表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
267/274

暫時の休息と騎士令嬢の心持ち

結果、状況は劇的に進展すれども直ぐに正式な交渉開始とはいかず、先んじて暗黙の了解を挟むことになる。


どうやら街中で自死も(いと)わない無差別攻撃を敢行し、軍部に従う者達への神罰だと称する狂信的な月神教過激派がいるらしく、王国軍が静観している間に導師なども含めた残党を処理したいとの事だ。


「…… 相変わらず、迷惑(きわ)まり無い連中だな」


「信仰自体は尊いものだが、経典の教えを勝手に捻じ曲げられてもなぁ」


辟易(へきえき)した表情で自身も月神教徒たるアイシャが肩を(すく)め、手持ち無沙汰なザトラス領兵達が訓練と称して始めたポールアックスでの野試合を眺める。


平原に腰を下ろして(はや)し立てる者達で組まれた円陣の中心、二人ほど倒して勝ち抜いた()()()()()()()が木製斧槍(ふそう)の先端部を斜め後ろへ流し、右脇腹の位置で構えていた。


鋭い呼気を吐き、対峙(たいじ)している中隊副長のハムザが袈裟に斧槍(ふそう)を振り下ろせば、()は逆袈裟に振り上げた得物で柄部分を強打して弾き飛ばす。


それにより体勢が崩れたのを逃さず、切り返した斧槍(ふそう)の穂先で肩甲骨を穿(うが)つも、相手は咄嗟(とっさ)に屈み込んで革鎧を(えぐ)らせるに留めた。


「ッ、浅いですよ、隊長殿ッ」

「吠えるな、分かっている」


打ち払われた事で手前側にきた石突を素早く繰り出し、鳩尾狙いの一撃を放ってきた中隊副長に応えつつ、人に擬態しているバスターが軽やかなバックステップで距離を取る。


()(すが)りながら振るわれた横殴りの斬撃にも即応して “鉄門の構え” を取り、斜め立てた木製斧槍(ふそう)で柄同士が交わるよう受け止めた直後、撃ち込まれた斧刃(ふじん)鎌顎(かまあご)が柄を(から)め取った。


「貰ったッ!!」


渾身の力を()めたハムザが武器ごと引き付け、体勢を崩しに掛かるものの、 奴は “好きにしてくれ” とばかりに(いさぎよ)く片手を離す。


突然の肩透かしでよろけた隙に半身となって飛び込み、掲げた右脚から強烈な中段蹴りを腹部へ喰らわせた。


「がはッ!?」

「よいせっと」


さらに軽快な掛け声を響かせ、両手で持ち直した木製斧槍(ふそう)を振り抜き、鎧越しの衝撃で多々良(たたら)を踏んだ相手の鎖骨に斬撃も見舞う。


そのまま半歩踏み込んで鎌顎(かまあご)を首裏に引っ掛け、狼犬人の膂力(りょりょく)で手繰り寄せると下手に踏ん張ろうとしたハムザは手前に転倒した。


「うぐッ、負けました。そろそろ、消耗していると思ったのにぃ」

「はッ、まだ数人は打ち倒せるぜ」


眼前に突き付けた斧槍(ふそう)の穂先を除け、暴れ足りない筋骨隆々な大男は周囲の領兵らに(うそぶ)いたが…… 指揮を執るアイシャの性格上、完全な実力主義となっているザトラス領軍で副長格を下した偉丈夫(いじょうふ)に名乗りを上げる者は早々いない。


野次馬に(まぎ)れた幾人かの隊長格も、酷い負け方をしたら部隊全体の沽券に関わるため、軽々(かるがる)しい行動はできないのだろう。


「ふむ、誰もいないのであれば再戦させて頂こう。私が勝ったら、貴殿を一晩好きにさせて貰うぞッ、バスター殿!!」


「ッ、御嬢(おじょう)が出るぞ! これは見ものだな…… 何か賭けるか?」

「いや、流石に不謹慎だろ。後でウィアド様や奥方様に怒られるぜ」


「ともあれ、応援しますよ、御嬢(おじょう)!!」

「「「うぉおおぉおッ!!」」」


(にわ)かな盛り上がりを見せる渦中にて、砂埃など払っていたハムザから訓練用の斧槍(ふそう)を手渡され、好戦的な性格の騎士令嬢は得物を右肩に担ぐような “貴婦人の構え” を取った。


