わりと堅牢な女王蟻
後衛組が得物を構えて支援体制を取るのに同調し、肩を並べたエドガー隊とグレイス隊の前衛組が巨大蟻の群れ目掛けて斬り込んでいく。
「「だらぁああああッ!」」
「「「うぉおおぉッ!!」」」
気勢を上げて刃を振るう冒険者たちに混じり、地面に剣先を擦らせながらアレスが振り抜いた斬撃は兵隊種の大顎を搗ち上げ、素早く手首を返して繰り出された斬り落としが頭蓋を断つ。
「ギッ、ギィイ……ッ、アァ…」
「先ずは一匹ッ!!」
「あんまり、張り切ると怪我するぜっと!」
相棒を諫めるリベルトも足首を噛み切ろうと這い寄る巨大蟻の頭部を踏みつけ、露になった胸部との接合部を薙ぎ払って一匹を仕留めた。
近場で剣を振るうザックスやリーディと共にグラウ村からの連戦を経験しているため、二人とも手慣れてきている。
なお、敵方の左右から鉄槍を構えて吶喊した二個小隊の衛兵たちも負けじと奮戦しているが、巨大蟻たちも種族としての存続を懸けているために必死だ。
「ギィイシャアァァアァッ!!」
咆哮を上げた近衛種の大型ヴァリアントが上体を起こし、女王の傍から同胞を援護するために蟻酸の塊を吐き飛ばす。
「うぁ!? あぁあぁあァアァッ!!」
「うあぁ、熱いぃッ! あぁ、脚が溶けて……うぐッ、がふ…ッ」
運悪く蟻酸を頭から被った衛兵が絶叫を上げ、鎧を着ているにも関わらず身体を掻き毟りながら倒れてしまう。その斜め後方で巨大蟻を牽制していた衛兵も両脚を焼かれ、体勢を崩したところを襲い掛かる巨大蟻に噛み殺された。
同種の攻撃は冒険者たちにも向けられており、迫る兵隊種と対峙するアレスたちを狙って近衛種の一匹がおもむろに大顎を開く。
「ちょッ!?」
「うぉあッ!!」
咄嗟に飛び退いたリベルトはともかく、ギチギチと音を鳴らす大顎を長剣で押し留めていたアレスの反応が遅れるものの、然したる問題ではない。
俺は斜に構えた機械弓を引き絞り、僅かな衝撃でも暴発するように限界近くまで鏃へ魔力を籠めた矢を撃ち出す。
狙い通りに飛来する蟻酸の塊を射抜いた刹那、凝縮された風の魔力が弾けて強酸性の液体を吹き飛ばし、細かな飛沫が巨大蟻たちの外骨格を焼いた。
「「ッ、ギギィイ!?」」
「熱ッ、ちょっと掛かったじゃないか!」
「贅沢言うな、軽傷だろう」
斜め後方へ飛び退ってきたアレスと互いに軽口を叩き合う間にも、水の元素を凝縮した魔石を握り締めたミュリエルが右掌を翳し、追い縋ってきた兵隊種の巨大蟻を無数のアイスニードルで刺し貫く。
「ギ、シャア…ァ……アッ」
「二人とも、集中しないと危ないよぅ」
「あぁ、確かにそうだな」
一応、俺もアレスも状況の把握はしているが、真顔で注意されたので素直に頷き、そのまま蟻酸を撒き散らしている迷惑な近衛種の頭部を狙って弓を構え、エイナや後衛の魔術師たちの魔法攻撃に便乗して矢を射る。
「ギッ、ギギィイッ!!」
ただ、相手も素直に棒立ちしてくれるはずなく、身を低くして伏せた状態から土魔法を駆使して土砂の障壁を作り、周囲の個体に砂を被らせながらも攻撃の威力を減じた。
「だとしても、防戦一方とはいかないよなッ!!」
暫時の後、反撃に転じるために身を起した近衛種を狙って頭部へ三連射を撃ち出す!
「ちッ、最後は狙いがズレたかッ!」
「ギッ、ギィイッ!? ギァアァアァァアッ!!」
初射が通常種より堅牢な表皮を持つ眉間に浅く刺さり、鏃へ籠められた風の魔力を炸裂させて衝撃を与え、標的の頭部を揺らした事で二射目は硬い牙に当たってしまう。
その際も鏃に籠めた属性魔力が爆ぜて大顎を揺さ振り、結果的に狙いが外れたと思った三射目が柔らかい複眼を貫通して、頭蓋の内側で魔力を弾けさせて致命傷を負わせた。
「…… 結果よければ、全て良しッ!」
さくっと割り切って、斃れる近衛種の大型ヴァリアントから視線を外せば、鋭い鎌のような前脚に魔力を纏わせ、地面に振り下ろす女王蟻の姿が視界に飛び込む。
「ちぃッ!!」
「うきゃあッ!?」
地に喰い込んだ鎌脚から土属性魔力が放射状に伸びるのを察し、傍にいるミュリエルの腰を抱いて飛び退けば、足元の地面が隆起して太い土塊の槍三本が突き出した。
それは俺たちだけを狙った攻撃ではなく、衛兵隊や冒険者隊の立つ地面を隆起させて次々と土塊の槍を生じさせていく。
「うぐッ、あぁああッ……うぅ」
「かはッ、うぁ……ッ」
魔力察知が不得手な者たちの回避が遅れ、直下から飛び出した土塊の槍を避ける事ができず、数名が串刺しにされてしまう。
双方ともに被害が出始める状況の下、白煙へ紛れた第一小隊が果敢に距離を詰めて同胞の遺骸を盾にする巨大蟻どもへと射かけ、冒険者らを指揮するグレイス嬢は吐き出された蟻酸を多連装焔弾で吹き飛ばしながら近衛種の一匹を削り倒す。
その勢いに乗じてエドガー率いる前衛も数匹の巨大蟻を斬り倒し、後衛の魔術士たちが距離を詰めて女王蟻に攻撃魔法を撃ち放つが……
「ギィイイイィイィイッ!!」
金切り声を上げた女王の巨躯が淡い魔力光に染まり、直撃した氷弾や風刃などは燐光と外骨格の相乗的な防御効果で威力を減じられてしまった。
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