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背中ががら空きだぜぇッ By ブレイザー

それは、村で野盗たちが武器を取り、自警団に襲い掛かる少し前に遡る……


ヴィエル村を遠くに小さく目視できる頃合いで、俺たちは草むらに伏せて身を隠し、先行するブレイザーの帰りを待っていた。視界には村の住民の食糧事情を支える畑が見える。


(………… 暇だな)


手持ち無沙汰になった俺はチラリと隣で身を潜める赤毛の魔導士を見た。もうここまで来れば後は一人でも大丈夫だろうし、斥候に出たブレイザーが戻ってくれば別れるとするか……


バルベラの森で出会ってから、集落に帰還するまでの数日間だけの付き合いだったが、別れるとなると人恋しくなる。まぁ、周りにはコボルトしかいないからな……


生まれを同じくする連中は幼い頃からの竹馬の友ではあるが、人であった頃の感情を未だに捨てきれない現状では、やはりどこか寂しさを感じる瞬間がある。


そんなことを考えていたらミュリエルと視線が合った。

彼女は軽く首を傾げて用件を促す。


イヤ・ナンデモナイ


というジェスチャーを返した直後に草を掻き分ける音が鳴り、反応して振り返った俺は姿を見せた長身痩躯のコボルトに革の水筒を投げ渡した。


「ワォアンッ、クルゥアウ (ありがたいッ、いただくぜ)」


ブレイザーが手に持って掲げた革の水筒、それは俺が一歳六ヶ月の頃に試行錯誤を繰り返して作った至高の逸品だ。野生の大角羊の胃袋を洗浄してなめし革に包んで縫製している。


なお、縫製に用いた針は骨を削ることでかなりの精度のものを作ることができた。もともと、古代の遺跡からは今の銅製縫い針と変わらないサイズの骨の針も見つかっていたしな……


糸の方は麻を叩いて柔らかくし、細かく裂いて縒り合わせた麻糸を使っていた。


同じものをダガーとランサーにも作ってやったが、他の三匹にはまだ与えていない…… 集落からすぐのところに川があるので、当時は差し迫った必要性がなかったのだ。


だが、今は遠出をした際に仲間から水を求められることが多々ある。

そろそろ、あいつらにも作ってやらなければな……


「ウォフッ、グルォアァウゥ (はぁッ、乾きが癒える)」

「ウッ、クルァアーン? (で、どうだったんだ?)」


「ガルアゥ、グルファウォオオン、グルァ

(それがな、おかしなことになってるぜ、御頭)」


ブレイザーの説明によると、村の入り口に武装した人間の雄たちがたむろしており、それに対峙する同じく武装した人間の雄五人と若い雌がいるらしい。


「グルァ、ガオァグォ クゥオルアァウゥ?

(ボス、人間の雄が雌を取り合ってるの?)」


「ワゥウ、ガァオウァ クゥルファオウッ

(アックス、今はそんな季節じゃないわッ)」


やんわりとランサーが窘めるが、それはコボルト基準に過ぎないと教えておこう。


「……ガオァ ウォルグォオア (……人間はいつも発情期だ)」

「キュウッ!? (はぁッ!?)」


愕然とした表情で凍り付く彼女の回復を暫し待ち、ブレイザーが持ち帰った状況から推測される事態を皆に言及する。


「ガルゥ、ウォアガァオ ガルオォアァオウ

(恐らく、それは村が襲われているんだろう)」


「ワゥッ? ガオァオ ガルオォアウッ、グルァッ

(え? 人間の集落が襲われているのッ、ボスッ)」


何故か無関係な村の窮地にうろたえだすアックスに不穏なものを感じたのか、ミュリエルが俺の腕の毛を軽く引っ張ってきた。


「ち、ちょっとッ! どうしたの? アックス君が混乱しているけど」


地味に腕が痛いので、俺は手短に今の状況を教える。


ムラガ・オソワレテル


「えッ!? た、大変だよぅ! 助けないとッ!!」


「ガルウォオ、グルァ…… (どうする、大将……)」


問いかけながらもバスターの手は鞘に納めた大剣を撫でており、戦意が窺える。


だが、分の悪い戦いに友の命を懸けるわけにもいかない…… 中長期的に考えれば、集落に近い村を助けることで互いに良好な関係を築ける可能性があってもだ。


…… マズハ・ジョウキョウヲ・ミル


「で、でも、そんな村に置いていかれても困るよッ」


そりゃ、そうだろうな…… 野盗に襲われて、場合によっては死体の転がる村に放置されたら気まず過ぎる。しかし、全ては状況次第だ。


そう心に決めて、ブレイザーの先導で俺達は慎重にヴィエル村の入り口が見える位置まで移動する。そこでは頭目と思しき者を含め野盗が十九人、村の自警団五人、何故か亜麻色の長い髪の少女がいた。


どこか場違いな村娘に向かって野盗の頭目が怒鳴る。


「おいッ、お前ら何勝手に逃げてやがるんだよッ!!」


頭目の声に反応して手下の野盗たちが各々の武器を構えた。


「お前らぁ、痛い目を見せてやれッ」


「もういいッ、逃げるんだマリルッ!」

「ここは俺たちが食い止めッ、ぐあッ!?」


マリルを庇うように前に出た自警団員は野盗が持つフレイルの棘付き鉄球を腹に喰らってよろける。


「ひッ!?」


怯んで後退りする彼女の脚に向けて、側方に回り込んでいた野盗がスリングショットで鉛玉を放った。


「ッあ、痛いぃッ!」

「へッ、逃がすかよッ」


飛来する鉛玉はマリルの右脚に当たって彼女の動きを止める。痛みか若しくは恐怖により涙を滲ませる彼女に追い撃ちを掛けるため、再度スリングショットを構えた野盗の動きが不自然に停止して…… 唖然となった。


「え?あ、あれ、げほぉッ」


絶命した野盗の胸からは軽装鎧を貫通してロングソードが突き出ている。


「フッ、ガルグ ヴォオォアウッ (へッ、背中ががら空きだぜぇッ)」


少女を狙うために仲間から距離を空けて回り込んだ野盗の背後へと、気配を殺したブレイザーが音も無く接近し、刃を構えたまま身体ごとぶつかる形で相手の胸部を貫いていた。


そう、状況を判断したうえで俺たちはヴィエル村を助けることにしたのだ。


追加の武器や道具類も欲しかったところだしな…… 何より、無防備な背中を晒されるとコボルトとしての狩猟本能が抑えられない。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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