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猟犬の如く

突然、背中からロングソードで貫かれて、胸に刃を生やした野盗の男をその仲間たちが茫然とした表情で眺める。


「ガルァアッ、グルォオオンッ! ウォアオゥ グォオルァ ガォオアン!!

(いいぜぇッ、その間抜け面はッ!これだから不意打ちは止められねぇ!!)」


本来、ブレイザーの主義であればヒット&アウェーで足を止めることなどないのだが、今の奴はこれ見よがしに雄叫びを上げた。


「な、なんだとッ!?」

「あれは…… コボルトなのか!? おかしいだろッ!」


騒ぎ出す野盗たちの視線の先には、仲間を一突きに仕留めた長身痩躯のコボルトらしき存在がいる。そのコボルトは通常のそれよりも頭一つ分以上は身長が高く、それでいて無駄な肉を付けていない引き締まった体躯をしていた。


まるで、スピード重視の軽戦士だ。


野盗たちの持つ、成人男性よりもやや小柄なコボルトのイメージとあまりにもかけ離れていたため、彼らの初動が一瞬だけ遅れる。


「ちッ、はぐれコボルト一匹だ! さっさと殺っちまえッ!」


怒鳴る頭目の判断は正しい。普通、村の入り口にいきなりコボルトが現れたら、群れを追い出された “はぐれ” に見えるだろう。



しかし、そうとも限らない。


…… ブレイザーの雄叫びに意識を惹きつけられた野盗たちはその瞬間、誰もが奴を注視しており、背後から素早く這い寄る銀色のコボルトたちに気付いていない。


「アォオオォーーーーーンッ」


俺は声の限り、魔力を籠めた咆哮を上げた。



【発動:バトルクライ】

【効果:魔犬の咆哮によりコボルト族を鼓舞して、基礎能力を向上させる】



実はこの魔犬の咆哮には、物理的な能力だけで無く、魔法的な能力も強化し、仲間たちに加えて自身の強化も含まれている。


それにより基礎能力を底上げした俺は大地に手を突き、現状で唯一使える範囲攻撃系の土属性魔法を野盗の頭目と配下に向けて放つ。


「ヴォルガゥアッ、ガルゥァアァッ!

(悉くを喰らえッ、戒める牙ッ!)」


「「ぐあぁッ!!」」

「「うおおおッ!?」」

「ッ、痛いぃぃッ!」


野盗たちの脚に地面から生えた土塊の牙が次々と突き刺さり、身体に損傷を与えながら地につなぎ留める。


件の岩オオトカゲを仕留めた人外魔法 “大地の牙” の効果範囲を拡張した “縛鎖の牙” の魔法だ。その牙の個々は “大地の牙” よりも小さく威力も低いが、中規模の範囲に無数の牙が生じる。


その一撃は先程のブレイザーが仕留めた一人を除いて、頭目を含む野盗たちの半数ほどの動きを封じた。


さらに “縛鎖の牙” の効果範囲外にいて難を逃れた野盗たちにはバスター、アックスの二匹が襲い掛かる。


「ッ、ヴォルガゥ グルァアァッ!! (ッ、この一閃にて貴様を断つッ!)」


突進と同時にバスターは上半身を側面に捻り、大剣を脇に構える。

その体勢から強靭かつしなやかな身体のバネを使って大剣を真横に振り抜いた。


「ぐぉおおッ!? ッう、があッ…ぁ……」

「ぐはぁッ!」


放たれた一閃はそれを受け止めようとした野盗の長剣を弾き飛ばして、その隣にいた別の野盗も含めて二人分の胴を切り裂き、斬られた男たちは腹を両手で押さえたまま跪いて倒れていく……


一方、アックスは我武者羅に戦斧を振り回して豪快な一撃を決める。


「ウオァア~ン、ガウゥ、クァオッ! (うぉおお~ッ、てやぁ、喰らえッ!)」


「がはッ!」


幸か不幸か…… 振り回された戦斧の刃ではなく、側面で顔面を殴打された野盗の男が意識を飛ばして地に伏す。


「くそがぁああッ」

「クァオフッ (無駄だよッ)」


応戦する野盗がアックスにショートソードによる斬撃を放つが、蒼色巨躯のコボルトは左手のシールドを自ら相手の剣に力任せに打ちつける。


「あっ…」


シールドでの打撃、俗にいうシールドバッシュにより、野盗の剣を握る両腕が打ち上げられてしまう。そして、無防備になった腹部へ横薙ぎに振るわれた戦斧が止めを刺す。


一連のバスターとアックスの攻撃より少しタイミングを外して、二匹に注意を向けさせた後、さらに側方に回り込んでいたランサーが飛び出して敵一人の胸を貫く。


又、“縛鎖の牙” による魔法攻撃の直後、相手の混乱に乗じて気配を殺し、その場から離脱したブレイザーも相手の死角からの一撃で野盗一人を仕留めていた。


…… 初撃からの僅かな時間で既に大勢は決したと言える。既に俺の仲間たちに倒された野盗が七名、大地から生えた土塊の牙に脚を貫かれて動けない野盗が九名だ。


連中には弓持ちの野盗も僅かにいるため動けずとも脅威になり得るが、俺が先んじて射殺せる状態で牽制しているので迂闊な行動はできない。


現状、野盗側で戦力として健在なのは蒼白な顔をしてやや手元を震わせている三名のみだ。


それに対して、こちらは五匹全員が無傷であり、ヴィエル村の自警団は一人がフレイルの棘付き鉄球を腹に受けて倒れているものの四名が健在だ。


この状況から野盗たちが逆転するのは難しいだろう。ここまでだな……俺は弓を構えたまま、その矢の先端を野盗の頭目が持つ戦槌に向ける。


暫くそのままにした後、ゆっくりと今度は地面を示す。

それを何回か繰り返した。


「……ッ、武器を捨てろってぇのか?」


「ワゥ、ガォウッ (よし、そうだッ)」


こいつ、中々に見所のある奴だな!!

俺はここぞとばかりに首を縦に振って頷く。


その察しの良い頭目は暫しの葛藤の後、“ちッ、勝ち目はねぇか……” と呟いて武器を捨てた。基本的に野盗などは捕まれば高確率で死罪になるが、今ここで殺されるよりも延命を選択したようだ。


命があれば隙を見て逃げることも可能だし、犯罪奴隷として生き残ることもある。


そう判断してくれた方が、こちらも手間が省けて有難い。

勝敗が決した後に淡々と止めをさす行為は好きじゃないのだ……


それに窮鼠猫を嚙むという言葉もあることだしな。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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