鉄板と焼肉と
少し離れた草むらに身を伏せて潜みつつ、その野盗たちの様子を窺う。ふむ、二人だけだから強襲すれば直ぐに片付くが…… ある程度の安全性を確保するため、慎重にいくことにしよう。
俺はハンドサインでブレイザーに相手の右側方に回るように指示を出し、バスターには左側方へ移動した後、機を見て仕掛けるように指示を出す。
いつもの狩りのパターンの一つだ。
で、こっちは地に膝を突いて弓矢を構えて仕掛けを待つ……
「グルァアアァ―――ッ!!」
「なぁッ!?」
咆哮と共に飛び出すバスターに対して、野盗二人が反応して左を向いた瞬間を狙う。
「ウォフ、ガルヴァ (風よ、導け)」
二人の野盗の内、バスターに近い方の腕を狙って短い呼気とともに矢を放ち、風属性の魔法で追い風を吹かせて加速させた。
「ぐッ……」
即応できるように手で保持していた鞘から抜剣しようとする野盗の腕に矢が刺さり、その動きを止めて一瞬の隙を生じさせる。
「グゥルアアァッ!!(斬ッ!!)」
ザシュッ!
「ッ、ぐわぁああッ!」
素早く距離を詰めたバスターの袈裟切りが先ず一人目を仕留め、野盗の男は前のめりに倒れていく。
「う、うわあぁああッ!!」
切られた野盗の少し後ろにいたもう一人の男が慌てながらも長剣を振り上げたものの、それが振り下ろされることはない。
「げぽッ……ッ!?」
得物を振り上げたまま動きを止め、不思議そうに自分の腹から突き出た刃を見つめる。実は、最初に野盗たちの左側から飛び出したバスターに正対した時点で、右側に回ったブレイザーに背中を晒すことになっていたのだ。
「ガゥッ、ガルク グォオルァオンッ!
(はッ、背撃は不意討ちの基本だぜッ!)」
ブレイザーは剣を引き抜きながら、呻き声を上げる野盗の背中を蹴り飛ばす。
倒れた二人の野盗たちの身体からはとめどなく血が溢れていった。
「グルォア (終わったな)」
俺は茂みから出て身体を起こし、弓矢を背に掛けて倒れ込む野盗たちへと慎重に近付き、その腕に刺さった矢を抜いて矢筒に戻す。
ふっ、俺も立派なコボルト・アーチャーになってきたぜ。
欲を言うと、飛び道具を扱える仲間がもっといた方が良い…… 確かさっきの戦利品の中にスリングショットがあったな、あれなら弓よりも扱い易いし、いっそブレイザーに持たせてみるか。
戦闘の終わりを察して、バックアップとして待機していたアックスとランサーも伏せていた身を起こす。
「ガゥ、ヴォアゥ クルァアオオゥ…… (さて、色々と見させてもらうか……)」
では、野盗たちの生活物資なんかを漁らせてもらおう。
個々の兵隊の私物などを好き勝手に奪えば略奪になるが、基本的に敵性存在となる軍隊や武装組織に勝利した後、彼らが活動するために必要とした武器や物資は徴収や没収しても法的問題は無い。
要するに最低限の線引きは一応されており、この場合は戦利品だから正当な報酬だ。などと、自分に言い訳をしながら色々と物色していく。
これは……塩に油か。
そういえば、草原や森にマメ科の植物が自生していたな…… すり潰してペーストにしてから麻布で絞れば油が抽出できるかもしれない。
塩は…… 結局、山脈に行かないと岩塩が手に入らないし、海は遠いな…… だが、この体になってから、意識的に塩分を取っていない点を考えると、取りすぎも良くないのかもな。
ただ、味覚的なことも考えれば捨てがたいし、役に立つこともあるだろう。
「グルァ、ウォフ ワファ? (ボス、これは何?)」
「ワフッ、ガルゥクァン (あぁ、それは干し肉だな)」
「ワゥ、クァン?(え、肉なの?)」
おもむろにアックスが干し肉に齧りつく。
「アゥ、クゥオル、クァーン♪ (あ、硬いけど、お肉だー♪)」
後、残りの食べ物はパンと大豆だな。
大豆は水を与えれば状態の良いものは発芽しそうだ。
(いずれは栽培を考えるか……)
小麦にしてもヴィエル村の耕作地の周辺の草原に同品種に見えるものが少し生えていた。耕作地から飛散したものだろうか。ただ、それがあったところで脱穀の道具やひき臼が無いと何の意味も成さない。
因みに最近、俺の興味は農耕に向いていた。
冬の獲物の無い時期を考えるとなぁ……まぁ、今まで凌いできたわけで危急の課題という訳ではないけれども。
幸い、ハイ・コボルトの魔法適性に地属性があるから、土使いの魔術師達がやっているような地中に魔力を通して、害虫などを選択的に駆除する方法を使うことができるかもしれない。
どの反応を駆除するかは手探りだが、基本的には1㎜以上のサイズでかつ微細でも移動を行う反応を潰せばいいとエリック(傭兵:土属性魔術師)が言っていたな……
「グルァ、ウォフ ワファオウ? (ボス、これは何かしら?)」
「ワォフ ガルァン (それは鉄板だな)」
肉を焼くのに便利そうだ。
森に自生している麻科の植物の茎を細かく割いて乾燥させた火種を作って、火打石で着火できるようになったし、アックスが切り倒した木材から作った薪もある。
軽く塩で味付けした焼肉とか良いのかもしれないな。
(じゅるり……)
よし、その鉄板や鍋などの調理器具はいただいておこう。
一度に持ち運べる荷物に限りがあるので選別を行い、その場にあった荷車をバスターが、村で借りたものはアックスに引いてもらって俺たちは集落へと帰るのだった。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




