頑張るミュリエル
「貴女が、魔導士のミュリエル殿ですか?」
暫くの後、ヴィエル村の入り口までやって来た騎士が尋ねてくる。
「えぇ、騎士様、魔導士のミュリエルです。よろしくお願い致します」
「今回は賊の討伐に協力頂き、ありがとうございます。それで、そちらのお嬢さんは?」
騎士殿の視線が私の隣に向けられる。
「ヴィエル村の村長の娘マリルです」
「村長のセルジオ殿は?」
「父は病に臥せっております、申し訳ありません」
「そうですか、 分かりました…… それで賊は?」
「こちらです」
マリルが警備兵達を先導する後に私もついていき、村の入り口をくぐって中央の広場に進む。
そこには野盗たちが後ろ手に縛られ、紐の先はお互いに結ばれたうえで地面に打ち込まれた杭へと繋がれていた。付近には麻袋に入った野盗6名分の遺体も並べられている。
「検分しろ」
「はっ」
騎士殿の指示で、先ず遺体が改められていく。
「剣で腹を割かれた遺体が3名、背後から刺し貫かれた遺体が2名、槍による刺殺が1名です。かなりの手練れによるものかと……」
「…… これは、村の自警団員が?」
誰がやったかは聞かれちゃうよねと、赤毛の魔導士は密かに重い溜め息を吐いた。
「はっ、こんな村の自警団なんかに殺られるかよッ!!」
「素人相手に負けねぇッ!」
憂鬱な表情を浮かべるミュリエルにお構い無く、野盗たちも何やら騒ぎ立てる。
「じゃあ、誰の仕業なんだ?言ってみろ」
「……………… ちッ、コボルトだ」
うぅ、私が説明を頑張るしかないのね、ぐすん。
「……魔導士殿、野盗どもが言っていることは?」
「えぇ、本当です。私もその場にいましたから……」
こちらの言葉に反応して、検分担当の兵士が訝しそうな表情で言葉を挟む。
「隊長、コボルトだとすれば色々と辻褄が合いません」
「説明を頼む」
「はっ、遺体の傷ですが、奴らの使う黒曜石の武器によるものとも思えない切り口です。それに、爪牙の跡も全くありません……」
段々と騎士殿の表情が硬くなってきたよぅ…… 嘘をついているとか、思われてるのかしら。
「と、私の部下が申しておりますが……」
「その理由は簡単です、コボルトたちが武装していたのです。稀にゴブリンやコボルトは力尽きた冒険者や倒した相手の武器を奪うことがありますから」
稀にある事例だから嘘はついてないよ。
「…… 武器を持ったコボルトか、危険だな。それは今どこに?」
「詳細は分かりませんが…… 東北、恐らく “バルベラの森” の方向に去っていきました」
「“バルベラ” ですか…… 厄介ですね」
“バルベラの森” は低確率で脅威度C~Aの魔物が出現する。一般の兵士は精々、冒険者で考えると “鉄” 以上の実力があるけど、“黒鉄” には満たないと言ったところで、脅威度Cランクの魔物に対応できないはず。
よもや脅威度Aの魔物が出てきた場合、実質的な最高峰である “白金” の冒険者相当の実力を求められるけど、そんなのは国内に十名前後いるかいないかの準英雄だよ。
因みに最高位の “緋金” の冒険者になるには過去の英雄や大賢者と同じ実績を出す必要がある。まぁ、ほぼ無理な話だね。
具体的には脅威度Sクラス以上の最悪一国が滅びるような魔物を討伐する必要があるけど、そんな魔物が度々世に出てきたら人類は既に滅んでいるよ。
結果として “緋金” の冒険者はこの大陸全体でも極少数しかいない。
つまり、“バルベラの森” に出たとされる脅威度Aの亜竜タイラントリザードはフェリアス領兵の手には負えない。現実的には、ひとつ下の脅威度Bの魔物退治も無理だろうから…… 調査探索とか諦めてほしいなぁ。
「騎士様、そのコボルトたち自体が異常な変異種でしたから、下手をすれば脅威度Bに匹敵する可能性もあります。無理な探索は難しいのかもしれませんね……」
「…… 上に報告はしますが、“バルベラの森” の探索となると我々の手に負えませんか……」
何とか上手くまとまりそうね、よしよし!
「しかし、何故、そのコボルトどもが村を助けたのでしょう?」
うぐっ、それもあったよね…… 気付かなくても良いのに。
「そのコボルトたちの一匹がハイ・コボルトだったので、知能が高かったのでしょう」
「ハイ・コボルトですか、“バルベラの森” は何でもありですね」
ハイ・コボルトは発見事例が少ないため、その生態がわかってないから、割と好き勝手を言っても大丈夫よね?
「大体は分かりました。そのコボルトたちは気にかかりますが、“バルベラの森” に派兵するにはリスクが高すぎますからね…… 記憶には留めておきましょう」
「えぇ、お願いします」
その後、野盗たちの武器や防具についても聞かれたけど、それもコボルトたちが持ち去ったという事実通りの説明で済んだ。
「魔導士殿、マリル殿、ありがとうございます。ここでお聞きした話をゼルグラの町の司法院でもお願いしたいのですが……」
「すみません、騎士様…… 私には父の世話がありますので……」
「では、私が騎士様に同行しましょう」
最初にマリルと話していた通り、警備兵たちと同行を申し出る。
「では、魔導士殿、よろしくお願い致します」
そうして私は野盗たちを連行していく警備兵たちと共にゼルグラの町へと赴く。その司法院でも野盗襲撃の件を根掘り葉掘り聞かれるかと思ったのだけど、罠が仕掛けられているのでは無いかと思える程に至極あっさりと解放されたのが不可解だった。
なお、これは彼女の与り知らない話であるが……
司法院が事前に “赤毛の若い魔導士” の情報を街の冒険者ギルドに問い合わせたところ、送られてきた資料に大きく赤字で “征嵐の魔女の関係者に付き要注意” と書かれていた故である。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