その姿に口端を吊り上げて(わら)い、幼馴染みの悪友は彼女と同じ体勢で迎え撃つ。


なお、二人の構えは()()()で多用される部類であり、上段より武器重量と速度を乗せて振り下ろされた捨て身の一撃は遠心力も相まって、最大級の武威を発揮する。


言わずもがな、黒毛混じりの人狼犬が愛して()まない一撃必殺に通ずる上、たとえ身長180㎝前後を誇る駄肉(だにく)の無い引き締まった体格のアイシャでも、奴の方が頭一つ分ほど高いため “打ち落とし” の威力では後塵(こうじん)を拝してしまう。


(それが分からない程度の稚拙(ちせつ)な技量では無い筈だが?)


何らかの算段があるのか、熱気が(ただよ)う場の雰囲気に()まれただけか、覇気を(まと)って()えた騎士令嬢が仕掛け…… 領兵達の歓声と悲鳴が響き渡る。


「うきゃああぁッ!」


「あぁッ、御嬢(おじょう)がまた……」

「ぐぅ、勝負は無情と()え、()いたわしい」


全力で打ち付け合った木製斧槍(ふそう)が諸共に折れた瞬間、事前に見越していた彼女は()めて顔面へ掌底を叩き込んだが、野生の動体視力や感覚なども(ゆう)するバスターに手首を掴まれて勢いのまま後方へ引き倒されていた。


あたかも王都エディルの表通りで揉めた際の焼き直しの(ごと)く、土埃で戦闘用ドレスを汚したハーディ家の娘が無様に転がっている。


「うぁ、また負けてしまったか」


若干、意気消沈したアイシャの表情には何故か喜びも混じっており、不可解さに思わず首を捻っていたら、足元に寄り添う大型犬姿のランサーが呆れ混じりの声を漏らす。


「ガォ、クァル ガルァ ガォオアァルァアオン

(多分、惚れた相手の強さを感じたかったのね)」


「ぐぉ うぉおる うぉああぁうぅ、ぐぉうあぅ

(それで正面から打ち合ったのか、業が深いな)」


「ぐあぅくぉおん がるぐぉおあぁうぅ くぅあ、がぅるおぅあん~♪

(実は兄ちゃんに組み敷かれたがってる娘も、群れに多いんだよ~♪)」


何やら聞き捨てならない言葉がマリル(偽)に化けた妹狐から聞こえ、言われてみたら心当たりのある事実に愕然としつつも、差し伸べられた無骨な手を嬉しそうに握り込んだ騎士令嬢を見遣った。


野営地での長閑(のどか)な一幕に触発され、戦争が終息に向かっていると意識したせいで、(がら)にも無く彼女の心持ちが気になってしまう。


一度、聞いておくにしても直接的な関係は無いため、様子を(うかが)っている内に時が経ち…… やがて開始されたザガート共和国とアルメディア王国の休戦交渉が山場を迎えた頃、(ようや)くその機会が訪れた。

いつも読んで頂き、ありがとう御座います!


今回のアクションは長物です。

特にポールアックスは近接武器の完成系に近いので動きに幅があります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 本来の信仰からかけ離れたらただの過激派な連中 敵より厄介な味方ですね [気になる点] 町を占領したら、月教の隠し資金とかわんさか出てきそうですね。 でも寺院の焼き討ちは市民の怒り買いそ…
[一言] 農具も上手く使えば立派なポールウェポンですからね ピッチフォーク構えたホッケーマスク男とか
[一言] 更新お疲れ様です! やっぱり過激派はろくなことしないですね、、勝手に自分の都合のいいように解釈して好き勝手暴れますもんね、、バスター、意外とテクニックな所もあるんですね だいたい力押しで何と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