、グァル ガゥルウォオオンッ (ブレイザー、暫く群れを頼むッ)」

「ン、ヴォアァオン? (ん、また出かけるのか?)」


「ワフ、ウォアルファウオン…… (あぁ、森の南方に行く……)」


短く返事をしつつ、アックスを手招く。


「グルァ、ガルォン? (ボス、どうしたの?)」


「ワゥウッ、グルゥウォオオン

(アックス、お前にも群れを頼む)」


二匹に群れのことを頼みながら、武器を抱きかかえて喜ぶ愛すべき同胞たちに視線を向ける。


「ワゥアン ヴォルァオオン (二人で鍛えてやってくれ)」


「ワォオン、グルァ (分かったよ、ボス)」

「グォンッ (承知した)」


ブレイザーだけに訓練を任せると癖が強くなってしまうが、アックスの穏やかな性格がある程度、中和してくれるはずだ……


数日を集落で普段通りに過ごして旅への英気を養いつつ、こっそりと借りていた荷車も村に返却した後、俺はダガーとバスター、ランサーの四匹でイーステリアの森を南方へと旅立つ。


その道中で問題になったのはやはり水だ。


赤毛の魔導士が持っていた地図よりも精度は劣るが、野盗たちの物資にあった地図によると、集落から南に二日ほど歩いた場所にスティーレ川とは異なる河川の支流が記されていた。


念のため、各自で4日分の水を幾つかの革水筒に入れて用意してあり、その総量の半分の水を使った時点で水源を見つけられなければ引き返すつもりだったが……


「キュウ、クゥアォ~ン (兄ちゃん、川があったよ~)」


密かな心配をよそに、予定通り二日目の昼過ぎに水源たる支流は見つかった。


それにこの周辺一帯は湧き水もある。大量の水分を蓄えているブナの木もここにくる前にちらほらと見かけたからな…… 南方の森は水に恵まれているのかもしれない。


少々思索していると、バシャバシャという水音に意識を引き戻される。視線の先では、浅瀬へと歩みを進めたバスターが革水筒に新鮮な水を汲んで飲み干そうとしていた。


 ゴクッ、ゴク……


「ガファッ! (ぷはあッ!)」


「…… グォルウォアルゥ クルァオゥンッ

(…… あんまり飲むとお腹を下すわよッ)」


いつもの様に面倒見の良いランサーが巨躯の幼馴染を窘めているのを横目に、川辺の岩に腰を降ろして暫しの休憩を取っていると、水遊びをしていた妹の大きな狐耳が何やらピコピコと動く。


「ワファ、クォアルン? (何か、聞こえない?)」


耳を澄ますと確かに俺にも聞こえてくる。

これは…… 誰かの悲鳴か?


……………

………


本来、生き物たちは川などの飲用可能な水源に沿って生活を営む。それは人や亜人種も同じで、風変わりな犬人たちが辿り着いた水源から少し離れたところに猫人(ねこびと)族の暮らすルクア村があった。


彼らの容姿は魔物と言うよりは人間であり、その違いは頭に生えた猫耳としっぽぐらいだ。その知識や文化レベルは高く、長い歴史の中で人間とも交流を持ったために西方諸国で使われる大陸共通語を話す。


そして、ルクア村には百六十名ほどの猫人(ねこびと)たちが暮らしており、南西のウィアルドの町や北のヴィエル村とも交易がある田舎の長閑な村落であるのだが、現在はその一部が炎に包まれていた。


「ギゥ、ギレウスッ (燃えろ、猛る炎よッ)」


ローブを纏いフードを被った小柄な人影がワンドを掲げ、放たれた火球が家々を燃やす。炎の照り返しを受けてフードの奥に見えるのは特徴的な大きい鼻を持ち、やや尖った耳を持つゴブリンの顔だ。


通称:ロック(♂)

種族:ゴブリン

階級:ゴブリン・ウォーロック

技能:初級魔法(火・風)

