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気絶したフリは疑って然るべき?

「はッ、中々やるじゃないか!」

弓兵(アーチャー)殿もね!!」


思わぬ好敵手に口端を吊り上げて嗤い、仕切り直すために腕を重ねた近接状態から飛び退けば、ディークベル殿も同様にバックステップで距離を取る。


彼はその過程で身体をくるりと旋回させつつも、水属性の魔力を籠めた両腕を交互に振り抜き、僅かな時間差を持たせて連続する水弾を撃ち出した。


「ッ、器用な奴だ!」


飛来する二つの水弾をコボルト族に起因する優れた動体視力にて捕捉し、俺は左脚を踏み込ませて放った左拳で初弾を弾き、即座に腰を回して繰り出した右拳で次弾を叩き潰す。


さらに右脚を前に出して流れるような動作で距離を詰めるものの、彼も此方に踏み込んできており、カウンター気味に冷気を漂わせた右掌底が脇腹へ打ち出される。


「シッ!」

「悪くないなッ!!」


紙一重で半身となって躱し、打突が擦過した革鎧がパキパキと凍り付く音を聞きながらも、足元を凍らせようと忍び寄る冷気を風魔法で吹き飛ばし、鋭い反撃の右ボディーブローを叩き込んだ。


だが、動きを読んでいたディークベル殿は渾身の膝蹴りで旋風を纏う拳撃を相殺し、蹴り脚を降ろす動作に合わせ、素早い左ショートアッパーを此方の顎先(あごさき)目掛けて打ち放つ!


「せいッ!!」

「ぐうぅッ!?」


死角から迫る魔拳を後へ倒れ込むような宙返りで躱そうとするも、僅かに反応が遅れて殴られた箇所の皮膚が凍て付き、刺すような痛みと共に血の味が少し口腔へ広がった。


ただ、俺が後方宙返りに合わせて繰り出した半月蹴り(サマーソルトキック)も彼の顎先を穿っており、相打ちとなった状況で、打たれ強いと言えない準魔導士のディークベル殿が身体を傾げさせていく。


「う、ぅぁ…」


呻き声を漏らして強打に倒れながら、それでも彼は右腕を突き出して着地の隙を狙った水弾を撃ち出す。


「くぅッ…」


高圧縮された水塊が避け損ねた左太腿に直撃し、生じた鈍痛により一瞬だけ動きが阻害されてしまうが、既に屋根上へ身体を沈めた彼は意識を手放していた。


「大した根性だな…… 魔導士より前衛向きじゃないのか?」


軽快なステップと機先を制するような動きがブレイザーを彷彿とさせ、鍛錬の際に気絶したフリからの不意討ちで手酷くやられた事を思い返す。


「…………… 穿てッ、三連風弾!」


一応、本当に無力化できているかを確かめる為、威力を低減させた風弾を無造作に三発ぶち込んでおく。


「うぅッ、ぐ…あぅッ……ぶべ…」


問題はなさそうだが…… 意識を失った相手に鞭打つ行為に対し、何やら良心に引っ掛かるものを覚えて軽く頭を掻いた。


此処(ここ)に放置するのも拳を交えた者として気が引けるため、小さな呻き声を上げているディークベル殿を肩に担いで、風魔法の上昇気流で落下速度を調整しつつも護衛が待つ路地へふわりと降り立つ。


「ッ、貴様、よくもアズライト様を!!」

「止めておけ、あんたまで昏倒したら誰が面倒を見るんだ……」


責務を(まっと)うするつもりか、剣帯に吊るした得物の柄にまで手を添えた最後の護衛を片手で制し、ディークベル殿を路地の壁面にもたれ掛けさせた。


「後は宜しく頼む」


それだけ言い残して両脚に旋風を纏い、やや幅のある路地の両壁を交互に蹴り上げて再び屋根に戻ろうとすると、建物の張り出し部分から黒い影が飛び掛かる!


「クォン ワゥア~ン♪ (兄ちゃん発見~♪)」

「うぉあッ!?」


持ち前の跳躍力で子狐妹が身体にへばりついてきた事により、ややバランスを崩してしまったが…… 強引に二階の壁面を蹴り上げ、向かい側に建つ街酒場の屋根上に着地した。


「ぐおぁるう くぁう、くぅあお! (いきなりはやめろ、危ない!)」

「ン、ワォン (ん、分かった)」


気前よく返事をした妹が定位置である肩までよじ登るのを待ち、四肢を拘束する氷が解け始めていたレッサーバンクルの許まで、跳躍を織り交ぜて建物の上を移動する。


「フーッ、クゥウァアアッ!!」

「さて、待たせたな」


ベルトに通した革製バックパックから、ミュリエルに借りた魔獣捕獲用の革グローブを取り出し、()め換えて魔力を流す。


途端に魔導錬金で生み出されたミスリル繊維が燐光を放ち、柔軟性を残した上で過剰な強度がグローブへ付与され、野獣の爪牙(そうが)を通さない状態となった。


「無駄に素晴らしい逸品だな…… さすがエルネスタと言うべきか」


以前にミュリエルが野生のイタチを捕まえようとして手を噛まれた時、毒や病気のある魔獣などを心配した悪友に送られた戦闘用グローブとの事だ。


嵐の女神(セティオ)に愛された特級魔法の使い手として稀有(けう)な彼女ではあるが、本来の犬人姿で愛用しているミスリル製の仮面などを(かんが)みれば、そこらの魔道具職人よりも優秀なのかもしれない。


(……仲良くしておいて、損はないか)


などと打算的な事を考えた後、筒状に丸めて腰元へ吊るしていた麻縄織り袋を手に取って口紐を緩め、毛を逆立たせて威嚇してくるレッサーバンクルの首根っこを掴むが……


未だ四つ足が屋根ごと氷結しているために持ち上げられなかった。


「くぁんおぁん、ぐあぉぅ (狐火を頼む、ダガー)」

「グルゥ! (任せて!)」


肩上からするりと降りた子狐がポテっと尻餅を突き、先端だけ白い小さな両掌を突き出して、宙空にちょこんと紅蓮の焔を灯す。


「クルァア、クルァ~ウ (燃えろ、燃えろ~)」

「クウゥ!? クァアアッ」


フワフワと浮遊する狐火は小さな魔獣(レッサーバンクル)の周囲をゆっくりと旋回し、毛先を少々焦がしながらも氷塊を溶かしていく。


「よし、捕獲完了」


束縛から解放された事で小首を掴まれたまま足掻く獲物を麻縄袋へ放り込み、一度人気がない裏路地へ降りた後、俺たちは昼が近づいて賑わいを見せる雑踏の中に姿を紛らわせていった。

人物紹介


名称:アズライト・ディークベル(♂)

種族:人間

階級:準魔導士

技能:中級魔法(水・土) 近接複合格闘術 氷細工

   凍破 (氷結により道なき道を踏破する)

称号:氷結の魔法使い

武器:一級品の防寒グローブ & 防寒靴

武装:凝縮水素魔石 『剛力粉砕:写本』


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