小鬼族の重闘士 VS 犬人族の聖騎士
アックスを中心にした回ですね!
ちょこっと戦斧に関する豆知識を置いておきます('ω')ノ
※鎌顎=戦斧の刃下側、引っ掛けるための部分
※弋=戦斧の刃裏側、突起状の鉾になる部分
「ウォオオオッ!! (うぉおおおッ!!)」
「ガァアァアァッ!! (がぁあぁあぁッ!!)」
裂帛の気合と共にアックスがバックハンドブローの如く長盾を振り抜くも、小鬼と呼ぶには大柄過ぎる相手も中型盾を打ち降ろし、板金同士が衝突する不協和音が響いた。
双方体勢が崩れた状態から袈裟切りに戦斧を振るい、刃相鳴らして一瞬の火花を散らす中で、ゴブリン・ヘビィウォリアーが左脚で膝蹴りを打つ。
「グッ! (ぐッ!)」
脇腹に蹴撃を受けて飛び退いたアックスは長盾を構え直し、低い姿勢から強烈な体当りを相手に喰らわせる。
それだけに留まらず、袈裟掛けに振り下ろした戦斧の鎌顎へ中型盾を引っ掛けて払い除け、露になった顔面に長盾の端を叩き込んだ。
「グオォッ!? ギォスラウドッ (ぐおぉッ!? やりやがるなッ)」
鋭い盾先を半身で躱したゴブリン・ヘビィウォリアーが間合いを取り直し、交差させた両腕を大きく開いて、背筋と肩甲挙筋を活かした斧撃を放つ。
「ギャオアァアァッ!(うぉおあぁあぁッ!)」
「ワヮッ(わゎッ)」
やや傾斜させた長盾でアックスが剛撃を凌ぐものの…… 踏み込んできた相手は防御の間隙から、戦斧の厚い刃で肋骨ごと内臓を抉り込もうとする。
反射的に長盾を横に払って攻撃を逸らし、太腿へ下段斬りを返すも中型盾で弾かれてしまう。結果、どちらも有効打を与えられず、近接し過ぎた状態から距離を取って仕切り直す事になった。
その頃には周囲から小鬼たちの悲鳴や断末魔が響いており、油断なく戦況を確認したゴブリン・ヘビィウォリアーは眉を顰め、戦いの趨勢が明白になってきた事を理解する。
(…… 久々の雌が手に入ると思ったのにな)
当初は三方から奇襲を仕掛けて意図した方角へ誘い込み、麻痺矢を持たせた伏兵で耳長の雌二匹だけを捕らえる手筈だったが…… 壊滅的な損害を受けた此方に気付いた連中がようやく動き出す始末だ。
時機を逸した増援に即応し、僅かな攻防で同族を斃した銀毛と赤茶毛の二匹が反転する様子を窺い、伏兵たちが殺られるのも時間の問題だろうと判断する。
「ッ、ギレス デトラ セノラゥス (ッ、此処が死地と見つけたり)」
今更、機動性に優れた犬人から逃走するのは至難であり、無様に死ぬより戦いで散る覚悟を決めた猛者の気迫に中てられ、言葉の意味は分からずともアックスが不敵に口端を吊り上げる。
常日頃の穏やかな姿から忘れがちだが…… 彼のコボルトも本質的に武人であり、秘めた闘争本能が刺激されたようだ。
中型盾を翳して身体ごと吶喊してくる相手に応じ、自らも斜に構えた長盾の裏へ左腕を押し当て、騎馬を迎え撃つ鋼鉄槍のように低く飛び出した。
「グゥウッ (ぐぅうッ!!)」
「ガァアアッ (がぁああッ!)」
互いの盾が衝突して激しい金属音を響かせた刹那、戦斧を掲げたゴブリン・ヘビィウォリアーを視界に収めたアックスは素早く飛び退き、攻め気になっている重闘士の追随を誘う。
直後、斜めに振り下ろされた斬撃を長盾に掠らせる程度で躱せば、一歩踏み込んできた相手が腕を振り戻す形で防御の死角を突き、刃の裏側に備えた弋で刺突を繰り出してきた。
その機に乗じたアックスは戦斧を右斜め下方へ振り抜き、交わらせた鎌顎で瞬時に弋の接合部を絡め捕り、腕力に上半身の捻りも加えて引っ張りながら軸足を蹴り飛ばす。
「ギッ、グアァッ!? (なッ、ぐあぁ!?)」
驚愕の表情を浮かべたゴブリン・ヘビィウォリアーが勢いよく転倒する間際、右腕から吹き出させた病魔の血煙で目を潰す事も忘れない。
視界を奪われて地面に転がり、致命的な隙を晒した小鬼族の重闘士に斜めの斬撃が振り下ろされ、重厚な刃が硬化革鎧と右鎖骨を砕いて心臓まで達した。
「グブッ、アァ…… ウゥ…… ッ (ぐぶッ、あぁ…… うぅ……ッ)」
「ガォウ グルゥフォアオン (今回は僕に運があったね)」
気負いなく呟いたアックスが長盾を翳し、慎重に辺り一帯を見渡す間にも、喧騒が収まり始めた森は徐々に早朝の静けさを取り戻していく。
暫時の後、草をかき分けて歩み寄ってくる犬人とエルフたち以外に音を鳴らす者は居なくなった。
「ガルウァオオウゥ、グルァ? (これで終わりかな、ボス?)」
「ワフ、ガォウ (あぁ、多分な)」
感覚を研ぎ澄ませていた俺は軽く頷き、小首を傾げた青色巨躯の幼馴染に同意したが…… 濃厚な血の匂いで嗅覚が正常に働かないため断定はできない。
「ヴル グゥアオウゥ…… (手早く移動すべきか……)」
「うぉる、わぉあるぁあおおぉん (なら、川辺にでも行きましょう)」
「ぐるぉ、あぅうぐあぅ (皆、返り血塗れ)」
リスティの隣に立つセリカが指差す先を見遣り、自身の体毛や外套などに付着した小鬼たちの血に視線を向け、少々げんなりとしてしまう。
仕留めておいて申し訳ない気もするが…… この状態では正確に匂いを嗅ぎ分ける能力が低下し、野生の獣として落ち着かないのだ。
それは他の二匹も同様で感覚が鈍ってしまう事に抵抗を持つブレイザーなど、不機嫌そうに表情を顰めていた。
「ワォアン、ワォアオォオン (分かった、川辺に向かおう)」
「ウォルゥ ワァウアン~♪ (そこで朝ご飯だね~♪)」
こんな状況でも食欲を忘れないアックスに呆れつつも少ない荷物を纏め、心優しいエルフ巫女が骸と化した小鬼たちへ短い祈りを捧げた後、ひと悶着あった野営の場を発つ。
もうすっかり木漏れ日で明るくなった森の中、爽やかな風に含まれる微かな水の匂いを辿れば、やがてせせらぎの音を奏でるスティーレ川の上流が見えてきた。
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