称号:小鬼族の賢者

武器:ワンド  

武装:小鬼族の魔術師服

補助:魔術師のローブ


小鬼族の中でも魔法に秀でたゴブリン・ウォーロックと呼ばれる亜種は薄く笑いながら、燃え盛る炎へと属性魔法による風を吹かせて火勢を強めていく。


「畜生ッ!これでも喰らいやがれッ!!」


怒鳴りながら猫人(ねこびと)族の戦士が全力で投擲した手槍は空を裂き、家々を焼き討つ小鬼族の魔術師へと迫るが……


「ギャオアゥ (危ないなぁ)」


加速していく手槍は標的に到達する前に、ブリガンダインを着込んだ巨漢のゴブリン・ヘヴィファイターが翳した盾で防がれてしまう。


通称:ヘビィ(♂)

種族:ゴブリン

階級:ゴブリン・ヘビィファイター

技能:腕力強化(小 / 常時) 体力強化(中 / 常時)

称号:小鬼族の重装兵

武器:戦斧 

武装:ブリガンダイン 大盾 鉄兜


直後、小鬼たちの注意が投擲した猫人戦士に集まった隙を突き、右側方から別の猫人戦士が素早く小鬼族の魔術師に切り込んでいく!


「どけ、邪魔だッ!」


「ッ、ギィャアッ」


途中で立ち塞がるゴブリンを力任せに斬り捨て、勢いのまま厄介な小鬼族の魔術師へと肉薄する。


「ギッ、ギャオウッ (はッ、殺らせるかよッ)」


だが、もう少しという距離で魔術師のゴブリンが飛び退り、ひょろりと背の高い変異種ゴブリン・ソードマンが両手にショートソードを握り込んで間に割り込んだ。


「うぉおおぉおッ!!」


猫人戦士が遠心力を乗せて振り下ろした斬撃を小鬼族の双剣士は得物を交差させて受け止め、勢いと衝撃を抑えてから片方の剣だけを引き戻して相手の胸へと突き刺す。


「……ッがふ」


胸部を貫かれて血を吐き出す猫人戦士の首筋を狙い、もう片方の剣が振り抜かれた。


通称:ソード(♂)

種族:ゴブリン

階級:ゴブリン・ソードマン

技能:両利き 腕力強化(中 / 瞬間)

称号:小鬼族の双剣士

武器:双剣 (主) スローイングナイフ (補1) 短剣 (補2)  

武装:レザーアーマー

補助:マント


無慈悲な刃を閃かせた小鬼族の双剣士は腰に二本の短剣を、マントの内側には無数のスローイングナイフを装備しており、対峙した者に異質な印象を与える。


「何だってんだよッ、いったいッ」


叫ぶ猫人戦士の周りでも戦いは繰り広げられており、彼の仲間たちは奮戦しているものの、数的に不利な状況下で傷つき倒れていく。


徐々に猫人側が劣勢となる中、ゴブリンどもの集団から筋骨隆々とした大柄な上位種が大剣を片手にゆっくりと姿を現した。


通称:ブレイブ(♂)

種族:ゴブリン

階級:ゴブリン・ブレイブ

技能:バトルクライ(小鬼族強化) 輝光剣 ????? 

称号:小鬼族の勇者

武器:ツヴァイハンダー

武装:レザーアーマー


直後、抗う者たちに止めを刺すかのように、群れを率いるゴブリン・ブレイブの魔力を帯びた大声が響き渡る。


「ギャゥギャオァアァッ、ギィグェッ!!

(小鬼族の勇士たちよッ、奮い立てッ!!)」



【発動:バトルクライ】

【効果:魔力の籠った雄叫びで、ゴブリン族を鼓舞して基礎能力を向上させる】



「「「ギャオォオオォオッ!!(うぉおぉおおぉおッ!!)」」」


その鼓舞に応じる咆哮がゴブリンたちの間から次々と湧き上がり、苛烈さを増した猛攻にルクア村を護る猫人族の戦士たちは敗走を余儀なくされるのだった。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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[一言] ゴブリンの装備がすさまじい… ゴブ○レさん「呼んだか?」
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