各国共通!ギルド式 - 魔物脅威度
俺たちはミュリエルの地図と方位磁針を頼りに草原の道なき道を行く。
彼女の持つ地図によると、ここは砂漠の国アトスの西方に位置するリアスティーゼ王国の東方、都市ウォーレンを中核としたフェリアス領になる。領内東部には俺たちの棲むイーステリアの森があり、さらに奥へと進めば先日目標とした山脈があった。
そこに向かう経路上では森の一部が色分けされており、髑髏マークがついている…… どうやらかつての俺たちは知らずに髑髏で示される危険区域 “バルベラの森” の中心部へ向かっていたようだ。
一応、俺たちの生活域に近いのでジェスチャーを用いてミュリエルに確認しておく。
(髑髏マークだしな……)
ミュリエル・ココハ?
「あ、私たちが出会った “バルベラの森” だね。そこはね、ランダムで周囲より脅威度が高い魔物が出るんだよ」
アノ・イワオオトカゲ・ミタイナ?
「うん、でね、中央に向かって行けば行くほど脅威度の高い魔物が出やすくなるの。脅威度Aのタイラントリザードを見た冒険者もいるって」
確か、魔物の脅威度はどこの国でも冒険者ギルドの尽力で基準が統一されていて、E ~ S の六段階で示される。さらに各段階が E- → E → E+ のように三分割されており、全十八階級の脅威度が存在していた。
それを定めたギルドの推奨に従えば、魔物の脅威度と対処可能な冒険者の組合せは以下の通りだ。
“鉄” → 脅威度E
“黒鉄”→ 脅威度D
“銀” → 脅威度C
“金” → 脅威度B
“白金”→ 脅威度A
“緋金”→ 脅威度S
ただし、脅威度Sの区分は青天井なので必ずしも “緋金” の冒険者で対応できるとも限らない。そもそも最高位に至った極少数の者たちは国家の干渉を受けるため、もはや自由が売りの冒険者とは言えず、まるで宮仕えの状態だ。
なお、先程ミュリエルが言っていたタイラントリザードは脅威度Aだから、“白金” の冒険者相当の実力がいる…… その辺りも確認しておくとするか。
ナァ・イマノオレタチ・ドノテイドダ?
「う~ん、君たちは個性的過ぎるからね…… 普通のコボルトが脅威度E+で、そこから1段階進化したコボルト・ファイターが脅威度D-なんだけど……」
ちらりと彼女は俺たちを見る。
そして俺とバスターを指さした。
「多分、正確に分かるのは君たちふたりね」
「「ワゥ?」」
「アーチャーは銀の体毛と魔法が使えるから、脅威度D+ のハイ・コボルトで、バスターが尻尾と発達した腕からすると、脅威度Dのコボルト・ウォリアーだね」
ん、俺はハイ・コボルトだったのか?
それでバスターがコボルト・ウォリアーだと……
大枠で脅威度Dに属するということは、俺もバスターも “黒鉄” の冒険者程度か…… 一番数が多いのがこの “黒鉄” だから、大抵の冒険者に現状でも対応できるわけだ。
とはいえ、俺の実感的には “銀” の冒険者と戦ってもそれなりに対応できそうなんだが……
「あっ、でも君たちは脅威度C+のロックリザードを倒しているし、体格からしてコボルトを逸脱してるから…… 普通の物差しでは測れないかも?」
マァ・シュウラクノ・コボルトモ・サガアルナ
あくまで判断基準のひとつに過ぎないということだ。
「後、ダガーやアックス、ブレイザーは分からないよ。立派な生物学者を志す者として悔しいけどね……」
ソウカ・ザンネンダ
ともかく、髑髏マーク付きの “バルベラの森” には近づくなと群れの皆に言っておこう。
「グルァッ、ガォウァアンッ (御頭ッ、そこまでだッ)」
「…… ガルゥアッ! (…… 来るぞッ!)」
先頭を行くバスターが大剣を肩に担いで振り下ろしの構えを取り、ブレイザーはロングソードを引き抜いて、その気配を限りなく薄くしていく。
二匹の視線の先、少し離れた斜め前方から草をかき分けて地を這ってくるのは甲虫型の魔物数匹だが、実際のところ大した脅威でもない。
「キシャアッ!!」
「グゥルアアァッ!(斬ッ!)」
速度を上げて接近し、2mほどの距離からこちらの喉、若しくは顔面そのものを狙って顎を開いて飛びかかる甲虫に対して、バスターが有無を言わさずに担いだ大剣を振り下ろす。
「ギッ!?」
その一撃は奇麗に甲虫を両断するが、直後に時間差でもう一匹の甲虫がやはりバスターの喉元を狙って飛び跳ねてくる。
「ガルォウ ヴォルァアゥ、ヴォアルァアッ
(相変わらず大振りだな、隙だらけだぜッ)」
「ギ……ッ、ギ…」
不意を突いたはずの甲虫は斜め側方からブレイザーに切り捨てられ、地面に落ちてもがく。
「フッ (ふッ)」
長身痩躯のコボルトは容赦なく、地に落ちた甲虫をぐしゃりと踏み潰す。一方、俺もこちらに狙いを付けて飛びかかる甲虫にショートソードを突き入れて串刺しにする。
「ギギィ…ッ……」
「ガゥッ! (せぃッ!)」
刃に刺さり、まさに虫の息となった甲虫を素早く剣を振り抜くことで払い、念のためブレイザーに倣って地に落ちたそれを踏み潰しておく。
なお、ランサーに至っては甲虫が飛び上がる前にその頭に槍を突き刺して地に縫い付けていた。そして、もう二匹ほど残っていた甲虫もいつもの如くアックスが出鱈目に振り回した戦斧の餌食になっている。
「はぁ~、やっぱり凄いね、君たちは…… ただのレッドインセクトとは言え、一瞬だよぅ。杓子定規にギルド式の魔物脅威度を当てはめるのは無理だね……」
そんなミュリエルの呟きを聞きつつ、俺たちはヴィエル村への移動を再開した。さて、ここは遮るものの少ない草原のため、もうそろそろ目的地が見えてきてもおかしくない頃合いだ。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。