大猿と巨大サソリ、そして其処にコボルト
行方不明の群れの雄を探しに出ている二匹のお話です。
一方、ヴィエル村の面々が集落を訪れていた頃、仲間の証言や僅かな痕跡から行方不明となった群れの雄二匹を捜索していた腕黒巨躯のバスター、犬人族の聖槍使いランサーはというと……
イーステリアの北部の特に木々が疎らな一帯で、身を伏せて茂みに隠れていた。
少し先の開けた場所では、全長2mに及ぶ事もある大猿型の魔物フォレスト・エイプが咆哮を上げ、体高1.2m以上で尻尾を含めた全長が3mを越える巨大サソリ型の魔物ギガ・スコルピウスと戦いを繰り広げている。
どちらが勝とうが関係なく、銀毛の友から群れを預かるバスターとしては狩場付近に危険な魔物をのさばらせる訳にいかない。
それに探索の甲斐なく弔う事になった同胞の亡骸から判断すれば、二匹を喰い散らかしたのは巨大サソリ型の魔物だろう。
(この手で仕留めないと気が済まねぇ……)
殺られた雄の片方は春先に父親となるはずだった。
奥歯を噛み鳴らせて犬歯をむき出し、強く大剣の柄を握り込みながら四肢に力を滾らせるバスターに対して、隣に伏せたランサーがそっと白毛の掌を添えて落ち着かせた。
彼女は手早く腕黒巨躯の幼馴染へハンドサインを送って念のために釘を刺す。
ヨワッタ・トコロ・シトメマショウ
ワカッテルゼ・ソレハ……
意図せずに少しだけ唸り声を上げていた自らを戒め、彼が二種類の魔物を睨み付けていると、一定の距離に離れていた大猿が低い姿勢から雄叫びと共に再度飛び掛かる。
「ガァアァアアァッ!」
「ギッ、ギギッ!?」
即座に反応した巨大サソリが硬い左鋏を掲げて速度の乗った重い殴打を受け止めるも、その右掌に握り込まれていた武器代わりの鉄鉱石が外骨格を砕いた。
さらに大猿は苦し紛れで突き出された右鋏をひらりと半身で躱し、地を這うが故に低い位置にある頭部へ太い左腕を叩き下ろす。
「ギッ、イ……ッ、ィイィイ!!」
瞬間的に動きを止める巨大サソリではあるが…… 僅かに尻尾を揺らし、迅雷の如き速度で尾針を標的目掛けて突き立てる!
「ウギィ!?」
紙一重で大猿が後ろに跳躍して難を逃れた直後、空気を裂く小さな音を鳴らして飛来した毒針が剛毛に覆われた太股を穿った。
「グッ、ガァアアァッ!」
鋭い痛みを気勢で打ち消そうとするものの、追い縋ってきた巨大サソリが旋回しながら渾身の力で右鋏を真横に振り抜く。
「ギギギィイィイ!!」
「ッ、ウギィイイッ」
咄嗟に蠍鋏の甲を片足で押し留め、攻撃の勢いも利用して飛び退いたところで即効性の麻痺毒に身体を犯された大猿は地面に片膝を突いてしまう。
「ウ、ガァ……ゥ……ッ」
「ギチ、ギチチッ!!」
よろけながら鉄鉱石を握り締めて立ち上がろうとするも、歓喜と共に撃ち出された巨大サソリの太い尾針に脈打つ心臓を貫かれて哀れな獲物の命脈は尽きた。
その刹那、流れ込む生命力により魂へ蓄積された命の根源たる力が限界を超え、巨大なサソリ型の魔物ギガ・スコルピウスの姿形が変わる。
体躯がやや大きくなり、その外骨格が硬質な光沢を増加させていく……
通称:アルマ・スコルピウス
種族:大蠍種
階級:装甲強化蠍 (脅威度C+)
技能:外殻防御 麻痺針射出 旋回打撃
初級魔法(土)
称号:大猿殺し
武器:尾針(主) 鋏(補)
武装:硬化外殻
だが、そんな事は腕黒巨躯の猟犬を怯ませる理由には微塵もならず、仇を自ら討てる状況に闘志を漲らせたバスターが横合いから大剣を肩に担いで吶喊する!
「ガゥルアァアアァアッ!! (斃れやぁああぁあッ!!)」
「ギィイイィイッ!?」
弱肉強食の闘争に勝ち残ったが故、油断のあった巨大サソリが慌てて大猿の胸を貫通させた尻尾を引き抜き、体躯の向きを転じて先ほど負傷した左鋏を翳すも、慣性のままに振り抜かれた一撃は止まらない。
「グゥルアアァッ!! (斬ッ!!)」
「ギ…ッ、ギィイィッ」
闘気の燐光を一瞬だけ迸らせた大剣と硬化外殻が激しく打ち合い、鉄鉱石で穿たれた左鋏の傷跡を大きく罅割れさせた。
損傷を深めながらも剣戟を防いだ巨大サソリが多脚で僅かに崩れかけた体勢を維持し、突然の襲撃者へ反撃の毒針を突き刺すために尻尾を振るう。
「ガゥアウゥッ! (喰らうかよッ!)」
硬い鋏との打突により弾かれた刃の反動をバスターが膂力で捻じ曲げ、筋肉を盛り上げさせた片腕一本で大剣を斜め上に振り抜いて蠍の尻尾を搗ち上げると、直後に射出された毒針は見当違いの方向へ飛んでいく。
その瞬間、死角に伏せて機を窺っていた犬人族の聖槍使いが疾走して、無防備な巨大サソリの横腹に脚力強化による速度を乗せた斬撃槍を突き刺した!
「クォッ!? (硬ッ!?)」
「ギ……ッ… ギギィイッ!!」
渾身の突撃は硬化外殻を砕くも、その過程で威力が減じられて致命傷とはなり得ない。されども損傷には違いなく、怒りを滾らせた巨大サソリが振り回した尻尾でランサーを横殴りにする。
「キャウゥッ! キュウ、ワファ!? (きゃうぅッ! 熱ッ、痛い!?)」
即座に後方跳躍して直撃を避けた彼女の腕が酷い擦過傷を受け、綺麗な白い毛並みに血がジワリと滲んでしまうが…… 不意を突いた強襲で巨大サソリの意識が大きく逸れた。
暫時の好機を逃さず、剣戟の間合いで再び大剣を上段に構えていたバスターが踏み入り、後ろ脚を引きながら腰を深く落として遠心力に自重を乗せた斬撃を見舞う!
読んでくださる皆様の応援で日々更新できております、本当に感謝です!
ブクマや評価などで応援してもらえると嬉しいです♪




