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世話になったな、ミュリエル!

「ほ、本当ですか、魔導士様!」


マリルはその言葉に思わず聞き返してしまう。


確かに、頭の猫耳としっぽが特徴的なだけで後は人間と変わらない猫人(ねこびと)族など、獣人の中でも獣と言うより人寄りの種族は意思疎通が可能だ。


それらの種族は交渉可能な亜人種として扱われるが、コボルトはゴブリンと同様に魔物扱いされる種族であり、言葉を交わすことはできないとされている。


「落ち着いて、先ずは野盗を拘束してからよ。そっちの銀色の君、私たちが野盗を拘束するけど、抵抗しないように協力してくれる?」


「ガルゥ、グルォ、ヴァルォアァン (勿論だ、皆、野盗を牽制するぞ)」

「グォアンッ、グルァ (了解だッ、大将)」


全て打ち合わせ通りだからな!

俺は弓の狙いを頭目に向け、他の仲間たちは丸腰になった野盗に近付いていく。


「ぐッ、うッ……すげぇな、ホントにこっちの意図が伝わってる」

「リーバスッ、傷は大丈夫か?」


最初に野盗のフレイルによる攻撃を受けて棘付き鉄球が刺さり、蹲りながら止血のために腹を押さえていた自警団員が苦痛交じりに言葉を漏らす。


その様子を見たミュリエルがリーバスと呼ばれた男に近付いて跪き、腹を押さえているその手にそっと自身の手を重ねた。


「…… 汝を苛む苦痛に癒しの光を、ヒーリングライト」

「あぁ…… ありがとうございます、魔導士様」


「これで大丈夫ね、じゃあ、あの野盗たちを捕まえてくれる?」

「はいッ! マリル、村の倉庫の縄を使うが、構わないな?」


「あ、はい、お願いします」


俺たちが野盗の抵抗を封じる中、ヴィエル村の自警団員二人が村の中に走っていく。その背中を眺める野盗たちからは呟きが聞こえてくる。


「はぁっ、ツキがねぇわ…… コボルトが人語を理解して、村を助ける? 普通、襲う側だろうが……」


「さっきの連携も、コボルトの動きじゃなかったですからねぇ、やりきれませんよ……」


やがて縄と鋏が持ってこられて、自警団員たちが野盗たちを拘束していく。彼らは後ろ手に縛られ、その縄の先を仲間同士で結び合わされて、容易に動けないようにされた。


「じゃあ、野盗たちの脚の束縛を解くね、“万物よ、あるべき姿に還りなさい…… ディスペルッ!”」


「ッ、ぐぁッ!!」

「くうッ!」


ミュリエルの解除魔法により、野盗たちの脚に刺さっていた無数の土塊の牙がボロボロと砂になって崩れていく。それにより、出血が酷くなった者には彼女の治癒魔法が施された…… 野盗にまで、親切なことだな。


そして、拘束が終わったことを確認した俺は軽く構えた弓矢を降ろす。


「グルァアゥ ワゥウ、クゥアウ グォウル ガオルァアッ! 」

(バスターにアックス、ランサーも武器を回収してくれッ!)


「ワォアァンッ (分かったぜッ)」

「ワンッ (うん)」


「グルァ グルォンッ グォルオアァン……

(俺とブレイザーは念のために警戒だ……)」


俺は手振りで、自警団員や村娘に離れるように促し、先ず、野盗たちの足元に転がる戦槌、スリングショット、短剣、ロングソードなどの武器を回収させて一所に集めた。


次に野盗たちの腰元の小道具などが入った革袋や、身に纏う革の胸当てやレザーアーマーなども三匹に回収してもらい、野盗の身ぐるみを剥がしていく。


途中、一度拘束した縄を緩める手間もあったが、欲しい物は手に入った。


一部の軽装鎧はブレイザーのロングソードが貫通していたり、バスターの一閃で腹部装甲が切断されたりしていたが……


しかし、野盗総勢19名分の戦利品は結構な量だな……


俺は興味深そうにこちらを見つめるマリルと呼ばれていた少女に驚かせないよう、ゆっくりと近づいていく。先程の自警団員が縄を持ち出すときに、この少女へと確認を取っていたからな…… 恐らく村長の娘といったところだろう。


「ッ、ひぁッ」


その村娘は傍に立つミュリエルの背に隠れてしまった。


「大丈夫よ、マリルさん。敵意はなさそうだから……」

「で、でもッ!」


そんなに怯えられるとコボルトとしての狩猟本能がひょっこりと顔を出しそうになる。自重しなければいつか間違いを起こしそうだな……


二人の前にどかっと腰を下ろして、最近、持ち歩くようになった先の尖った石で地面に文字を書いていく。


“助けた礼を強請るようで申し訳ないが、アレを持って帰りたい”


「えッ!? コ、コボルトが文字をッ!! そ、そんなことって……」


ミュリエルと一緒にしゃがみ込んだマリルが地面に刻まれた文字を見て、驚愕の表情を浮かべながら何度も確認する。


“必ず返すから荷車を借りたいんだが……”


暫し動揺の収まらない様子でマリルは考え込む。


状況からして、この不思議なコボルトたちに村が救われたことは事実であり、マリル自身も少し離れた場所でこちらを窺う長身痩躯のコボルトに助けられていた。


「…… いいわ、村の共有物に手押しの荷車があったから、それを貸すね。ゼノさん、お願いできますか?」


「あぁ、俺も貸すことに反対はしないよ」


そう言った自警団員の壮年の男が村の中に戻っていき、ややくたびれた感のある手押しの荷車を引いてきた。


“感謝する、村娘のお嬢さん”


「コ、コボルトにお礼を言われたわ、とても不思議な気分ね……」


早速、仲間たちに指示を出して荷車に戦利品を積み込んでいく。


これで、このヴィエル村でのやるべきことは終わった…… 一度は村の外に避難した住民たちもチラホラと戻り始めているし、ここが退き際だろう。


俺は赤毛の魔導士の少女を手招きして、別れを済ます。


“ここでお別れだ…… ミュリエルには何かと世話になったな、ありがとう”


「……ん、私こそ貴重な体験ができたよ。一人でも安全に冒険ができるくらい強くなったらまた会いに行くよ?」


ヒソヒソ声で返事をする彼女に軽く頷いて立ち上がり、今しがた地面に書いた文字を足で払って消してから、俺たちはヴィエル村を去った。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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